〜幽霊の記憶〜

古波蔵くう

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1.導入:『オカルトの誘い』

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 午前2時。俺の名は、藤井健太ふじいけんた。俺は今、ある儀式を始める準備をしている。俺がこれを知ったのは、夏休みが始まる前のこと。
 夏休み前、昼食時間。俺がまるでお通夜みたいな雰囲気を放ちながら、昼食を黙って食べていると
「よう! 健太!」
クラスの元気屋、中村直人なかむらなおとが話しかけてきた。
「何?」
俺はこういう元気屋が苦手だ。無視しても強引に纏わりつくから厄介だ。
「健太さ……オカルト好きだろ?」
直人がそんな事を言う。まあ、否定はしないが。
「嫌いじゃないけど?」
俺は弁当を食べ続ける。
「じゃあさ『ひとりかくれんぼ』やってみろよ! めちゃくちゃ怖いぜ!」
直人は、怖い体験したのに、よく元気で居られるなと思う。
「それは、用意するものとかあるのか?」
俺は仕方なく、直人の話を聞いた。そして、通学路に都合よく空き家の一軒家があった。そこで、やろうと思う。すぐ近くに親友の佐藤悠斗さとうゆうともいる。この空き家には桜井さくらいと書いてあった。元は桜井という人が住んでいたのだろう。水道や電気もまだ止められていない。完璧だ。
「えっーと、用意するのは……手足のあるぬいぐるみ……売れ残り商品で女の子の人形しか無かった」
俺は、ぬいぐるみを眺める。可愛い女の子のぬいぐるみだ。
「米……このためだけに無洗米買った」
俺は無洗米の袋を開ける。
「あと、自分の爪……1ヶ月分集めていた」
俺はペットボトルのキャップに積まれた自分の爪を取り出す。髪の毛も少々入れている。
「縫い針と赤い糸……裁縫セットを家の中で探し回すのに苦労した」
俺は裁縫がど素人だった。そのため、家庭科の時間以外使わないため家の中で裁縫セットは埋もれていた。
「包丁もこのためだけに新しく買った」
俺は包丁のパッケージを破る。
「コップ一杯の塩水も作った……かなり濃度濃いけど」
俺は、全てのものを確認してスマホを取り出した。実はインスタライブで配信するのだ。
「みんな! 暗くて分かんないと思うけど、今から俺はひとりかくれんぼをしようと思う!」
俺は暗い部屋の中で、誰も見ていないスマホの画面に語りかけている。
「じゃあ、まずはこの売れ残りで買ったぬいぐるみに名前つけないとね……じゃあ、君の名前は『ふわふわ』だ!」
俺は女の子のぬいぐるみにふわふわと名付けた。そして、ふわふわの背中を包丁で穴を開けて綿を取り出す。
「ぬいぐるみって、かなり綿が入ってるんだな」
俺は、綿を取り出したふわふわに無洗米と爪、髪の毛を入れた。これは内臓を意味しているらしい。
「そして、赤い糸で縫う……イッテェ!」
俺は縫い針が親指に刺さってしまう。これが裁縫ど素人である。ちなみに、赤い糸は血管を意味している。
「そろそろ3時になるな……風呂に水を張って、テレビをアナログ放送に変えないと」
俺は他人が住んでいた家をまるで自分の家のように使っている。
 午前3時。
「では、始めます……」
俺はふわふわに次のように語りかける。
「最初は健太が鬼だから、最初は健太が鬼だから、最初は健太が鬼だから」
俺は、ふわふわを持って風呂場に向かう。そして風呂桶に沈める。もちろん、インスタライブで配信している。
「次に、アナログ放送にしているテレビの前で10秒数える」
俺は目を閉じた。ちなみに、部屋のどこにも灯りはつけていない。
 10秒後。俺は包丁を持って風呂場に向かう。
「ふわふわ見ーつけた!」
俺はふわふわに包丁でめった刺しにする。そして、風呂桶から出す。
「次は、ふわふわが鬼だから」
俺は急に寒気がして、塩水を隠してある部屋に隠れた。この家には、珍しく屋根裏部屋があったためそこに隠れる。
「なんか、鳥肌と寒気がします」
俺はまだ視聴者0のライブで実況している。
「一応、午前5時に終わらせます」
この降霊術は、2時間以内に終わらせないといけない。
