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2.一回目①
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伊沢蒼一郎は、大樹が通う西高校の三年生であり、生徒会長だ。
初めて知ったのは生徒会長選挙で、この高校にこんなイケメンがいるのかと、女子はもちろん大樹も心を鷲掴みにされた。
正直、伊沢がどう優秀な男かはどうでも良くて、投票は顔で選んだ。きっと他の女子も同じ気持ちだったに違いない。
アイドルに対するファン心理のようなもので、いつも遠目でしか見ることがないものの、学校行事で伊沢の姿を見ることを大樹は楽しみにしていた。
伊沢のイメージからはまったく想像できないが、伊沢がAOであんな妙な投稿をしたということなのだろうか。
出会い系サイトなんてものとは無縁と思っていたから意外だ。
「とりあえず、中に。姉から来客があると聞いている」
同じ高校の生徒だと分かったからか、伊沢の態度が少し崩れた。
憧れの生徒会長の家に邪魔すると思うと、さっきまでとは違う緊張が押し寄せる。伊沢の言葉に、大樹は閉じられていた門扉を開き中に入った。
姉がいるということは、どうやら伊沢はAOではないようだ。
つまり、今日の相手は伊沢ということになる。
伊沢は大樹が今、一番カッコイイと思っている男だ。
あの憧れの生徒会長と、と考えただけで一気に興奮の波が押し寄せる。
あわよくばセックスに展開するかも、という気持ちで持ってきたゴムが、肩に掛けた手提げバッグの中にある。それを思い出し、大樹の胸はさらに高鳴った。
お邪魔します、と挨拶して大樹は玄関へと足を踏み入れる。
伊沢のイメージから、勝手にシンプルできれいな家を想像していたが、玄関には内装には合わない大きな板などが雑然と置かれていた。何故こんな所に片付けもせずに置きっぱなしにされているのかと、大樹は少し不思議に思った。
完璧な生徒会長も、家では意外にそうでもないのかもしれない。
上がり框に座り大樹がスニーカーの靴紐を解いていると、背中から伊沢の声が聞こえた。
「姉がうちの生徒に知り合いがいるなんて、知らなかったな」
独り言のようだが関係を問うような言葉に、もしかして今日大樹がここに招かれた理由を、伊沢は知らないのではないかと気付いた。
それとも他に、弟と呼ぶ人間がいるのだろうか。
スニーカーを脱いで家に上がると、初めて伊沢と並んだ。
いつも壇上など遠くからしか見たことがなかったが、165センチに満たない身長の大樹よりも、わりと目線が高い。
伊沢の後に続いてホール横の扉を開けると、明るい雰囲気のLDKが大樹を迎えた。ダイニングテーブルの傍に女性がいるのが見え、大樹の顔を見て近づいてくる。
何故ホテルではなく自宅なのだろうと思っていた理由が、分かった。
女性は車椅子に座っていた。
「あなたがイツキくん? 今日はよろしくね」
肩まで伸ばした髪を揺らし女性がにこりと微笑む。
あんな投稿をしたとは思えない、上品な笑顔だ。それに、伊沢の姉というだけあって美人だ。
「あなたがAOさん?」
「え?」
伊沢の姉に問いかけた大樹に、傍にいた伊沢が訊ね返した。
その反応に、今度は大樹の方が訊き返したくなる。その様子に、ぷっと伊沢の姉が小さく笑った。
「ごめんなさい。私が弟の蒼一郎のことを、あおって呼んでるの。ややこしいから、私のことはみどりって呼んでちょうだい」
「あ、はい」
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。あお、お茶入れて差し上げて」
どうぞ、とダイニングテーブルの椅子を勧められ、戸惑いながら大樹が腰を下ろすと、みどりは大樹の向かい側に車椅子を移動させた。
出会い系サイトからの訪問なのに、自宅に招かれたせいか普通の客のように接されて変な感じだった。
初めて知ったのは生徒会長選挙で、この高校にこんなイケメンがいるのかと、女子はもちろん大樹も心を鷲掴みにされた。
正直、伊沢がどう優秀な男かはどうでも良くて、投票は顔で選んだ。きっと他の女子も同じ気持ちだったに違いない。
アイドルに対するファン心理のようなもので、いつも遠目でしか見ることがないものの、学校行事で伊沢の姿を見ることを大樹は楽しみにしていた。
伊沢のイメージからはまったく想像できないが、伊沢がAOであんな妙な投稿をしたということなのだろうか。
出会い系サイトなんてものとは無縁と思っていたから意外だ。
「とりあえず、中に。姉から来客があると聞いている」
同じ高校の生徒だと分かったからか、伊沢の態度が少し崩れた。
憧れの生徒会長の家に邪魔すると思うと、さっきまでとは違う緊張が押し寄せる。伊沢の言葉に、大樹は閉じられていた門扉を開き中に入った。
姉がいるということは、どうやら伊沢はAOではないようだ。
つまり、今日の相手は伊沢ということになる。
伊沢は大樹が今、一番カッコイイと思っている男だ。
あの憧れの生徒会長と、と考えただけで一気に興奮の波が押し寄せる。
あわよくばセックスに展開するかも、という気持ちで持ってきたゴムが、肩に掛けた手提げバッグの中にある。それを思い出し、大樹の胸はさらに高鳴った。
お邪魔します、と挨拶して大樹は玄関へと足を踏み入れる。
伊沢のイメージから、勝手にシンプルできれいな家を想像していたが、玄関には内装には合わない大きな板などが雑然と置かれていた。何故こんな所に片付けもせずに置きっぱなしにされているのかと、大樹は少し不思議に思った。
完璧な生徒会長も、家では意外にそうでもないのかもしれない。
上がり框に座り大樹がスニーカーの靴紐を解いていると、背中から伊沢の声が聞こえた。
「姉がうちの生徒に知り合いがいるなんて、知らなかったな」
独り言のようだが関係を問うような言葉に、もしかして今日大樹がここに招かれた理由を、伊沢は知らないのではないかと気付いた。
それとも他に、弟と呼ぶ人間がいるのだろうか。
スニーカーを脱いで家に上がると、初めて伊沢と並んだ。
いつも壇上など遠くからしか見たことがなかったが、165センチに満たない身長の大樹よりも、わりと目線が高い。
伊沢の後に続いてホール横の扉を開けると、明るい雰囲気のLDKが大樹を迎えた。ダイニングテーブルの傍に女性がいるのが見え、大樹の顔を見て近づいてくる。
何故ホテルではなく自宅なのだろうと思っていた理由が、分かった。
女性は車椅子に座っていた。
「あなたがイツキくん? 今日はよろしくね」
肩まで伸ばした髪を揺らし女性がにこりと微笑む。
あんな投稿をしたとは思えない、上品な笑顔だ。それに、伊沢の姉というだけあって美人だ。
「あなたがAOさん?」
「え?」
伊沢の姉に問いかけた大樹に、傍にいた伊沢が訊ね返した。
その反応に、今度は大樹の方が訊き返したくなる。その様子に、ぷっと伊沢の姉が小さく笑った。
「ごめんなさい。私が弟の蒼一郎のことを、あおって呼んでるの。ややこしいから、私のことはみどりって呼んでちょうだい」
「あ、はい」
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。あお、お茶入れて差し上げて」
どうぞ、とダイニングテーブルの椅子を勧められ、戸惑いながら大樹が腰を下ろすと、みどりは大樹の向かい側に車椅子を移動させた。
出会い系サイトからの訪問なのに、自宅に招かれたせいか普通の客のように接されて変な感じだった。
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