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そのアカウントは停止されました
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やっとの思いで自室のドアを開く。
抱えた荷物。今日は発売日。予約していた店舗で発売日に引き取ってきた。
VRのヘッドセットはいくつものメーカーから発売されている。スマホを繋げる簡易VR、ゲーム専用機としてのVR、スタンドアローン、PCに接続するもの、様々だ。
今日、万感の思いで引き取ってきたのは、世界発の完全没入型。フルダイブVRのヘッドセットだ。
VRのコントローラは凄まじい速度で進化してきた。
コントローラの位置によるコントロール、カメラによる画像認識コントロール、筋肉を動かす微小電流によるコントロール、そして脳波によるコントロール。
だがそれだけでは足りなかった。
手の動き、腕の動きは発達したコントローラで足りたが、足の動きには不十分だった。
歩く、走る、跳ねる。
足の動きとは移動を伴う。動きを検知することは出来ても、無限の広さのプレイ空間が用意出来ない以上は、VRとしては不十分だ。
そんな中、ついに発売されたフルダイブVR。
このヘッドセットは、ログイン中は筋肉を動かす電流をインターセプトすることで、動こうという意志をVR内のコントールに適用。その一方でインターセプトすることによって、実際の肉体が動かないようにする。
走っても跳んでも、実際の肉体が動かないのであれば、どこまでも走り続けることが出来る。
夢のような話だ。
これがあれば、小説やアニメの中でしかなかったリアルなRPGで遊ぶことも出来る。
上着をそのへんに放り投げ、さっそく箱を開ける。
ヘッドセットと付属のケーブルを取り出したら、まずは充電だ。
筋肉を動かす電流をインターセプトするために、ヘッドセットの使用はベッドで横になった状態を基本にしている。そのため、ヘッドセットは予め充電しておくことで、ケーブルのない状態で使えるようになっている。逆に言えば、今すぐに使いたくても、充電が終わらないと使えない。
充電をしている間に上着を片付け、取説に軽く目を通す。
安全なプライベートスペースで使用すること、ベッドに横になってから使用すること、充電ケーブルは外してログインすること等が書かれている。
取説によくある「安全にお使いいただくために」というやつだ。そこまで書く必要はないだろうというくらい細かく書いてある。馬鹿馬鹿しいが、その馬鹿馬鹿しい注意事項を書かなかったせいで裁判に負けたりするというのだから仕方がない。
取説の隅に充電ランプの表示があった。青に点灯すれば充電完了らしい。
見れば、まだ赤く点灯している。
充電にはどのくらいかかるだろうか。今すぐにでもVRで遊びたい。そのために急いで帰ってきたのだ。
このまま充電だけで今日が過ぎると思うだけで、恐怖にも似た息苦しさを感じる。
「あっ」
ベットの枕の近くにコンセントがあるじゃないか。
いそいそと充電ケーブルを差し替える。これならベッドに寝たままでも充電が続けれらる。今すぐヘッドセットを使える。
ヘッドセットを身に着けて電源を入れると、メーカーロゴが周り、そして世界が入れ替わった。
「おぉ~」
ワイヤーフレームのいかにもなVR世界でウェルカムメッセージが踊る。
手を握ってみれば確かな感触がある。
「これはすごいな」
ニュースメディアによる先行体験の記事そのままだ。手にも足にも、全ての感覚をインターセプトしたVRヘッドセットが代替えする。
ウェルカムメッセージが消えると、個人情報の入力画面が現れる。
VR用のアカウント作成。アバターに使うハンドルネーム、有料ソフトを購入するときの引き落とし先、二段階認証のための電話番号。一通りの入力を終えれば「仮アカウントを作成しました。二段階認証の確認を持って、本アカウントに移行します」というメッセージが出る。
二段階認証に使うスマホは今の状態では見れない。
認証を通すには一度VRから抜ける必要があるが、仮アカウントでも課金が出来ないだけでVRは使えそうだ。認証は後回しにしてアプリストアを開く。
定番のブラウザやSNS、グループチャットなど、よく使う無料アプリのVR版をダウンロードする。
ブラウザを起動してみれば、目の前にウィンドウが開いた。アカウントの作成でも思ったが、コントローラのボタンを押すのと、空中に浮かぶメニューをつついて操作するのとでは、ずいぶんと感覚が違う。
なんとなく未来に来た感じがする。
ブラウザのウィンドウは脇によけて、さらにアプリストアを検索する。