 10分経過。
ーーシャリ! シャリ!
何か粒状の物が動いている音が聞こえる。
「これって……ぬいぐるみの音?」
俺は耳を澄ますと、下の階から音が鳴っている。
 20分経過。
ーープツツツ……
ボイスパーカッションっぽい音が聞こえた。ラップ音か?
「みんなは聞こえるかな? ラップ音が聞こえる……」
俺のライブには、まだ誰も来ていない。まあ、こんな深夜に誰も来るわけがない。
 30分経過。
ーーガン! ガン!
金属の物を叩いている音が聞こえる。
「だんだん怖くなってきたんだけど……」
俺は屋根裏部屋にあった布で体を覆う。そして縮こまる。
 40分経過。
ーープーー……
俺の耳から超音波みたいな音が聞こえる。耳鳴りが起きた。
「みんなには聞こえてないかもだけど、耳鳴りしているんだ?」
インスタライブ、未だに0人。まあ、フォロワーも投稿としていないからね。
 50分経過。
「たす……けて……」
小さな女の子の声が聞こえた。
「え? 霊の声が聞こえたんだけど!」
俺はガタガタ震える。
「あと10分の辛抱……」
すると、スマホのライト機能が突然切れた。
「あれ? 触っていないのに……」
俺は再びライトモードをオンにする。すると、光の先に人間の足が見える。俺はスマホのライトを上へ上げていく。すると、不気味な等身大のフランス人形があった。
「うわ!」
俺は今までにない恐怖を感じた。暗闇の人形、日本人形でも怖いのにフランス人形だとかなり怖い。というか、等身大なんてあるのか。
「……終わらせよう」
俺は濃い塩水を口に含む。この時、塩水を口から出しちゃいけない。
《しょっぱ!》
俺は残りの塩水と、ライブ中のスマホを手に取って風呂場に向かう。風呂場には、案の定ぬいぐるみがある。可愛らしい赤い糸で縛られた女の子のぬいぐるみ。
「んんん! んんんー!」
俺は『これで! 終わりだー!』と言った。口に塩水を含んでいるため、唇を離せなかった。俺はコップの中に残った塩水をかけ、口に含んだ塩水をかけた
「オロロロロ……」
俺は、ふわふわに向かって
「俺の勝ち、俺の勝ち、俺の勝ち」
と言って、風呂場の明かりをつける。
「はぁー……怖かった」
俺は気が抜けたように膝から崩れ落ちた。すごく怖かった。もう2度とするかと思った。俺が水道水と塩水に濡れた赤い糸に縛られた女の子のぬいぐるみ、ふわふわを見ていると右腕がぴくりと動いた。
「へ?」
俺は疑問の声を漏らす。なぜなら、命が宿ってもいないぬいぐるみが動いたのだから。すると、足をバタバタさせていた。何かを伝えたいのだろうか。
「このぬいぐるみの処理方法はなんで書いてあるんだ?」
俺はインスタライブをしたまま、ネットでひとりかくれんぼのぬいぐるみの処理方法を調べた。すると
『ぬいぐるみは燃やすなどして……』
と書いてある。
「この家に、偶然にもチャッカマンあるんだよな……仏壇の部屋から持ってきた」
俺はチャッカマンから炎を出して、ふわふわに近づけようとすると
「待って!」
ふわふわが喋った。
「うえっ!」
俺は吃驚びっくりしてチャッカマンを落とした。炎も消えた。
「おまえ! 誰なんだ!」
俺は霊が憑依したふわふわに向かって怒鳴る。
「突然驚かせてごめんなさい……」
ふわふわは、頭を下げる。
「ってか、このぬいぐるみ濡れていて気持ち悪いし……自由に動かせられない……」
ふわふわの声は、女性の声だ。
「おまえ誰なんだ! 名を名乗れ!」
俺は幽霊となぜか会話している。普通はできない。
「まず、貴方から名を名乗ってくれない?」
この霊は、俺から名乗らせるつもりだ。
「嫌だ! そう言って俺の命を奪う気だろう!」
俺は幽霊に命を取られたくないので、拒否する。
「私はそこまで強力な霊じゃないです……生前、人間だったし」
ふわふわに憑依した幽霊は、元人間と答える。
「……藤井、健太……高校2年生、17歳」
俺は自分の名を名乗った。
「私は、桜井美咲さくらいみさき……16歳」
と。答える。こうして、俺は幽霊の女の子美咲と出会った。
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