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メスの蚊
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俺(徹哉)は夏の夕暮れ時、ベランダで一人ぼんやりと煙草を吸って空を眺めていた。
網戸越しに聞こえる微かな羽音…
それはどこにでもいる、あの小さな吸血鬼の訪れを告げるものだった。
「蚊って、エロの化身だな…」
独り言にしては、少しばかり熱を帯びたその言葉に、背後から声がかかった。
「突然どうした徹哉?気でも狂ったか。」
振り返ると、親友の光琉が呆れた顔で立っていた。
光琉は万物にエロスを感じる俺とは対照的に、現実のグラビアアイドルのみに夢中な男だ。
「狂ってないよ。」
「そうか?蚊をエロの化身とか言ってるやつが?」
「いや…さ…だって考えてみてよ。メスの蚊が俺たちの血を吸いながら唾液…いや…体液をあの細い口吻で注入してくるんだぜ?しかも卵を産むためっていう本能的な理由で。なんかこう…生命の神秘とエロスが混ざり合ってる気がしないか?」
光琉は、相変わらず理解できないといった表情で腕を組んでいる。
「所詮、虫だろ。別に何も感じないけど…」
「そこを擬人化して考えてくれよ!」
俺は身振り手振りを交えて熱弁する。
「お前がいつも言ってる、あの巨乳のグラビアアイドルをモデルに想像してみろって!」
光琉は少し考えてから、渋々といった様子で頷いた。
「わかったよ…」
光琉の脳内妄想スクリーンが制作される。
そこに映し出されたのは、鍛え上げられた肢体を包む、妖艶な黒のビキニを身につけたギャルのグラドル。
豊満な胸元が、その漆黒の布地によって一層強調されている。
長いまつ毛が伏せられた大きな瞳が、挑発的な光を湛えている。
『光琉…ウチ、卵を産みたいの。だから、ちょい血を飲ませて?』
『い、いいよ…』
『サンキュー…チュッ…チュッー…チュッ…チュッー…あ…やべ…つい夢中になっちゃったわ…。唾液でベタベタにしちゃったメンゴ~』
『君の唾液なら、全然構わないよ…』
『マジで、光琉は優しいね。神w』
『そう?へへ…』
『じゃあウチ、そろそろ行かないとだから…』
光琉は、黒ビキニの蚊美女の後ろ姿をうっとりと見送った。
「じゃあね~…」
妄想の世界から引き戻された光琉は、ハッとした表情で徹哉に向き直った。
「…確かに、ちょっとエロいかも…」
「だろ!」
俺はしたり顔で頷いた。
しかし、光琉はすぐに我に返った。
「でもな、徹哉。それはあくまで、俺が想像したグラビアアイドルさんがエロいだけだから。蚊そのものは、やっぱりエロくない。ただ、刺されたら痒いだけだ。」
「チェッ…同じエロ仲間のお前なら、この気持ちを理解してくれると思ったのに…」
「別に、お前と同じエロ仲間だなんて思ったことないけど?」
「何でだよ?」
「だって、好きなジャンルが違うじゃん。お前は、なんかこう…生命の根源的なエロスみたいな、よくわかんない方向にいくけど、僕はもっとこう、直接的な美しさっていうか…」
「確かに、尻派と胸派だから違うけどさぁ…」
俺は肩を落とした。
その時だった。
二人の視界の端に、信じられない光景が飛び込んできた。
隣のマンションのベランダに、光琉が先ほど妄想の中で描いた黒ビキニの蚊ギャルグラドルとは対照的に、清楚な白のワンピースを身につけた、可憐な女性が立っていたのだ。
風になびく清らかな黒髪、吸い込まれそうなほど透明感のある白い肌、そして、どこか儚げな雰囲気を漂わせる大きな瞳。
俺と光琉は息を呑んだ。
まるで、自分の歪んだ妄想を否定するかのように、純粋で美しい存在が目の前に現れた。
「おい、あれ…マブくね?」
「マブい…僕が好きなグラドルとは全然違うタイプだけど…凄い美人だね…」
俺の心臓は、激しく鼓動していた。
蚊のメスの擬人化と、白のワンピースの清純な美女。
あまりにも対照的な二人の女性が、同時に彼の心に波紋を広げていた。
「どうするよ、徹哉?」
光琉が、不思議そうな顔で囁いた。
「話しかけてみるか?あんな清楚な美人が、隣近所に住んでるなんて知らなかったな。」
俺は喉がカラカラに渇いているのを感じた。
メスの蚊の妄想から始まった、奇妙な感情の波。
そして今、目の前に現れた白のワンピースの彼女は、一体何なのだろう?
