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46.大樹の恋人②
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二週間後の日曜日の昼過ぎ、伊沢が大樹の家を訪れた。
「初めまして。伊沢蒼一郎といいます。大樹くんと、お付き合いをさせていただいています」
玄関先で大樹の隣に立つと、伊沢は丁寧に頭を下げて挨拶した。
大樹にとっても伊沢にとっても、みどり以外に関係を告げるのは初めてだった。
関係を公表するだけでも緊張するのに、男と付き合っていることを言ったら大樹の家族に嫌がられるんじゃないだろうかと、伊沢は不安に感じているようだった。
けれど、大樹のために訪問することを了承してくれた。
スーツで行くべきだろうかと訊ねた伊沢に、結婚の挨拶じゃないんだからと大樹は笑ってしまった。
伊沢なら、普段の格好でも十分印象がいい。
つまらないものですが、と伊沢が差し出した手土産を受け取ることもせず、出迎えた母と美代は目と口を大きく開けて伊沢を見ていた。
彼女が来ると思っていたら彼氏が来たのだから、当然の驚きだ。
「……信じられない」
美代が両手で口元を覆い、ようやく言葉を発した。
その目はきらきらと輝いている。
「超イケメンなんですけど…! ヤバい!」
今度は伊沢が驚きでぽかんとする。
「あんたみたいな普通の子が、よくこんなイケメン捕まえたわね。凄いじゃない」
「大樹に勿体なすぎでしょ!」
母と姉の反応に、大樹は伊沢と目を合わせた。
男と付き合っていると言われたら、家族ならゲイなのかと驚いたりショックを受けるはずだ。
だが、反応が斜め上をいっている。
相手のクオリティが高すぎると、そんなことすら気にする次元ではないのだろうか。明らかに歓迎されていた。
伊沢は美代に手を引かれ、リビングへと案内された。美代は完全に舞い上がっていた。
彼女が来るものだと思って、さりげなくテレビ前のソファで新聞を読んでいた父が、伊沢を見て驚愕する。
それが普通の反応だと思った。
母と美代は、完全に伊沢の虜になっていた。
二人から繰り出される質問に、伊沢はいつものように丁寧に対応してくれた。
「大樹の高校の生徒会長だったの? あんた、そういうの好きそうよねぇ」
美代がにやにやと笑いながら大樹を見た。
大樹が読む少女漫画は、美代に借りている。大樹の好みは分かっていると言わんばかりの顔だ。
「頭も良くて顔も良くて、就職先も手堅いし……。非の打ち所がないこんなイケメンが大樹と付き合ってるなんて、ホント信じられないわ」
何度も比較され、しつこいと大樹は美代を睨むことになった。
「え。ゲイじゃないの? じゃあ、私、どうですか?」
「え? あの……」
美代に手を握られ、伊沢が困惑する。
美代のことだから冗談と思いたいが、少し本気でもありそうで怖い。弟の恋人を誘惑するなんて、何を考えているんだと呆れた。
「姉ちゃん。蒼一郎は俺の恋人なんだからな」
「まあまあ、いいじゃない、大樹。こんなにカッコいいんだから、一目惚れしちゃうわよ」
「母さんまで……」
何がいいんだと、大樹は溜め息をついた。
家族に非難されていないだけマシだと思うべきか。複雑な心境だった。
そして、母と美代は、始終伊沢を離さなかった。
自分の部屋に誘おうと思い、昨日から部屋の掃除をしていたにも関わらず、結局大樹は自分の部屋に伊沢を連れて行くことができなかったのだった。
「初めまして。伊沢蒼一郎といいます。大樹くんと、お付き合いをさせていただいています」
玄関先で大樹の隣に立つと、伊沢は丁寧に頭を下げて挨拶した。
大樹にとっても伊沢にとっても、みどり以外に関係を告げるのは初めてだった。
関係を公表するだけでも緊張するのに、男と付き合っていることを言ったら大樹の家族に嫌がられるんじゃないだろうかと、伊沢は不安に感じているようだった。
けれど、大樹のために訪問することを了承してくれた。
スーツで行くべきだろうかと訊ねた伊沢に、結婚の挨拶じゃないんだからと大樹は笑ってしまった。
伊沢なら、普段の格好でも十分印象がいい。
つまらないものですが、と伊沢が差し出した手土産を受け取ることもせず、出迎えた母と美代は目と口を大きく開けて伊沢を見ていた。
彼女が来ると思っていたら彼氏が来たのだから、当然の驚きだ。
「……信じられない」
美代が両手で口元を覆い、ようやく言葉を発した。
その目はきらきらと輝いている。
「超イケメンなんですけど…! ヤバい!」
今度は伊沢が驚きでぽかんとする。
「あんたみたいな普通の子が、よくこんなイケメン捕まえたわね。凄いじゃない」
「大樹に勿体なすぎでしょ!」
母と姉の反応に、大樹は伊沢と目を合わせた。
男と付き合っていると言われたら、家族ならゲイなのかと驚いたりショックを受けるはずだ。
だが、反応が斜め上をいっている。
相手のクオリティが高すぎると、そんなことすら気にする次元ではないのだろうか。明らかに歓迎されていた。
伊沢は美代に手を引かれ、リビングへと案内された。美代は完全に舞い上がっていた。
彼女が来るものだと思って、さりげなくテレビ前のソファで新聞を読んでいた父が、伊沢を見て驚愕する。
それが普通の反応だと思った。
母と美代は、完全に伊沢の虜になっていた。
二人から繰り出される質問に、伊沢はいつものように丁寧に対応してくれた。
「大樹の高校の生徒会長だったの? あんた、そういうの好きそうよねぇ」
美代がにやにやと笑いながら大樹を見た。
大樹が読む少女漫画は、美代に借りている。大樹の好みは分かっていると言わんばかりの顔だ。
「頭も良くて顔も良くて、就職先も手堅いし……。非の打ち所がないこんなイケメンが大樹と付き合ってるなんて、ホント信じられないわ」
何度も比較され、しつこいと大樹は美代を睨むことになった。
「え。ゲイじゃないの? じゃあ、私、どうですか?」
「え? あの……」
美代に手を握られ、伊沢が困惑する。
美代のことだから冗談と思いたいが、少し本気でもありそうで怖い。弟の恋人を誘惑するなんて、何を考えているんだと呆れた。
「姉ちゃん。蒼一郎は俺の恋人なんだからな」
「まあまあ、いいじゃない、大樹。こんなにカッコいいんだから、一目惚れしちゃうわよ」
「母さんまで……」
何がいいんだと、大樹は溜め息をついた。
家族に非難されていないだけマシだと思うべきか。複雑な心境だった。
そして、母と美代は、始終伊沢を離さなかった。
自分の部屋に誘おうと思い、昨日から部屋の掃除をしていたにも関わらず、結局大樹は自分の部屋に伊沢を連れて行くことができなかったのだった。
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