流石に発売日当日に、専用アプリは少ない。大体がスマホやPCでも使っているアプリのVR版で、数少ない専用アプリも今までのヘッドセットでも使えていたアプリのUI変更版らしい。
前から遊んでいたFPSもあったのでダウンロードしておく。今まで使っていたヘッドセット、今日からは旧機種にあたるものでやっていた。始めるのは無料で、ゲーム内で課金するタイプのゲームだ。
元からVRゲームなのだから、あまり違いはないはずだが、メニュー操作だけでも感覚の違いを感じている。少し、いや、とても楽しみだ。
目ぼしいものをダウンロードしてストアを抜ける。
少し考えてFPSをやることに決めた。前のヘッドセットとの違いを感じるには、やりなれたゲームが一番だ。
ゲームを起動すれば、世界はワイヤーフレームから廃墟へと切り替わる。
滅びた街を舞台にしたFPS「アーバンテレイン」。崩れた建物を遮蔽物に利用しながら戦う、市街戦主体のゲームだ。
ゲームモードは三種類。
練習用のソロゲーム。最大二十人で戦うマルチゲーム。二チームに分かれて争うチームゲーム。
ソロゲームは操作の練習や、手に入れた銃器の性能確認が主体で、人形のターゲットに銃弾を撃ち込むだけの簡単なものだ。
マルチゲームとチームゲームは、サーバー上でマッチングした相手と戦うプレイヤー同士の戦いで、勝つと賞金がもらえる。
シーズン毎に賞金ランキングが公表されたり、賞金を使って使い捨てのトラップや、少し珍しい銃が買えたりする。俺も賞金を使って「黄金色のAK47」という銃を手に入れてある。金色に輝くために敵から発見されやすく、銃としての性能は普通のAK47と変わらないというコレクターグッズだ。
まずは操作の確認のためにソロゲームに入る。
メニューから使いたい銃を選べば、手元にはずっしりとした重量を感じられる銃が現れた。
「これはいいな」
今までのコントローラとはまったく違う、銃の重さ。
二つのコントローラを手に持ち、片方の位置で狙いを定めて、もう片方のスイッチでトリガとは違いが大きい。本当に銃を持っているように見えるし、感じられる。臨場感が溢れ出てきた感じだ。そろそろこぼれそう。
トリガーを引けば、ズガンと衝撃が走る。
思わずニヤニヤしてしまうほどにいい。
本当の体はベッドで横になっているのに、重さも衝撃も再現できている。
そして、それは足の動きについても同じだ。
歩き回ってみても、走ってみても、違和感がないくらいに、床の固さを感じる。具体的にいうと、足を下ろしたときに床にあたる感触がある。
コントローラのボタンで前進や後退をしていたのとはまったく違う。これこそがVRなのだと感じる。
しばらくの間、動き回る。その後でソロゲームを終了する。
次はマルチゲームだ。
今ならまだ新型のヘッドセットからログインしている人はほとんどいないはずだ。それでこの操作性。コントローラで動かすよりも数段細かい動きが出来る。賞金を稼ぐにはもってこいだ。
だが、マルチゲームに入ろうとしたところで気づく。
「あぶねっ。月パス切れてる」
月パスは、購入から30日間優遇を受けられる有料アイテムだ。有効期間中は、毎日のログインボーナスが増えたり、勝ったときの賞金が5割増しになる特典がついている。
賞金ランキングに載ろうと思ったら必須なアイテムだ。ましてや、これから荒稼ぎをしようというのだ、月パスなしは考えられない。
いつもの手順で月パスを購入するが、決定ボタンを押したところで反応が止まる。
普段ならすぐに『購入が完了しました』のメッセージが出るはずなのに。
「あっ」
そこまで考えて気づいた。
今は仮アカウントだから課金が出来ないんだった。
失敗したなと思いながら待っていれば、何秒も待たせた後で『購入に失敗しました』というメッセージが表示される。
しょうがない、一度ログアウトして……。
そう考えたところで「アーバンテレイン」が終了して、ワイヤーフレームの世界に切り替わる。
購入に失敗したのは初めてだが、いきなりゲームが落ちるとは思わなかった。
「まあ、いいか」
どうせ一度ログアウトしようと思っていたのだ。別に問題はない。
ログアウトのためにメニューを開く。
「どこだろ」
初めてのログアウトで、メニューのどこにあるのか探さないとわからない。
メニューの下の隅に「ログアウト」の文字を見つけて選択する。
『そのアカウントは停止されました』
一瞬、頭の中に?が飛び出す。
ログアウトでアカウント停止もなにもないだろ、と。
メッセージの片隅に「詳細」のボタンを見つけて、それを押してみる。
『二段認証を通過しない不正な決済が確認されたため、アカウント停止の措置が実行されました。この措置が不当だと思う場合はサポートページから異議申し立てを行ってください』
