セマイセカイ

藤沢ひろみ

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31.みどりへの宣言②

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 突然の大樹の宣言に、伊沢がぎょっとした。

「えっ?」
 みどりは驚いた顔で、大樹と伊沢を交互に見た。

「姉さん、違うから。おい、何いきなり変なこと言い出すんだ」
 伊沢が頬を赤くして大樹を睨む。
 何が違うのかは分からないが、伊沢はまるで浮気が見つかった男のような反応で慌てていた。

 何となく、みどりに言っておきたい気がした。
 宣言することで、過去のことに気兼ねせず伊沢とも堂々と会えると思った。
 だから、みどりに告げることで大樹はすっきりとした気持ちになった。

「ふぅん……。そうなの」
 みどりはじぃっと伊沢を見つめ、それから大樹を見る。

「いいわよ。付き合っても」

「え!?」
「は!?」
 大樹と伊沢は驚きの目でみどりを見返した。何故か含みのあるような笑みを浮かべている。

「な、何言ってるんだ、姉さん」

 別にみどりに交際の許可を貰いにきたわけでもないが、何故か当人でもないみどりから交際の許しを得る。

 とりあえずノリで、大樹は子供のように両手を挙げて喜びを表してみた。
「わーい。やったー」
「おい、便乗するなっ」
 伊沢が、大樹とみどりを交互に見る。一人慌てている伊沢が、少し面白いくらいだ。

 みどりはゆったりと微笑む。
 以前が我儘なお姫様の可愛らしい笑みだとしたら、今は女王様のような悠然とした笑みだ。

 もう伊沢は解放されたのだと思ったが、まさか最後の復讐のつもりで、男と付き合えと言っているのだろうか。
 しかし、みどりの様子を見ていると機嫌は良さそうだ。単に面白がっているだけかもしれない。

 インターホンが鳴り、みどりが玄関の方を振り向いた。
「彼が迎えに来たみたい」

 みどりは自らインターホンの受話口まで車椅子で移動した。少し話をし、二人を振り返る。
「じゃあ、私出掛けるわ。イツキくん、今日はありがとう。ゆっくりしていってね」

 車椅子を外に出すため、伊沢がみどりの後をついて部屋を出ていく。大樹も後ろをついて行った。
 玄関扉を開けると、三十歳くらいの男が立っていた。みどりとは随分年が離れていて、真面目で優しそうな男だ。

 男はみどりを抱き上げると、家の前に停めた車の助手席にみどりを運んだ。伊沢は車のトランクに車椅子を乗せる。
 大樹は何をできるわけでもなく、男が会釈して車が去るのをただ見ていただけだった。



 みどりが出掛けたので、二人きりになった。
 一緒に部屋に戻り、ふとソファに視線がいく。そこにはあまりいい思い出がない。

 隣の伊沢を見たら同じことを考えていたようで、少し居心地が悪そうな顔をした。

「俺の部屋でも、行くか?」

 思わず顔がぱぁっと喜びに満ちた表情になるのが自分でも分かるくらい、感情が出てしまった。
 大樹は大きく頷いた。
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