セマイセカイ

藤沢ひろみ

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43.愛してる②

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 伊沢は少し言いにくそうに口ごもった。
「男のくせに、恥ずかしい声が出てる自覚があるから、積極的になれなくて……。そういうタイプの人間でもないし、自分からベタベタするとか……苦手なんだ。でも、ちゃんと求める気持ちはあるから。……上手く伝えられなくて悪かった」
「蒼一郎……」

 伊沢がベッドの上で身を起こす。
「こういうの、滅多にしないからな」

 言い置いてから、大樹自身に手を添えその形を高めると、伊沢は大樹の腰に跨り上から腰を落とした。
「ん……っ」
 大樹から体位を変えて伊沢を上に乗らすことはあったが、伊沢からしてきたことはない。大樹は驚いた。

 最初はゆっくりと、次第に腰を上下に動かす速度を速めていく。
「あ、はぁ……っ」
「蒼一郎、気持ちいい……」
 淫らに腰を振る伊沢の姿に煽られる。
 伊沢が動くたびに、シャツとベストがゆらゆらと扇情的に揺らめいた。

 もっと自分から腰を動かして突き上げたい衝動に駆られたが、伊沢が自ら求めてくれているのだからと、大樹ははやる気持ちを抑える。

「これ、大樹のが……奥まで当たって…っ、気持ち……いい」

 普段そんなことを言わないくせに、大樹が不安がるから気持ちを伝えようとしてくれているのか、伊沢が素直に感じていることを言葉にする。

 大樹なら、それよりもっと奥まで激しく突いてあげられるのに。大樹はぐっと堪える。
「いつも、最中はそんなふうに思ってくれてるの?」
「………」
 伊沢の動きが一瞬止まる。

 視線を逸らせると消えそうな声で、少しだけ思ってる…と返ってきた。

 優等生然とした伊沢がそんなエロいことを考えてるんだと思うと、興奮せずにいられない。
 人は見かけによらないという言葉は、伊沢にたくさん当てはまった。

「蒼一郎……。もう、イキそう……」
「出せばいい」
「ダメだって……。今日、ゴムしてない」

 止めたのに、伊沢が腰を動かすのを止めないので、大樹は我慢できずに初めて伊沢の中に吐精した。伊沢は達さず、悔しいことに大樹だけがイカされた。

 自ら上に跨り動いて疲れたのか、大樹のものを挿れたまま伊沢は腰の上に座り込んだ。荒い呼吸のまま、大樹を見下ろしてくる。

「俺としかしてないんだから、大丈夫だろ」
「そうだけど……」

 あくまでセーフセックスという意味では、だ。

「中で出したら、後始末大変だってこと知らないだろ」
 大樹の言葉に、えっと伊沢が声を上げる。
「そういうことは、先に言えっ」

「だから止めたのに」
 男は大樹しか知らないせいで、伊沢はそういった知識がない。
 せっかく大樹が止めたのに、頑張るからだ。

 どうしようと伊沢が困った表情を浮かべる。
 でも、一度中に出してしまったのなら、一度も二度も同じことだ。

 大樹は伊沢の腰を掴むと、下から腰を突き上げた。
「あっ、ちょ……っ」
 伊沢が抗議の声を漏らす。

 中に出したものが抽挿するたびに漏れ出し、淫猥な音を立てる。
「あ、あっ、まだ……っ」
 呼吸も落ち着いていないうちから腰を揺すられて、伊沢が上体を崩す。

 大樹は倒れそうになる伊沢を支え、自身を引き抜くと伊沢をベッドに横たえた。
 伊沢がぐったりとしたまま、まだするつもりかと言いたげに見上げる。
 シャツから覗く胸元や鎖骨に、そして唇へとキスをしていく。

「蒼一郎、愛してる」

 今度は自然に、言葉にできた。
 へへっと大樹は少し照れ笑いする。

「……うん」
 受け止めるように、柔らかい笑みで伊沢が応えた。
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