月パス購入が原因だったようだ。
単に購入エラーでいいような気もするが、アカウント停止らしい。お金に関わるところだから厳しくしてあるんだろうか。
だがログアウト出来ないのは納得できない。
もう一度メニューからログアウトを選択する。
出て来るメッセージは同じ。
「どうすんだよこれ」
何度もログアウトを選択したが出てくるメッセージは変わらない。
「サポートページって書いてあったな」
ブラウザを立ち上げる。
『そのアカウントは停止されました』
メールソフトを立ち上げる。
『そのアカウントは停止されました』
SNSアプリを。
『そのアカウントは停止されました』
グループチャットを。
『そのアカウントは停止されました』
じんわりと嫌な予感が広がっていく。
何をしようとしてもアカウント停止のメッセージしか出てこない。ダウンロード済みのアプリだろうと何だろうと、アカウントが停止されていると起動することすら出来ないのか。
「なんでだよ。どうすればいいんだよ」
サポートページは開けない。
誰かに助けを呼ぶことも出来ない。
何よりログアウトが出来ない。
昨日まで使っていたヘッドセットなら、ログアウトが出来なくなってもヘッドセットを外せばいいだけの話だ。そのあとでスマホでもPCでも使ってサポートページへアクセスすればいい。なにも問題はない。
だがこの最新のヘッドセットはフルダイブ型だ。全ての動きはヘッドセットにインターセプトされて、本当の体は動かない。ログアウトしなければヘッドセットを外すことすら出来ない。
馬鹿のようにログアウトを選んだり、アプリを起動しようとしながら混乱が止まらない。
もしかしてこのまま……。
「そんなわけない」
そんなはずはない。
そんな欠陥品だとは思いたくない。ニュースメディアの記者だって大勢試しているじゃないか。いくつも読んだニュース記事が頭をよぎる。
そして思い出した。一度の充電で動作する、連続稼働時間。
それは二時間だったはずだ。
ニュースを見た時はずいぶん短いと思った。だが、フルダイブのため一定時間毎にログアウトし、自身の体を確認するタイミングを設けているのだと説明されていた。あえてバッテリーの大きさを制限したのだと。その記事は「漏らしたら困りますからね」というメーカーのコメントで記事を閉められていた。
「そうか、充電が切れれば……」
それを口に出した瞬間に気づく。
自分が充電ケーブルを差したまま、ログインしたことに。
抱えた荷物。今日は発売日。予約していた店舗で発売日に引き取ってきた。
VRのヘッドセットはいくつものメーカーから発売されている。スマホを繋げる簡易VR、ゲーム専用機としてのVR、スタンドアローン、PCに接続するもの、様々だ。
今日、万感の思いで引き取ってきたのは、世界発の完全没入型。フルダイブVRのヘッドセットだ。
VRのコントローラは凄まじい速度で進化してきた。
コントローラの位置によるコントロール、カメラによる画像認識コントロール、筋肉を動かす微小電流によるコントロール、そして脳波によるコントロール。
だがそれだけでは足りなかった。
手の動き、腕の動きは発達したコントローラで足りたが、足の動きには不十分だった。
歩く、走る、跳ねる。
足の動きとは移動を伴う。動きを検知することは出来ても、無限の広さのプレイ空間が用意出来ない以上は、VRとしては不十分だ。
そんな中、ついに発売されたフルダイブVR。
このヘッドセットは、ログイン中は筋肉を動かす電流をインターセプトすることで、動こうという意志をVR内のコントールに適用。その一方でインターセプトすることによって、実際の肉体が動かないようにする。
走っても跳んでも、実際の肉体が動かないのであれば、どこまでも走り続けることが出来る。
夢のような話だ。
これがあれば、小説やアニメの中でしかなかったリアルなRPGで遊ぶことも出来る。
上着をそのへんに放り投げ、さっそく箱を開ける。
ヘッドセットと付属のケーブルを取り出したら、まずは充電だ。
筋肉を動かす電流をインターセプトするために、ヘッドセットの使用はベッドで横になった状態を基本にしている。そのため、ヘッドセットは予め充電しておくことで、ケーブルのない状態で使えるようになっている。逆に言えば、今すぐに使いたくても、充電が終わらないと使えない。
充電をしている間に上着を片付け、取説に軽く目を通す。
安全なプライベートスペースで使用すること、ベッドに横になってから使用すること、充電ケーブルは外してログインすること等が書かれている。
