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25.伊沢の失恋①
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「はあ?」
大樹は思わず間抜けな声を出した。
大樹の胸元に拳を置き、伊沢は身を寄せるように拳に頭を乗せる。
「……」
大樹は言葉に詰まる。
いきなり何を言うかと思ったら、まさかあの状況で今まで振られていないつもりでいたのか。
いや、そんなことは伊沢も分かってはいたはずだ。きっと、何か決定打があったに違いない。
「話、聞きます。とりあえず、座りませんか」
大樹は自分たちが出てきた出入口の建物の壁を示した。
大樹がリュックを置いて壁に凭れて足を伸ばすと、少しして右側に伊沢が並んで座った。
話を促すように、大樹は伊沢を見る。
授業が始まることを告げるチャイムが鳴り響いた。
鳴り終えるのを待って、伊沢がゆっくりと喋り出した。
「金曜日、帰ったら知らない男が家にいた。いつも病院で姉のリハビリをしてくれている男らしい。……その男と、結婚すると言われた」
「え」
大樹は驚いて伊沢を見た。
伊沢は膝の間から覗くコンクリートの床を、真剣な表情で見ている。
「男が帰った後、もう要らないと言って、今まで描いた絵をすべて破られた……」
まるで絵と一緒に自身が捨てられたかのように、伊沢が辛そうな表情を浮かべる。
伊沢は大樹に顔を向けるとじっと目を見つめ、ぼそぼそと呟いた。
「こんなこと話せるのはお前しかいないから……」
電車や徒歩で通う生徒は正門を利用するが、自転車通学の生徒は駐輪場に近い東側の門を利用する。だから確実に捕まえられる教室前で待っていたのだろう。
だが、門の前に生徒会長がいても不自然ではないが、二年生の教室前にいるのはかなり違和感がある。おかげで大樹まで注目を浴びる羽目になってしまった。
理由はどうであれ、好きな人に会いたいと思ってもらえることは、素直に嬉しい。
辛い時に話を聞いて欲しいと、頼ってもらえているということだ。
月曜日の朝から待っていたということは、この週末ずっと大樹のことを考えていてくれたということでもある。
伊沢が言葉を続けた。
話を聞けば、みどりはリハビリ先の病院に勤務する男から、つい先日交際と結婚を同時に申し込まれたらしい。
相手はリハビリで励ますうちにみどりに愛情が芽生え、優しく接されることでみどりもその愛情を自然に受け入れたのだろう。
「おめでとうございます…?」
婚約したと聞けば素直に祝いの言葉が出てくるが、伊沢に関しては不適切な気もする。
予想通り、不満そうな表情を返された。
姉弟なんだから結果は分かってるくせに、どこか諦めが悪い男だ。
「姉弟なんだから、どうせ最初から無理に決まってるとでも言いたいんだろう」
心を読んだように伊沢に軽く睨まれ、思わず慌てる。
「え。だって、良かったじゃないですか。解放されるんだし!」
フォローするように言ってから、自分の言葉でその現実に気付いた。
みどりがもう絵を描く気がないということは、大樹はもう伊沢の家に訪問する必要がないということだ。
あんな行為から伊沢を解放してあげたいと思っていたくせに、伊沢に会う機会を失ってしまったことにショックを受けているなんて矛盾している。
恨みから解放されないみどりの行為はいつまでも続くのだと思っていた。
まさか、こんなにも突然に終わりが来るなんて、予想もしていなかった―――。
大樹は思わず間抜けな声を出した。
大樹の胸元に拳を置き、伊沢は身を寄せるように拳に頭を乗せる。
「……」
大樹は言葉に詰まる。
いきなり何を言うかと思ったら、まさかあの状況で今まで振られていないつもりでいたのか。
いや、そんなことは伊沢も分かってはいたはずだ。きっと、何か決定打があったに違いない。
「話、聞きます。とりあえず、座りませんか」
大樹は自分たちが出てきた出入口の建物の壁を示した。
大樹がリュックを置いて壁に凭れて足を伸ばすと、少しして右側に伊沢が並んで座った。
話を促すように、大樹は伊沢を見る。
授業が始まることを告げるチャイムが鳴り響いた。
鳴り終えるのを待って、伊沢がゆっくりと喋り出した。
「金曜日、帰ったら知らない男が家にいた。いつも病院で姉のリハビリをしてくれている男らしい。……その男と、結婚すると言われた」
「え」
大樹は驚いて伊沢を見た。
伊沢は膝の間から覗くコンクリートの床を、真剣な表情で見ている。
「男が帰った後、もう要らないと言って、今まで描いた絵をすべて破られた……」
まるで絵と一緒に自身が捨てられたかのように、伊沢が辛そうな表情を浮かべる。
伊沢は大樹に顔を向けるとじっと目を見つめ、ぼそぼそと呟いた。
「こんなこと話せるのはお前しかいないから……」
電車や徒歩で通う生徒は正門を利用するが、自転車通学の生徒は駐輪場に近い東側の門を利用する。だから確実に捕まえられる教室前で待っていたのだろう。
だが、門の前に生徒会長がいても不自然ではないが、二年生の教室前にいるのはかなり違和感がある。おかげで大樹まで注目を浴びる羽目になってしまった。
理由はどうであれ、好きな人に会いたいと思ってもらえることは、素直に嬉しい。
辛い時に話を聞いて欲しいと、頼ってもらえているということだ。
月曜日の朝から待っていたということは、この週末ずっと大樹のことを考えていてくれたということでもある。
伊沢が言葉を続けた。
話を聞けば、みどりはリハビリ先の病院に勤務する男から、つい先日交際と結婚を同時に申し込まれたらしい。
相手はリハビリで励ますうちにみどりに愛情が芽生え、優しく接されることでみどりもその愛情を自然に受け入れたのだろう。
「おめでとうございます…?」
婚約したと聞けば素直に祝いの言葉が出てくるが、伊沢に関しては不適切な気もする。
予想通り、不満そうな表情を返された。
姉弟なんだから結果は分かってるくせに、どこか諦めが悪い男だ。
「姉弟なんだから、どうせ最初から無理に決まってるとでも言いたいんだろう」
心を読んだように伊沢に軽く睨まれ、思わず慌てる。
「え。だって、良かったじゃないですか。解放されるんだし!」
フォローするように言ってから、自分の言葉でその現実に気付いた。
みどりがもう絵を描く気がないということは、大樹はもう伊沢の家に訪問する必要がないということだ。
あんな行為から伊沢を解放してあげたいと思っていたくせに、伊沢に会う機会を失ってしまったことにショックを受けているなんて矛盾している。
恨みから解放されないみどりの行為はいつまでも続くのだと思っていた。
まさか、こんなにも突然に終わりが来るなんて、予想もしていなかった―――。
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