「…ああ」
俺は、やっとの思いで頷いた。
「話しかけてみるか?」
夏の夜の微風が頬を撫でた。
ベランダから見える白のワンピースの美人の姿は、まるで一輪の白い鈴蘭の花のように清らかで、そして、どこか近づきがたいほどの美しさを湛えていた。
俺はこれから始まるかもしれない…全く予想外の恋の予感に胸を高鳴らせた。
それはメスの蚊に対する歪んだ妄想が、全く異なる二つの方向へと発展していく不思議な夜の始まりだった。
終わり
網戸越しに聞こえる微かな羽音…
それはどこにでもいる、あの小さな吸血鬼の訪れを告げるものだった。
「蚊って、エロの化身だな…」
独り言にしては、少しばかり熱を帯びたその言葉に、背後から声がかかった。
「突然どうした徹哉?気でも狂ったか。」
振り返ると、親友の光琉が呆れた顔で立っていた。
光琉は万物にエロスを感じる俺とは対照的に、現実のグラビアアイドルのみに夢中な男だ。
「狂ってないよ。」
「そうか?蚊をエロの化身とか言ってるやつが?」
「いや…さ…だって考えてみてよ。メスの蚊が俺たちの血を吸いながら唾液…いや…体液をあの細い口吻で注入してくるんだぜ?しかも卵を産むためっていう本能的な理由で。なんかこう…生命の神秘とエロスが混ざり合ってる気がしないか?」
光琉は、相変わらず理解できないといった表情で腕を組んでいる。
「所詮、虫だろ。別に何も感じないけど…」
「そこを擬人化して考えてくれよ!」
俺は身振り手振りを交えて熱弁する。
「お前がいつも言ってる、あの巨乳のグラビアアイドルをモデルに想像してみろって!」
光琉は少し考えてから、渋々といった様子で頷いた。
「わかったよ…」
光琉の脳内妄想スクリーンが制作される。
そこに映し出されたのは、鍛え上げられた肢体を包む、妖艶な黒のビキニを身につけたギャルのグラドル。
豊満な胸元が、その漆黒の布地によって一層強調されている。
長いまつ毛が伏せられた大きな瞳が、挑発的な光を湛えている。
『光琉…ウチ、卵を産みたいの。だから、ちょい血を飲ませて?』
『い、いいよ…』
『サンキュー…チュッ…チュッー…チュッ…チュッー…あ…やべ…つい夢中になっちゃったわ…。唾液でベタベタにしちゃったメンゴ~』
『君の唾液なら、全然構わないよ…』
『マジで、光琉は優しいね。神w』
『そう?へへ…』
『じゃあウチ、そろそろ行かないとだから…』
光琉は、黒ビキニの蚊美女の後ろ姿をうっとりと見送った。
「じゃあね~…」
妄想の世界から引き戻された光琉は、ハッとした表情で徹哉に向き直った。
「…確かに、ちょっとエロいかも…」
「だろ!」
俺はしたり顔で頷いた。
しかし、光琉はすぐに我に返った。
「でもな、徹哉。それはあくまで、俺が想像したグラビアアイドルさんがエロいだけだから。蚊そのものは、やっぱりエロくない。ただ、刺されたら痒いだけだ。」
「チェッ…同じエロ仲間のお前なら、この気持ちを理解してくれると思ったのに…」
「別に、お前と同じエロ仲間だなんて思ったことないけど?」
「何でだよ?」
「だって、好きなジャンルが違うじゃん。お前は、なんかこう…生命の根源的なエロスみたいな、よくわかんない方向にいくけど、僕はもっとこう、直接的な美しさっていうか…」
「確かに、尻派と胸派だから違うけどさぁ…」
俺は肩を落とした。
その時だった。
二人の視界の端に、信じられない光景が飛び込んできた。
隣のマンションのベランダに、光琉が先ほど妄想の中で描いた黒ビキニの蚊ギャルグラドルとは対照的に、清楚な白のワンピースを身につけた、可憐な女性が立っていたのだ。
風になびく清らかな黒髪、吸い込まれそうなほど透明感のある白い肌、そして、どこか儚げな雰囲気を漂わせる大きな瞳。
俺と光琉は息を呑んだ。
まるで、自分の歪んだ妄想を否定するかのように、純粋で美しい存在が目の前に現れた。
「おい、あれ…マブくね?」
「マブい…僕が好きなグラドルとは全然違うタイプだけど…凄い美人だね…」
俺の心臓は、激しく鼓動していた。
蚊のメスの擬人化と、白のワンピースの清純な美女。
あまりにも対照的な二人の女性が、同時に彼の心に波紋を広げていた。
「どうするよ、徹哉?」
光琉が、不思議そうな顔で囁いた。
「話しかけてみるか?あんな清楚な美人が、隣近所に住んでるなんて知らなかったな。」
俺は喉がカラカラに渇いているのを感じた。
メスの蚊の妄想から始まった、奇妙な感情の波。
そして今、目の前に現れた白のワンピースの彼女は、一体何なのだろう?
「…ああ」
俺は、やっとの思いで頷いた。
「話しかけてみるか?」
夏の夜の微風が頬を撫でた。
ベランダから見える白のワンピースの美人の姿は、まるで一輪の白い鈴蘭の花のように清らかで、そして、どこか近づきがたいほどの美しさを湛えていた。
俺はこれから始まるかもしれない…全く予想外の恋の予感に胸を高鳴らせた。
それはメスの蚊に対する歪んだ妄想が、全く異なる二つの方向へと発展していく不思議な夜の始まりだった。
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