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32.付き合うことになりました①
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階段を上がり、二階にある一室に案内される。
まさか、伊沢の部屋に入れるなんて、思いもしていなかった。
大樹はそわそわとしながら、伊沢の部屋に足を踏み入れた。
部屋は洋室で、伊沢からイメージできる通り、きれいに片付いた余計なものが置かれていない部屋だった。
本が詰まった本棚と、参考書などが置かれた勉強机。その上にはノートパソコンが置かれている。クローゼットの前にはベッドがあり、シーツもきれいに伸ばされていた。布団をくしゃくしゃにしたまま出てきた大樹とは大違いだ。
勉強机の上の参考書にふと目を止め、大樹は手に取った。
「これ、大学入試の…?」
伊沢は三年生だ。ただでさえ学年が違うから会えるのは少ないというのに、来年の春には卒業してしまう。その現実を突きつけられた。
「大学はどこ行くんですか?」
伊沢のように優秀な人間なら、国立などいくらでも上の大学を狙える。地元を離れて、有名大学に進学するのかもしれない。
そうなると本当に会えなくなってしまう。かといって、大樹には追いかけるほどの高い偏差値はない。
「別に、拘りがないから普通に地元の大学だ」
「……」
みどりから離れたくなくて地元を選んだというのが拘りなのでは、と思ったが大樹は口にしなかった。
大樹に分からないとでも思っているのかと、内心呆れる。
参考書をぱらりとめくり中身を見て、苦い顔をして大樹はページを閉じた。
来年には大樹も、こうして勉強をしなければならないのかと思うと憂鬱だ。
机の上に参考書を戻した大樹を見て、伊沢がぽつりと話し出した。
「姉さんを大学中退させておいて自分が行くわけにはいかないと、最初は進学しないつもりだったんだ。でも、姉さんからも大学に行くように勧められたから……。先生からも何度も大学進学を勧められて、最近やっと……進学することに決めた」
罪の意識から、進学を諦めて苦悩する伊沢の姿が思い浮かぶ。大学に進学できることになって、良かった。
大樹はほっとしたような表情で伊沢を見た。
「……まあ、そんなわけだ」
視線が合った伊沢は、自分からそんな話をしたことに気付き、少し戸惑いの表情を浮かべた。
机の前に立ったままでいると、適当に座れと言われたので、大樹は部屋を見回してから奥のベッドに腰を下ろす。
伊沢が勉強机の椅子に座ろうとしたので、大樹はベッドの自分の座る右側をぽんぽんと叩き、伊沢を呼んだ。
少し躊躇いを見せてから、伊沢は大樹の隣に腰を下ろした。
つい先日も、こうして隣に座って伊沢と話をした。
あの日は教室に戻ると、生徒会長に連れて行かれるなんていったい何をやらかしたんだと、皆に問い詰められて大変だった。
まさか伊沢の部屋でまた並んで座ることがあるなんて、あの時は思いもしていない。
二人の間に沈黙が流れる。
好きな人の部屋にいるということで大樹はそわそわしていたが、伊沢もどこか少し落ち着きがない様子だ。
さっきのみどりの発言のせいかもしれない。
だが、大樹も浮かれてばかりいるわけではなく、緊張していた。
その沈黙は悪いものではなく、妙に気持ちを高揚させた。
まさか、伊沢の部屋に入れるなんて、思いもしていなかった。
大樹はそわそわとしながら、伊沢の部屋に足を踏み入れた。
部屋は洋室で、伊沢からイメージできる通り、きれいに片付いた余計なものが置かれていない部屋だった。
本が詰まった本棚と、参考書などが置かれた勉強机。その上にはノートパソコンが置かれている。クローゼットの前にはベッドがあり、シーツもきれいに伸ばされていた。布団をくしゃくしゃにしたまま出てきた大樹とは大違いだ。
勉強机の上の参考書にふと目を止め、大樹は手に取った。
「これ、大学入試の…?」
伊沢は三年生だ。ただでさえ学年が違うから会えるのは少ないというのに、来年の春には卒業してしまう。その現実を突きつけられた。
「大学はどこ行くんですか?」
伊沢のように優秀な人間なら、国立などいくらでも上の大学を狙える。地元を離れて、有名大学に進学するのかもしれない。
そうなると本当に会えなくなってしまう。かといって、大樹には追いかけるほどの高い偏差値はない。
「別に、拘りがないから普通に地元の大学だ」
「……」
みどりから離れたくなくて地元を選んだというのが拘りなのでは、と思ったが大樹は口にしなかった。
大樹に分からないとでも思っているのかと、内心呆れる。
参考書をぱらりとめくり中身を見て、苦い顔をして大樹はページを閉じた。
来年には大樹も、こうして勉強をしなければならないのかと思うと憂鬱だ。
机の上に参考書を戻した大樹を見て、伊沢がぽつりと話し出した。
「姉さんを大学中退させておいて自分が行くわけにはいかないと、最初は進学しないつもりだったんだ。でも、姉さんからも大学に行くように勧められたから……。先生からも何度も大学進学を勧められて、最近やっと……進学することに決めた」
罪の意識から、進学を諦めて苦悩する伊沢の姿が思い浮かぶ。大学に進学できることになって、良かった。
大樹はほっとしたような表情で伊沢を見た。
「……まあ、そんなわけだ」
視線が合った伊沢は、自分からそんな話をしたことに気付き、少し戸惑いの表情を浮かべた。
机の前に立ったままでいると、適当に座れと言われたので、大樹は部屋を見回してから奥のベッドに腰を下ろす。
伊沢が勉強机の椅子に座ろうとしたので、大樹はベッドの自分の座る右側をぽんぽんと叩き、伊沢を呼んだ。
少し躊躇いを見せてから、伊沢は大樹の隣に腰を下ろした。
つい先日も、こうして隣に座って伊沢と話をした。
あの日は教室に戻ると、生徒会長に連れて行かれるなんていったい何をやらかしたんだと、皆に問い詰められて大変だった。
まさか伊沢の部屋でまた並んで座ることがあるなんて、あの時は思いもしていない。
二人の間に沈黙が流れる。
好きな人の部屋にいるということで大樹はそわそわしていたが、伊沢もどこか少し落ち着きがない様子だ。
さっきのみどりの発言のせいかもしれない。
だが、大樹も浮かれてばかりいるわけではなく、緊張していた。
その沈黙は悪いものではなく、妙に気持ちを高揚させた。
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