ある魔法都市の日常

工事帽

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日雇いの合田さん

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 ガラガラと音を立てる荷車。街の中の道は、石畳が引かれていて、荷車を引いていても引っかかるところはない。村の道とは大違いだ。
 村の道は凸凹ばかりで、雨が降ればそこら中が水たまりだ。晴れていても、凹んだ場所では荷車が斜めにかしいで、引っ張り出すのに苦労する。酷いところは、村の皆で土を運んで来て埋めるが、それも気休めだ。すぐに別のところに凹みが出来る。

 街の中の道は、石畳が引かれていて、荷車を引くのは楽だ。ただしそれは平地の話。
 街のいたる所にある坂。
 上り坂はしんどいし、下り坂は気を使う。
 いつも使っている借り物の手袋がなければ、手に擦り傷の一つも出来るのかもしれない。だが俺は頑丈だ。べつに必要なんてない。手袋なんて、意味のないものだと思っていた。だが、今は腕輪まで隠れる手袋がありがたい。

「よおし、ここだ。荷を下ろすぞ」
「おう」

 先導していたおっさんが荷車を止めるのに合わせて、俺が引いていた荷車も止める。荷車が動き出さないように、車輪止めの木片を前後に噛ませたら荷下ろしだ。

 罰金刑を受けて、腕輪を嵌められてから数日。俺は日雇いの仕事に戻っていた。
 嵌められた腕輪は罰金を払い終わるまで外れない、罪人の証だ。
 正直、この腕輪をしたままで雇ってもらえるのか、不安だった。だが、斡旋所のおっさんはいつも通りに仕事を紹介して「手袋を忘れるな」と言っただけだった。

 手袋は大きめだ。手首まですっぽりと入る大きさがある。
 仕事の斡旋を受けたら、手袋を嵌めて、作業票を持って仕事場まで行く。帰りには作業票にサインを貰う。作業票と手袋を返せば、今日の金が支払われる。
 だから、作業票と手袋はセットで、仕事を受けた証のようなものだ。
 なくしたら弁償だと言うから、無くさないように手袋をしていただけだった。

 だが、腕輪をして、手袋で隠れるのを見てからだと少し話が変わってくる。
 そのつもりで見れば、日雇いの中には、手首になにか付けている奴がいるのが分かる。俺と同じように。

「よし。次にいくぞ」
「おう」

 運んだ先の人と、何やらやりとりをしていたおっさんが、再び荷車に手をかける。
 このおっさんは卸売りの仕事だという。
 卸売りってのは、店に品物を売る、でっかい店なんだそうだ。それなのに、俺と一緒に荷車を引いている。多分、下っ端なんだろう。

 いくつかの場所で、荷物を下す。どこで何を下すのかは、おっさんの指示だ。
 その中には、前に行ったことがある場所もある。ポーションを作っているって場所もそうだ。あの時は、たまたまここで貴重な薬草のことを聞いた。
 量の少ない、貴重な薬草だから、卸売りを通さずに直接売りに来るって話だ。あんな話を聞かなけりゃ俺は……。

「よし。次にいくぞ」
「……ああ」

 顔を上げれば、遠くにデカい鳥が飛んでいるのが見える。
 あれも鳥ではなくて、魔力屋みたいに羽が生えた人間なんだろう。
 街の中にはオーガやジャイアントなんていうデカいやつらが普通に歩いている。頭の上に耳があったり、尻尾が生えていたり、石の像が動いていたり。

 夜の畑では、畑の中から出て来る得体の知れない叫び声に、気を失った。夜の街では、デカい女に驚いているうちに、気が付いたら牢屋の中だ。

 本当、この街はどうなってるんだか。
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