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苦い休日、与える甘露
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「ゴホッ、ゴホッ……ゴホゴホ…くそ!!」
朝から止まらない咳に、僕(平太)はうんざりしていた。
「39.5……平太、スマホとゲームは没収よ。遊んでると治る風邪も治りが遅くなるからね。」
お母さんは僕が熱を出したとわかった後、娯楽を根こそぎ奪っていった。
だから今日は、天井の模様を数えるという原始的な暇つぶしを一日中続ける羽目になった。
……はぁ…なんで風邪なんか引いたんだろう。
今日の給食、デザートはプリンなのにほんとついてない。
給食じゃんけんで勝った誰かが僕のプリンを食べていると思うと、悔しくてたまらない。
プリンって家で食べるときは大したことないのに、なんで学校だとあんなに美味しく感じるんだろう。
給食費からだからコスト的には家で食べるプリンより大したことないはずなのに……。
そんなことを考えているとしばらくしてガチャリとドアが開いた。
「平太……」
「何、お母さん……いきなり入ってきてなんか用?」
「今から夕食の買い出しに行って来るから大人しくしてなさいよ」
「は……い」
〈ガチャリ〉
「じゃあ……行って来るわね……」
〈ガチャリ〉
「わっ…びっくり!たぁーくん…平太の見舞いに来たの?さぁ入って入って…♪」
「お邪魔します」
「ちょうど良かったわ♪私、夕食の買い出しに行くところだったから平太の監視とお留守番頼んでいいかしら?」
「いいですよ、おばさん」
「ありがとうホント助かるわ。じゃあ……行って来るわね」
「はーい」
〈ガチャリ〉
静寂が戻った部屋に、親友の多磨の声が響く。
「平太、来てやったぞ。配布されたプリントと今日の授業内容の写し置いとくな」
多磨は慣れた手つきで僕の机に丁寧に書類を置いた。
「ありがとう、多磨。ホント助かるよ」
「いいってことよ。それより体調はどうだ?熱はまだ高いのか?」
多磨の大きな手が僕の額にそっと触れる。
ひんやりとした感触が心地よかった。
「今はだいぶ熱下がったよ。給食のプリンが食べれなくて少し……心はブルーだけど」
多磨はクスッと笑った。
「ふっ…そうか…そうか…じゃあちょうど良かった。そんなお前にプレゼントがある。」
多磨はランドセルから紙袋を取り出し、中から小さな容器を出した。
「え…何?」
「俺の母さんがお前にって作った焼きプリンだ。心して食え。そして感想を言え。ほらスプーンも用意してあるから」
そう言って多磨は紙袋から使い捨てのスプーンを取り出した。
「ありがとう、いただくね」
平太はワクワクしながらスプーンを受け取った。
「おぅ…食え食え」
「いただきます」
パカッと蓋を開けた瞬間、僕は思わず目を丸くした。
「ん?」
「どうした?平太」
「お前のお母さん、響希さんって元パティシエだろ?」
「まぁな。それがどうした?」
「いや…えっと…たまにお前がくれる響希さんのお菓子は宝石みたいにどれも美しいのに、今日だけは言っちゃ悪いけど見た目が汚いな。響希さんが作ったはずなのに…なんで今日だけ……」
多磨は少し目を泳がせた。
「利き手とは逆で作ったって。母さん、ちょうど利き手痛めていたから」
「ホントかよ、他の人が作ったわけでもなく?」
そう言うと多磨はさらに視線を外し、「母さんが作ったプリンだし」とだけ答えて、僕の方を見なかった。
「まぁいいや…プリンはプリンだし、食うよ」
スッとスプーンをプリンに差し込み、一口パクッと食べる。
「どうだ?」
多磨が固唾を飲んで見守る。
「ん……美味しい♥見た目はちょっと焦げつき過ぎてて形はいびつだけど、味と食感は美味しい♥」
僕が満面の笑みを浮かべると、多磨はホッと息をついた。
「はぁ……良かった、喜んでもらえて。」
「なんで多磨が嬉しそうなんだよ?お前が作ったんじゃないんだろ?」
多磨は一瞬口ごもり、照れたように顔を赤らめた。
「え……まぁ……まぁ細かいことはいいじゃん。美味しい
んだから」
「そうだね。それよりホント……このプリン美味しいな……多磨、響希さんにお礼を伝えておいてくれ」
多磨は僕の頭にそっと手を置いた。
その大きな掌が、ひどく熱く感じられた。
「ああ…わかった、言っとく。それよりお前はまだ病人なんだから寝てろ」
「え~つまんない。もっと多磨と話していたい」
「治った後でいくらでも付き合ってやるから寝てろ」
多磨の優しい声とどこか照れたような視線が、胸をくすぐる。
「わかった……おやすみなさい」
多磨の手が、ポンポンと僕の頭を優しく撫でた。
「おやすみ…平太」
部屋の明かりが消え、静寂が戻る。
多磨の体温が残る頭に手をやり、僕は目を閉じた。
風邪はまだ治らないけれど、多磨がそばにいてくれたおかげで、今日のプリンは学校のプリンよりもずっと心が温かくなって美味しかった。
明日目が覚めたら、多磨にちゃんとお礼を言おう。
そして早く元気になって、多磨とたくさん話したい。
