ある魔法都市の日常

工事帽

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パン屋の桂木さん3

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 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴れば授業は終わり。今日はこれで学校も終わり。
 途端に騒がしくなる教室で、私も友達の桂木に声を掛ける。

「桂木っ、帰ろっ」

 近所に住んでる桂木とは、学校に来る前からの友達。さっきの授業では寝てしまって原先生に起こられていたけど、実は、珍しくもない光景だったりする。
 大体、お昼を食べた後の授業って眠いしね。

 たぶんだけど、先生もそれは分かってるんだと思う。
 午後の授業って魔法講座のことが多いし、魔法講座のほとんどは魔法の練習だから。座ったまま話を聞くだけの魔法講座って、そんなにないし。

「なんにもしてないのに叩かれたのよ」

 そう桂木は言うけど、怒られたのは寝ていたからだ。

「だから何か食べて帰ろうよ」

 何がだからなのか分からないし、午後の授業の前に昼食を食べたばかりだ。そんな短時間でお腹は空かない。食べれないくらい一杯かと言うと、そうでもないけど。

「またぁ? 桂木ってば、いっつもなにか食べてない?」
「そんなことないよ。昨日は真っ直ぐ帰ったもの」

 それって、昨日は魔法の使い過ぎで気持ち悪いとか言ってたからよね。
 それに一昨日は食べてたよね。おっきな焼きソーセージ。

 二人で連れ立って学校を出る。
 学校の場所は、住宅街と商店街の間くらい。住宅街にはお店がまったくなかったり、商店街に住んでる人がまったくいなかったりはしないけど、なんとかく、そういう区別がされている。
 私も桂木も住んでるのは商店街の中だし。

 二人共、家がお店屋さんをやってるから、家族で揃って商店街の中、お店の奥に住んでる。お店によっては、別のところで暮らしていてお店には通っている人もいる。お店に雇われている人は通いが多いように思う。

 それはつまり、帰り道は商店街の中を通るということで。

「糸野ちゃんは、何がいいと思う?」

 道の途中、回りのお店をチェックしながら桂木が言う。
 どう見ても食べる気満々の友達には苦笑するしかない。いつの間にこんなに食いしん坊になったんだろ。

「やっぱり焼きソーセージかな。でもシンプルに肉串とかでもいいよね」
「お昼食べてからそんなに時間経ってないんだし、軽いおやつくらいにしといたら」
「おやつっていうと、クッキーとか? あれ美味しいけど、高いよね」」

 おやつに軽く食べるくらいの量なら、肉串と比べても似たような値段だと思うけど。

「あ、あれもおいしそー」

 桂木がそう言って見ている先では、店先で焼いた肉の切り落としをパンに挟んで売っていた。

「パン食べたいなら、家に帰って食べたら?」

 パン屋さんなんだし。

「違うの。そうじゃないの。帰り道で食べるからいいんじゃない!」

 いや、そんな力説されても分からないよ。
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