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26.伊沢の失恋②
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「それはそうだけど…」
「………」
「…イツ…、志賀?」
動揺を隠せずに黙り込んだ大樹を、初めて伊沢が名で呼ぶ。
告白して振られたが、ようやく名前を覚えてもらった。その途端に関係が終わるなんて思いもしなかった。
もしかしたら、今こうして会うのが最後になるのかもしれない。
好きだと気付いて告白して振られ、その直後に別れがくるなんて、急展開すぎてショックやら悲しいやらついていけない。
気持ちを切り替えるように大樹は小さく息を吐いて、伊沢を見た。
「俺にも仲いい姉がいるんですけど、たまに凄く機嫌悪くなるんです。まぁ、だいたい何かよく分からない理由なんですけど。そんな時は、姉の好きそうな本やケーキを買って帰るんです。そしたら機嫌直っちゃうんです」
突然姉の話を始めた大樹に、伊沢は理由が分からないまま黙って耳を傾けている。
「女なんてそんなもんなんです。いつも優しくしてくれている男に好きだ結婚してほしいなんて言われたら、そりゃたまらないですって。それまで機嫌悪かったのなんて、どうでもよくなっちゃいますよ」
みどりは、もう普通の生活ができず、普通の女性のような幸せを得られないと思っていただろう。だから、自分を普通の女性のように見てくれる男に惹かれた。
みどりも不安を抱えて辛かったのだから、目の前の幸せにぐらつくのは仕方がない。
そして伊沢に対し、恨みを晴らすような行為はもう必要がないと考えた。
絵を破ったということは、そういうことだ。
「女って、男と違って切り替え早いんですよ」
そういう意味では、みどりと伊沢は分かりやすいくらいに対照的だ。
「そうか……」
伊沢はぽつりと呟き、黙り込んだ。
きっと、色々なことを思い出したり考えたりしているのかもしれない。
どうせ叶わない恋だったのだから、みどりから解放されることをプラスに受け止めればいい。
みどりの障がいに対する原因を作ったことへの罪が消えるわけではないが、みどりが幸せになれば、こうならなければ彼との出会いもなかったと思ってくれるかもしれない。
当人たちではないから、大樹はそんな風に安易に考えてしまうのかもしれないけれど。
伊沢は大きく息を吐いた。ずっと張りつめていた気持ちがようやく緩んだのか、ぼんやりと空を見上げる。
「なんか、気が抜けた……」
しばらくして俯き身じろぎしたかと思うと、伊沢は体を倒し大樹の膝の上にぽてんと頭を乗せた。くるりと体を反転させ仰向けになる。息を吐き、完全に体の力を抜いて寝転がった。
突然の行動に、大樹は面食らう。
初めて経験する膝枕であると同時に、伊沢から近づくようなことをするとは思いもせず、驚いた。
「少し落ち着いた。ありがとう」
大きく深呼吸し、膝の上から見上げてくる伊沢は、表情が和らいでいる。
こんなことをするくらいなのだから、よほど気持ちが楽になったのだろう。
大樹もほっとした。
「………」
「…イツ…、志賀?」
動揺を隠せずに黙り込んだ大樹を、初めて伊沢が名で呼ぶ。
告白して振られたが、ようやく名前を覚えてもらった。その途端に関係が終わるなんて思いもしなかった。
もしかしたら、今こうして会うのが最後になるのかもしれない。
好きだと気付いて告白して振られ、その直後に別れがくるなんて、急展開すぎてショックやら悲しいやらついていけない。
気持ちを切り替えるように大樹は小さく息を吐いて、伊沢を見た。
「俺にも仲いい姉がいるんですけど、たまに凄く機嫌悪くなるんです。まぁ、だいたい何かよく分からない理由なんですけど。そんな時は、姉の好きそうな本やケーキを買って帰るんです。そしたら機嫌直っちゃうんです」
突然姉の話を始めた大樹に、伊沢は理由が分からないまま黙って耳を傾けている。
「女なんてそんなもんなんです。いつも優しくしてくれている男に好きだ結婚してほしいなんて言われたら、そりゃたまらないですって。それまで機嫌悪かったのなんて、どうでもよくなっちゃいますよ」
みどりは、もう普通の生活ができず、普通の女性のような幸せを得られないと思っていただろう。だから、自分を普通の女性のように見てくれる男に惹かれた。
みどりも不安を抱えて辛かったのだから、目の前の幸せにぐらつくのは仕方がない。
そして伊沢に対し、恨みを晴らすような行為はもう必要がないと考えた。
絵を破ったということは、そういうことだ。
「女って、男と違って切り替え早いんですよ」
そういう意味では、みどりと伊沢は分かりやすいくらいに対照的だ。
「そうか……」
伊沢はぽつりと呟き、黙り込んだ。
きっと、色々なことを思い出したり考えたりしているのかもしれない。
どうせ叶わない恋だったのだから、みどりから解放されることをプラスに受け止めればいい。
みどりの障がいに対する原因を作ったことへの罪が消えるわけではないが、みどりが幸せになれば、こうならなければ彼との出会いもなかったと思ってくれるかもしれない。
当人たちではないから、大樹はそんな風に安易に考えてしまうのかもしれないけれど。
伊沢は大きく息を吐いた。ずっと張りつめていた気持ちがようやく緩んだのか、ぼんやりと空を見上げる。
「なんか、気が抜けた……」
しばらくして俯き身じろぎしたかと思うと、伊沢は体を倒し大樹の膝の上にぽてんと頭を乗せた。くるりと体を反転させ仰向けになる。息を吐き、完全に体の力を抜いて寝転がった。
突然の行動に、大樹は面食らう。
初めて経験する膝枕であると同時に、伊沢から近づくようなことをするとは思いもせず、驚いた。
「少し落ち着いた。ありがとう」
大きく深呼吸し、膝の上から見上げてくる伊沢は、表情が和らいでいる。
こんなことをするくらいなのだから、よほど気持ちが楽になったのだろう。
大樹もほっとした。
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