取説によくある「安全にお使いいただくために」というやつだ。そこまで書く必要はないだろうというくらい細かく書いてある。馬鹿馬鹿しいが、その馬鹿馬鹿しい注意事項を書かなかったせいで裁判に負けたりするというのだから仕方がない。
取説の隅に充電ランプの表示があった。青に点灯すれば充電完了らしい。
見れば、まだ赤く点灯している。
充電にはどのくらいかかるだろうか。今すぐにでもVRで遊びたい。そのために急いで帰ってきたのだ。
このまま充電だけで今日が過ぎると思うだけで、恐怖にも似た息苦しさを感じる。
「あっ」
ベットの枕の近くにコンセントがあるじゃないか。
いそいそと充電ケーブルを差し替える。これならベッドに寝たままでも充電が続けれらる。今すぐヘッドセットを使える。
ヘッドセットを身に着けて電源を入れると、メーカーロゴが周り、そして世界が入れ替わった。
「おぉ~」
ワイヤーフレームのいかにもなVR世界でウェルカムメッセージが踊る。
手を握ってみれば確かな感触がある。
「これはすごいな」
ニュースメディアによる先行体験の記事そのままだ。手にも足にも、全ての感覚をインターセプトしたVRヘッドセットが代替えする。
ウェルカムメッセージが消えると、個人情報の入力画面が現れる。
VR用のアカウント作成。アバターに使うハンドルネーム、有料ソフトを購入するときの引き落とし先、二段階認証のための電話番号。一通りの入力を終えれば「仮アカウントを作成しました。二段階認証の確認を持って、本アカウントに移行します」というメッセージが出る。
二段階認証に使うスマホは今の状態では見れない。
認証を通すには一度VRから抜ける必要があるが、仮アカウントでも課金が出来ないだけでVRは使えそうだ。認証は後回しにしてアプリストアを開く。
定番のブラウザやSNS、グループチャットなど、よく使う無料アプリのVR版をダウンロードする。
ブラウザを起動してみれば、目の前にウィンドウが開いた。アカウントの作成でも思ったが、コントローラのボタンを押すのと、空中に浮かぶメニューをつついて操作するのとでは、ずいぶんと感覚が違う。
なんとなく未来に来た感じがする。
ブラウザのウィンドウは脇によけて、さらにアプリストアを検索する。
流石に発売日当日に、専用アプリは少ない。大体がスマホやPCでも使っているアプリのVR版で、数少ない専用アプリも今までのヘッドセットでも使えていたアプリのUI変更版らしい。
前から遊んでいたFPSもあったのでダウンロードしておく。今まで使っていたヘッドセット、今日からは旧機種にあたるものでやっていた。始めるのは無料で、ゲーム内で課金するタイプのゲームだ。
元からVRゲームなのだから、あまり違いはないはずだが、メニュー操作だけでも感覚の違いを感じている。少し、いや、とても楽しみだ。
目ぼしいものをダウンロードしてストアを抜ける。
少し考えてFPSをやることに決めた。前のヘッドセットとの違いを感じるには、やりなれたゲームが一番だ。
ゲームを起動すれば、世界はワイヤーフレームから廃墟へと切り替わる。
滅びた街を舞台にしたFPS「アーバンテレイン」。崩れた建物を遮蔽物に利用しながら戦う、市街戦主体のゲームだ。
ゲームモードは三種類。
練習用のソロゲーム。最大二十人で戦うマルチゲーム。二チームに分かれて争うチームゲーム。
ソロゲームは操作の練習や、手に入れた銃器の性能確認が主体で、人形のターゲットに銃弾を撃ち込むだけの簡単なものだ。
マルチゲームとチームゲームは、サーバー上でマッチングした相手と戦うプレイヤー同士の戦いで、勝つと賞金がもらえる。
シーズン毎に賞金ランキングが公表されたり、賞金を使って使い捨てのトラップや、少し珍しい銃が買えたりする。俺も賞金を使って「黄金色のAK47」という銃を手に入れてある。金色に輝くために敵から発見されやすく、銃としての性能は普通のAK47と変わらないというコレクターグッズだ。
まずは操作の確認のためにソロゲームに入る。
メニューから使いたい銃を選べば、手元にはずっしりとした重量を感じられる銃が現れた。
「これはいいな」
今までのコントローラとはまったく違う、銃の重さ。
二つのコントローラを手に持ち、片方の位置で狙いを定めて、もう片方のスイッチでトリガとは違いが大きい。本当に銃を持っているように見えるし、感じられる。臨場感が溢れ出てきた感じだ。そろそろこぼれそう。
トリガーを引けば、ズガンと衝撃が走る。
思わずニヤニヤしてしまうほどにいい。
本当の体はベッドで横になっているのに、重さも衝撃も再現できている。
そして、それは足の動きについても同じだ。
歩き回ってみても、走ってみても、違和感がないくらいに、床の固さを感じる。具体的にいうと、足を下ろしたときに床にあたる感触がある。
