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47.大樹の恋人③
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夕方になり、母が寿司を取ろうと言い出したので、それをきっかけに大樹は伊沢を連れて逃げ出した。
「また来てね、伊沢くん。今度はもっとゆっくりしていってちょうだい」
「ありがとうございます」
「大樹のこと、末永くよろしくね」
見送る母と姉が、残念そうに伊沢に手を振る。
まるで大樹のために言っているように聞こえるが、明らかに自分たちが末永くよろしくしたいという私情が入っていることは明らかだった。
バス停までの道を伊沢と並んで歩きながら、大樹は溜め息をついた。
「疲れただろ? ごめんな。姉ちゃんたち、はしゃいじゃって」
母と姉に絡まれる伊沢を見ていて気持ちが落ち着かず大樹は疲れたが、絡まれていた伊沢自身はさらに疲れているだろう。
いや、と伊沢が首を横に振る。
「賑やかな家族だな。こんな環境で育ったから、大樹はこんななんだなぁって……」
思い出すように、伊沢が口元を緩めた。
「それに、男の恋人に対して嫌な顔一つされなくて驚いた。優しい家族だな」
伊沢が一番気にしていたことだ。それについては、大樹も驚いたので頷く。
「ただミーハーなだけだよ」
呆れたように大樹が笑うと、伊沢も小さく笑った。
バス停までの十五分ほどの距離とバスを待つ間が、二人きりの時間だった。
バスに乗った伊沢を見送ると、大樹は家に帰った。
客の手前悪いことは言われなかったが、帰ったら家族会議が始まるのではないだろうか。
少し不安に感じながらリビングに入ると、テーブルの上に大きな寿司桶が置かれていて、大樹は思わず驚く。
てっきり、客もいるため出前の寿司を頼むと言い出したのだとばかり思ったからだ。
「あ、おかえり。ちょうどさっきお寿司来たわよ」
「え? 本当に頼んだの?」
「だって、大樹に初めて恋人ができたお祝いだもの」
そもそも初めての恋人でもないしと内心思いながら、こんなことでお祝いだと大騒ぎされることにも恥ずかしさを感じた。
テーブルの席に着くように母に促され、大樹は手洗いを済ませて席に座る。
さっきまでは蚊帳の外状態でソファにいた父も、いつもの定位置に座った。それを見計らい、大樹は全員の顔を見回した。
「あのさ……。俺が男と付き合ってること、嫌じゃないの?」
思い切って問うた大樹に、皆の視線が集まる。
口を開いたのは、大樹の隣に座る美代だった。
「そりゃ最初見た瞬間は、男!?て思ったけど、あまりのイケメンに嫌悪感ぶっ飛んだわよ」
「眼福だったわねぇ」
思い出すように、母が溜め息を零す。
女性陣には概ね受け入れられたようだ。それも好印象しか持てない伊沢のおかげだろう。
大樹は目の前の父を見る。父は溜め息をついた後、母と美代が認めてるなら仕方がないと、認めてくれた。
「それにしても、漫画読んでてあんたがイケメン好きなのは知ってるけど、まさかリアルでそっちに走るとは思わなかったわ」
美代が呆れた。
「てか、どうやってオトしたの、あんなイケメン。女でも難しいわよ。ゲイでもないのにオトすって、どんな凄い技使ったのか、参考にするから教えてよ」
本当に、男と付き合ってるというのに、何の偏見も持たれていない。
自分の家族の寛容さがありがたかった。
帰り道、大樹と姉が似ていると伊沢が言っていたが、大樹は姉の性格の影響をだいぶ受けている。大樹の奔放さと歯に衣着せぬ物言いは、姉譲りだ。だから仲良しであり、何でも話せる間柄である。
もっと早くに恋愛相談をしていても良かったな、などと考えてしまった。
きっと姉ならば、伊沢の顔を見ていなくても、大樹を応援してくれたように思う。
「何にやにやしてんのよ。いやらしい」
美代が横目で大樹を見る。
「にやにやって……。素直に嬉しいと思ってるだけだろ」
少し前言撤回だ。わざと揶揄われているのだろうか。
「まぁ、振られても諦めないってことかな。俺も頑張ったってこと」
「え……。振られたくせに付きまとうとか、絶対無理だわ」
美代が苦い顔をする。
自分から参考にしたいと言ったくせに。
キャッチボールを求められて、投げたボールを叩き落とされた気分だった。
「姉ちゃん、やたら厳しいな」
「だって、あんなイケメン捕まえるなんてずるいじゃない。ひがみたくなるわよ」
「姉ちゃんも彼氏見つければ」
「自分が自慢できる彼氏いるからって、生意気言うわね。そう簡単にできりゃ苦労しないっつの」
