ぬか床の妖精

メタボ戦士

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1話 出会い

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 古い木造家屋は、まるで時が止まったかのように静まりかえっていた。

 小津家川岩鬼(19)は埃っぽい空気を切りながら、部屋一つ一つを丹念に調べていた。

 何故そのようなことをするかは海外で暮らす両親に代わり、亡くなった祖父母の家を片付けるためだ。

 築100年以上の古民家は改修を重ねてはいたものの、所々から歴史の重みが感じられた。

 特に台所は年月を経た木の温もりと、どこか懐かしい香りが漂っていた。  

 そんなある日、台所の床下収納から見慣れない形の壺を見つけた。

 布で丁寧に包まれ、大切に保管されていた。  

 好奇心からゆっくりと布を解き蓋を開ける。

「クフッ····」

 鼻腔をくすぐる、どこか懐かしい発酵の香り。     

 その瞬間····視界に飛び込んできたのは予想をはるかに超えた光景だった。

 そこには小豆色の古着を身に纏い、白髪を結い上げた小さな老人が座っていた。  

 彼はまるでぬか床から生まれたかのように、その色合いに溶け込んでいる。

「ようこそ、若旦那。ご無沙汰しております。」

 老人の声は枯葉を踏みしめるような、どこか物憂げな響きを持っていた。
 
 俺は思わず後ずさりする。

「あ、あの、あなたは····」

「私はぬか床の妖精。お前たち小津家川家の歴史をずっと見守ってきたもの。」
 
 妖精は穏やかな笑みを浮かべながら、そう告げた。

「妖精·····?」

 現実感がなく頭が真っ白になる。  

「あぁ····。この家には代々受け継がれてきたぬか床がある。それは単なる食べ物ではなく、この家と家族の魂を繋ぐもの。そして長い年月をかけて私はそのぬか床から生まれた。」

 妖精はまるで昔話を語るように、ゆっくりと話し始めた。

「この家には喜びも悲しみも、そしてたくさんの物語が刻まれている。お前たちの先祖はこのぬか床を大切にし、毎日欠かさず手入れをしてきた。そのおかげで私はこうして今、お前たちの前に現れることが出来た。」

 妖精の言葉に、
複雑な感情を抱く。

 驚き、戸惑い、そしてどこか懐かしいような温かさ。

「でも、この家はもうすぐ壊されるよ。あなたはこれからどうするの?」

 俺は恐る恐る尋ねる。

「それはもう決まっている。お前と一緒に新しい家に行く。」

 妖精はそう言うと、再び穏やかな笑みを浮かべた。

「え?」  

 自分の耳を疑う。

「何故俺と?」 

「お前は小津家川家の血を引く者。そして····このぬか床の物語を次の世代へと繋いでいく者。だから私を新しい家に連れて行って一緒に生きて欲しい。」 

 妖精の言葉に心は大きく揺れ動いた。

 この古民家で数々の時間を過ごした祖父母の姿を思い出した。
 
 彼らはこのぬか床を宝物のように扱っていた。

 そしてそのぬか床から生まれた妖精は、まさにこの家の歴史そのものだった。 

「わかった。一緒に行こう。」
  
 俺はそう決意する。 

 妖精は満面の笑みを浮かべ、俺の肩にそっと手を置いた。 

「ありがとう、若旦那。これから一緒に新しい物語を作ろう。」 

 夕陽が差し込む古民家の中で、二人は静かに未来へと歩み出した。
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