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秋
変化の話
しおりを挟むイズミくんの過去を聞いてから数日が経った
あれから私達の関係は特に変わっていない
でも、お互い色んな話をするようになった
過去のこと、好きだった人の話
私達はなんだかとてもよく似ていた
…あぁ、今日もまた、屋上に行ったらイズミくんに会えるかな?
なんて思いながら階段を駆け上がる
すると後ろから声がしたんだ
聞き覚えのある声が
「よお」
「…!」
声の方を振り返る
見覚えのある顔に思わず心拍数が上昇した
✕✕くんだった
だんだんと近づく彼に私は思わず視線を逸らす
「…最近どう?」
久しぶりに聞いた優しい声
大好きだった優しい笑顔がこんなにも近くにある
彼は今、他でもない私を見ている…
私は少し、心が揺らいだ
「…普通だよ」
「そっか」
「…なぁ」
「?」
「ちょっと場所変えて話さない?…二人きりで」
彼はそう言って優しく私の腕を掴んだ
(あったかい…)
久しぶりに触れた懐かしい彼の温度に、私はまた、縋りたくなった
あんなに酷いことされたのに、この温度を手放したくないって思ってしまった
・:*+..:+・:*+.:+・:*+..:+・:*+..:+
学校の体育館裏
薄暗くてあまりに静かなその空間が、まるで世界に二人きりになったように錯覚させる
「最近のユミ、なんだか楽しそうだよね」
「そ、そうかな?」
数年ぶりの元彼との会話
ずっと、ずっと、待ち望んでいたはずなのに、なんだか上手く笑えない
「…ユミさ、ひとついい?」
私はドキドキしながら「何?」と応える
すると✕✕くんは真剣な眼差しで口を開いた
「お前さ、彼氏出来たの?」
「えっ?」
予想もしていなかった回答に少しだけ驚き、目を見開く
そんな私を気にもせず、✕✕くんは淡々と、一方的に語り出す
「イズミくん、だっけ?最近仲良いじゃん」
「…イ、イズミくんはただの友達だよ」
そういうと✕✕くんはニヤニヤしながら私に詰め寄り問いただす
「へぇー?友達ねぇ?」
「しっかし、お前も結構変わったなあ?」
「もっと一途なやつだと思っていたよ」
「な、何言って…」
「お前、恋人じゃない人と屋上でイチャイチャするようになったんだな」
「…!」
✕✕くんは楽しそうに笑っていた
でも、目は全然笑っていなくって
私はほんの少しだけ恐怖を覚えた
「ユミも見る目なくなったよな?ああいう地味なやつが好きなの?」
「べ、別に好きとかじゃ…」
✕✕くんはどんどんと私に詰め寄ってくる
私は後ずさっていたが、背中が壁に当たり、逃げ場を失った
「お前、好きじゃないやつとああいうことするんだ」
「ちがっ…」
彼の細い指が私の髪に触れる
その指は這うように首へ、そして背中へと流れていく
「あれか、俺と別れて寂しさ埋めるために利用してんの?」
「そんなんじゃ…!」
「あんな男といるより俺といる方がずっとずっと良くない?」
✕✕くんは壁に私を追い詰め、今度は私のスカートに自分の足を押し込んでくる
「…っ」
「…なぁ、またあの頃みたいに仲良くやろうよ」
「ど、どういう意味…?」
「また俺と付き合ってよって意味」
「…!」
それは復縁ということだろうか?
よりを戻してくれるということだろうか?
「…」
…よかったじゃん
ずっと、ずっと、待ち望んでいたことじゃん
ずっと、ずっと、別れてたこと、後悔してたじゃん
「やり直したい」
「戻りたい」
って
でも、私は驚くほど冷静だった
「でも……彼女、いるじゃん」
その言葉に✕✕くんは苦笑していた
「アイツは別になんでもないよ」
「…」
「別れてから俺のこと、もう嫌いになっちゃったの?」
「…」
「ねぇ…だめ…?」
彼の指が私の腰にそっと触れた
「…っ」
そして、彼の顔がゆっくりと近づいてくる
好きだった人の顔が目の前にあって、思わず心臓が高鳴る、ドキドキする
(あ、私…このままキスされちゃうのかな…)
私は瞳を閉じた
あぁ、また、都合のいい女に逆戻りかな
なんて思った時だった
さっきまで腰にあった彼の手が、だんだんと上の膨らみに近づいてきたのだ
「…!」
私はこの時、「嫌だ」と強く思った
私は気づいたら自分でも驚くぐらいの大きな声で「やめて!」と叫んでいた
私の体は震えていた
「……ちぇ、いけるとおもったのに」
と小さな舌打ちが聞こえた気がした
「…っ」
初めて聞いた声だった
あの頃の優しい声とは違う
低くて恐怖さえ感じる声だった
「昔はあんなに簡単に体差し出してくれたのにね…なんだか変わっちゃったな、お前」
「はぁ、つまんねぇなぁ」
その言葉を聞いた瞬間、さっきまでのドキドキが嘘みたいに消えてなくなった
あぁ…それが✕✕くんの本心なんだ
今まで執着していたのが嘘みたいだった
私はあんなに好きだった✕✕くんのことを、軽蔑の目で見ていた
「…」
「おい、なんだよ、その目は」
××くんが再び私に迫ってきた
乱暴に私の腕をつかみ、やがて強引に壁に押さえつける
「痛っ…や、やめて…っ」
「…!」
××くんは顔を歪めていた
「昔は拒んだりしなかったのに…なんでだよ…!」
「そんなに…そんなにアイツがいいのかよ…!?」
あぁ
そっか
話すのも、触れるのも、触れられるのも…
ぜんぶぜんぶ、イズミくんならいいんだ…
イズミくんがいいんだ
イズミくんじゃなきゃダメなんだ…
私はコクリと頷いた
「…!」
そんな私を見て、××くんは目を見開いていた
そして、泣きそうな顔して私にすがりついた
「お前………ありえねぇってマジで!どうかしてるって………!」
「俺の何がダメなの?あの頃はあんなに俺のこと好きだったくせに」
泣きそうに叫ぶ彼を見て、初めて君からの愛を感じた気がした
「…」
でも、私はもう、彼とよりを戻したいなんて思わなかった
体の関係だけになるなんて、真っ平御免だった
もう、都合のいい女になりたくない
もう、誰かの二番目になんかなりたくない
私は、ちゃんと恋がしたいって
この時思った
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