コントローラのボタンで前進や後退をしていたのとはまったく違う。これこそがVRなのだと感じる。
しばらくの間、動き回る。その後でソロゲームを終了する。
次はマルチゲームだ。
今ならまだ新型のヘッドセットからログインしている人はほとんどいないはずだ。それでこの操作性。コントローラで動かすよりも数段細かい動きが出来る。賞金を稼ぐにはもってこいだ。
だが、マルチゲームに入ろうとしたところで気づく。
「あぶねっ。月パス切れてる」
月パスは、購入から30日間優遇を受けられる有料アイテムだ。有効期間中は、毎日のログインボーナスが増えたり、勝ったときの賞金が5割増しになる特典がついている。
賞金ランキングに載ろうと思ったら必須なアイテムだ。ましてや、これから荒稼ぎをしようというのだ、月パスなしは考えられない。
いつもの手順で月パスを購入するが、決定ボタンを押したところで反応が止まる。
普段ならすぐに『購入が完了しました』のメッセージが出るはずなのに。
「あっ」
そこまで考えて気づいた。
今は仮アカウントだから課金が出来ないんだった。
失敗したなと思いながら待っていれば、何秒も待たせた後で『購入に失敗しました』というメッセージが表示される。
しょうがない、一度ログアウトして……。
そう考えたところで「アーバンテレイン」が終了して、ワイヤーフレームの世界に切り替わる。
購入に失敗したのは初めてだが、いきなりゲームが落ちるとは思わなかった。
「まあ、いいか」
どうせ一度ログアウトしようと思っていたのだ。別に問題はない。
ログアウトのためにメニューを開く。
「どこだろ」
初めてのログアウトで、メニューのどこにあるのか探さないとわからない。
メニューの下の隅に「ログアウト」の文字を見つけて選択する。
『そのアカウントは停止されました』
一瞬、頭の中に?が飛び出す。
ログアウトでアカウント停止もなにもないだろ、と。
メッセージの片隅に「詳細」のボタンを見つけて、それを押してみる。
『二段認証を通過しない不正な決済が確認されたため、アカウント停止の措置が実行されました。この措置が不当だと思う場合はサポートページから異議申し立てを行ってください』
月パス購入が原因だったようだ。
単に購入エラーでいいような気もするが、アカウント停止らしい。お金に関わるところだから厳しくしてあるんだろうか。
だがログアウト出来ないのは納得できない。
もう一度メニューからログアウトを選択する。
出て来るメッセージは同じ。
「どうすんだよこれ」
何度もログアウトを選択したが出てくるメッセージは変わらない。
「サポートページって書いてあったな」
ブラウザを立ち上げる。
『そのアカウントは停止されました』
メールソフトを立ち上げる。
『そのアカウントは停止されました』
SNSアプリを。
『そのアカウントは停止されました』
グループチャットを。
『そのアカウントは停止されました』
じんわりと嫌な予感が広がっていく。
何をしようとしてもアカウント停止のメッセージしか出てこない。ダウンロード済みのアプリだろうと何だろうと、アカウントが停止されていると起動することすら出来ないのか。
「なんでだよ。どうすればいいんだよ」
サポートページは開けない。
誰かに助けを呼ぶことも出来ない。
何よりログアウトが出来ない。
昨日まで使っていたヘッドセットなら、ログアウトが出来なくなってもヘッドセットを外せばいいだけの話だ。そのあとでスマホでもPCでも使ってサポートページへアクセスすればいい。なにも問題はない。
だがこの最新のヘッドセットはフルダイブ型だ。全ての動きはヘッドセットにインターセプトされて、本当の体は動かない。ログアウトしなければヘッドセットを外すことすら出来ない。
馬鹿のようにログアウトを選んだり、アプリを起動しようとしながら混乱が止まらない。
もしかしてこのまま……。
「そんなわけない」
そんなはずはない。
そんな欠陥品だとは思いたくない。ニュースメディアの記者だって大勢試しているじゃないか。いくつも読んだニュース記事が頭をよぎる。
そして思い出した。一度の充電で動作する、連続稼働時間。
それは二時間だったはずだ。
ニュースを見た時はずいぶん短いと思った。だが、フルダイブのため一定時間毎にログアウトし、自身の体を確認するタイミングを設けているのだと説明されていた。あえてバッテリーの大きさを制限したのだと。その記事は「漏らしたら困りますからね」というメーカーのコメントで記事を閉められていた。
「そうか、充電が切れれば……」
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