僕は温かい気持ちに包まれながら、ゆっくりと夢の世界へと落ちていった。
きっと甘い…甘い…甘露の夢だろう。
終わり
朝から止まらない咳に、僕(平太)はうんざりしていた。
「39.5……平太、スマホとゲームは没収よ。遊んでると治る風邪も治りが遅くなるからね。」
お母さんは僕が熱を出したとわかった後、娯楽を根こそぎ奪っていった。
だから今日は、天井の模様を数えるという原始的な暇つぶしを一日中続ける羽目になった。
……はぁ…なんで風邪なんか引いたんだろう。
今日の給食、デザートはプリンなのにほんとついてない。
給食じゃんけんで勝った誰かが僕のプリンを食べていると思うと、悔しくてたまらない。
プリンって家で食べるときは大したことないのに、なんで学校だとあんなに美味しく感じるんだろう。
給食費からだからコスト的には家で食べるプリンより大したことないはずなのに……。
そんなことを考えているとしばらくしてガチャリとドアが開いた。
「平太……」
「何、お母さん……いきなり入ってきてなんか用?」
「今から夕食の買い出しに行って来るから大人しくしてなさいよ」
「は……い」
〈ガチャリ〉
「じゃあ……行って来るわね……」
〈ガチャリ〉
「わっ…びっくり!たぁーくん…平太の見舞いに来たの?さぁ入って入って…♪」
「お邪魔します」
「ちょうど良かったわ♪私、夕食の買い出しに行くところだったから平太の監視とお留守番頼んでいいかしら?」
「いいですよ、おばさん」
「ありがとうホント助かるわ。じゃあ……行って来るわね」
「はーい」
〈ガチャリ〉
静寂が戻った部屋に、親友の多磨の声が響く。
「平太、来てやったぞ。配布されたプリントと今日の授業内容の写し置いとくな」
多磨は慣れた手つきで僕の机に丁寧に書類を置いた。
「ありがとう、多磨。ホント助かるよ」
「いいってことよ。それより体調はどうだ?熱はまだ高いのか?」
多磨の大きな手が僕の額にそっと触れる。
ひんやりとした感触が心地よかった。
「今はだいぶ熱下がったよ。給食のプリンが食べれなくて少し……心はブルーだけど」
多磨はクスッと笑った。
「ふっ…そうか…そうか…じゃあちょうど良かった。そんなお前にプレゼントがある。」
多磨はランドセルから紙袋を取り出し、中から小さな容器を出した。
「え…何?」
「俺の母さんがお前にって作った焼きプリンだ。心して食え。そして感想を言え。ほらスプーンも用意してあるから」
そう言って多磨は紙袋から使い捨てのスプーンを取り出した。
「ありがとう、いただくね」
平太はワクワクしながらスプーンを受け取った。
「おぅ…食え食え」
「いただきます」
パカッと蓋を開けた瞬間、僕は思わず目を丸くした。
「ん?」
「どうした?平太」
「お前のお母さん、響希さんって元パティシエだろ?」
「まぁな。それがどうした?」
「いや…えっと…たまにお前がくれる響希さんのお菓子は宝石みたいにどれも美しいのに、今日だけは言っちゃ悪いけど見た目が汚いな。響希さんが作ったはずなのに…なんで今日だけ……」
多磨は少し目を泳がせた。
「利き手とは逆で作ったって。母さん、ちょうど利き手痛めていたから」
「ホントかよ、他の人が作ったわけでもなく?」
そう言うと多磨はさらに視線を外し、「母さんが作ったプリンだし」とだけ答えて、僕の方を見なかった。
「まぁいいや…プリンはプリンだし、食うよ」
スッとスプーンをプリンに差し込み、一口パクッと食べる。
「どうだ?」
多磨が固唾を飲んで見守る。
「ん……美味しい♥見た目はちょっと焦げつき過ぎてて形はいびつだけど、味と食感は美味しい♥」
僕が満面の笑みを浮かべると、多磨はホッと息をついた。
「はぁ……良かった、喜んでもらえて。」
「なんで多磨が嬉しそうなんだよ?お前が作ったんじゃないんだろ?」
多磨は一瞬口ごもり、照れたように顔を赤らめた。
「え……まぁ……まぁ細かいことはいいじゃん。美味しい
んだから」
「そうだね。それよりホント……このプリン美味しいな……多磨、響希さんにお礼を伝えておいてくれ」
多磨は僕の頭にそっと手を置いた。
その大きな掌が、ひどく熱く感じられた。
「ああ…わかった、言っとく。それよりお前はまだ病人なんだから寝てろ」
「え~つまんない。もっと多磨と話していたい」
「治った後でいくらでも付き合ってやるから寝てろ」
多磨の優しい声とどこか照れたような視線が、胸をくすぐる。
「わかった……おやすみなさい」
多磨の手が、ポンポンと僕の頭を優しく撫でた。
「おやすみ…平太」
部屋の明かりが消え、静寂が戻る。
多磨の体温が残る頭に手をやり、僕は目を閉じた。
風邪はまだ治らないけれど、多磨がそばにいてくれたおかげで、今日のプリンは学校のプリンよりもずっと心が温かくなって美味しかった。
明日目が覚めたら、多磨にちゃんとお礼を言おう。
そして早く元気になって、多磨とたくさん話したい。
僕は温かい気持ちに包まれながら、ゆっくりと夢の世界へと落ちていった。
きっと甘い…甘い…甘露の夢だろう。
終わり
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