いつまでも続きそうな二人のやり取りに、まあまあと母が間に入る。
それからようやく、夕食になったのだった。
「また来てね、伊沢くん。今度はもっとゆっくりしていってちょうだい」
「ありがとうございます」
「大樹のこと、末永くよろしくね」
見送る母と姉が、残念そうに伊沢に手を振る。
まるで大樹のために言っているように聞こえるが、明らかに自分たちが末永くよろしくしたいという私情が入っていることは明らかだった。
バス停までの道を伊沢と並んで歩きながら、大樹は溜め息をついた。
「疲れただろ? ごめんな。姉ちゃんたち、はしゃいじゃって」
母と姉に絡まれる伊沢を見ていて気持ちが落ち着かず大樹は疲れたが、絡まれていた伊沢自身はさらに疲れているだろう。
いや、と伊沢が首を横に振る。
「賑やかな家族だな。こんな環境で育ったから、大樹はこんななんだなぁって……」
思い出すように、伊沢が口元を緩めた。
「それに、男の恋人に対して嫌な顔一つされなくて驚いた。優しい家族だな」
伊沢が一番気にしていたことだ。それについては、大樹も驚いたので頷く。
「ただミーハーなだけだよ」
呆れたように大樹が笑うと、伊沢も小さく笑った。
バス停までの十五分ほどの距離とバスを待つ間が、二人きりの時間だった。
バスに乗った伊沢を見送ると、大樹は家に帰った。
客の手前悪いことは言われなかったが、帰ったら家族会議が始まるのではないだろうか。
少し不安に感じながらリビングに入ると、テーブルの上に大きな寿司桶が置かれていて、大樹は思わず驚く。
てっきり、客もいるため出前の寿司を頼むと言い出したのだとばかり思ったからだ。
「あ、おかえり。ちょうどさっきお寿司来たわよ」
「え? 本当に頼んだの?」
「だって、大樹に初めて恋人ができたお祝いだもの」
そもそも初めての恋人でもないしと内心思いながら、こんなことでお祝いだと大騒ぎされることにも恥ずかしさを感じた。
テーブルの席に着くように母に促され、大樹は手洗いを済ませて席に座る。
さっきまでは蚊帳の外状態でソファにいた父も、いつもの定位置に座った。それを見計らい、大樹は全員の顔を見回した。
「あのさ……。俺が男と付き合ってること、嫌じゃないの?」
思い切って問うた大樹に、皆の視線が集まる。
口を開いたのは、大樹の隣に座る美代だった。
「そりゃ最初見た瞬間は、男!?て思ったけど、あまりのイケメンに嫌悪感ぶっ飛んだわよ」
「眼福だったわねぇ」
思い出すように、母が溜め息を零す。
女性陣には概ね受け入れられたようだ。それも好印象しか持てない伊沢のおかげだろう。
大樹は目の前の父を見る。父は溜め息をついた後、母と美代が認めてるなら仕方がないと、認めてくれた。
「それにしても、漫画読んでてあんたがイケメン好きなのは知ってるけど、まさかリアルでそっちに走るとは思わなかったわ」
美代が呆れた。
「てか、どうやってオトしたの、あんなイケメン。女でも難しいわよ。ゲイでもないのにオトすって、どんな凄い技使ったのか、参考にするから教えてよ」
本当に、男と付き合ってるというのに、何の偏見も持たれていない。
自分の家族の寛容さがありがたかった。
帰り道、大樹と姉が似ていると伊沢が言っていたが、大樹は姉の性格の影響をだいぶ受けている。大樹の奔放さと歯に衣着せぬ物言いは、姉譲りだ。だから仲良しであり、何でも話せる間柄である。
もっと早くに恋愛相談をしていても良かったな、などと考えてしまった。
きっと姉ならば、伊沢の顔を見ていなくても、大樹を応援してくれたように思う。
「何にやにやしてんのよ。いやらしい」
美代が横目で大樹を見る。
「にやにやって……。素直に嬉しいと思ってるだけだろ」
少し前言撤回だ。わざと揶揄われているのだろうか。
「まぁ、振られても諦めないってことかな。俺も頑張ったってこと」
「え……。振られたくせに付きまとうとか、絶対無理だわ」
美代が苦い顔をする。
自分から参考にしたいと言ったくせに。
キャッチボールを求められて、投げたボールを叩き落とされた気分だった。
「姉ちゃん、やたら厳しいな」
「だって、あんなイケメン捕まえるなんてずるいじゃない。ひがみたくなるわよ」
「姉ちゃんも彼氏見つければ」
「自分が自慢できる彼氏いるからって、生意気言うわね。そう簡単にできりゃ苦労しないっつの」
いつまでも続きそうな二人のやり取りに、まあまあと母が間に入る。
それからようやく、夕食になったのだった。
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