ある魔法都市の日常

工事帽

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宿屋の愛宕さん

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 窓を大きく開いて太陽の光を入れる。光がとても暖かい。ついでに風を通せば、なんとなくいい気分になる。特に今日のような晴天の日は。

 明るくなった部屋の中、テーブル、椅子と、部屋にある家具を拭く。
 ベッドからリネンを外して、きれいに洗ったものに取り換える。しわが出ないようにシーツを敷くには手順がある。手順を間違えるとキレイに敷けない。
 この宿にお世話になって始めに教えられたのは、掃除のやり方だった。そして部屋の整え方。その中でもシーツの敷き方は一番難しい。

 一部屋終わらせる。リネンを詰め込んだ篭を、ゴミを入れた木箱の上に乗せて引っ張る。行先はすぐ隣の部屋の前まで。掃除している部屋の前にはこれがある。
 見れば、廊下を挟んで反対側を掃除している姉さんは、もう二つも先の部屋をやってる。
 急いで次の部屋の掃除を始める。

 この宿屋で働くようになって、もう六年、いや七年かな。もしかしたら八年かもしれない。まあどうでもいいや。
 実のところ、この宿屋で働くようになったキッカケは、あまりいい思い出じゃない。

 その日、この宿にはお客さんの一人として泊まった次の日だった。

 話すことも少ない父さんとのお出掛け。突然に訪れた数日の旅は、見るもの全てがめずらしく、楽しかった。その行きついた先のこの街も、そう。暮らしていた村とは、全然ちがう景色。めずらしいものにあふれた世界は、楽しかった。
 その楽しさが終わるのは早かったけど。

 父親とはぐれ、迷子になった末に宿に辿り着いたのは、宿の名前を憶えていたからだ。
 しかし、宿に辿り着いたところで父さんはいなかった。
 すでに部屋を引き払い、街を出たと聞かされたときには、何が起きたのか分からなかった。

 そして姉さんをはじめ、宿の人たちに拾ってもらった。「お父さんが迎えにくるまで、ここで働けばいい」。あれから一度も父さんには会っていない。

 全部の部屋の掃除が終わったら、次は洗濯だ。
 集めたリネンを洗濯機に入れて魔力を注ぐ。洗濯機は私も入れるくらい大きい。それでも一度に全部は入りきらない。何回も回すことになって、すごく魔力を使う。

 夜には灯りをつけるのに、また魔力を使う。日によって泊まる人の数が違うから、使う魔力もまちまちだ。でも大抵は足りなくなって、残りは魔石の魔力を使う。魔石は高いと聞いてるから、使うのが後ろめたい。姉さんは魔石を使っていいんだと言うけれど。本当は自分で全部出来ればいいのに。

 洗濯機を回している間に、先に洗ったものを干す。干し終わるころには次の洗濯が終わっている。洗濯機を回す。干す。

 洗濯は魔力を使うし、干すのは腕力が必要だ。水を吸ったシーツはとても重い。
 それでも、青空の下でシーツを広げるのは嫌いじゃない。

「ん~~」

 干し終わったシーツの群れの前で背伸びをする。

「しほちゃーん。お昼にしよー」
「はーい」

 姉さんの声に呼ばれて宿の中に戻る。
 今日のお昼はなんだろう。
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