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第一話
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再生数を見てほっとする。
昨日投稿した動画も順調に再生数が増えていっていた。
全て短時間の動画ながら、投稿数も百を超えて、数カ月前からは収益化にも成功している。
今はまだ小遣い程度だが、このままがんばれば生活費を稼ぐことが出来るだろうか。
そうは思っても、流行り廃りの早いこのメディアで「このまま」を維持するのはとても難しい。動画を投稿する度に、再生数やコメントが気になってしょうがない。
元々は普通のサラリーマンだった。
営業職として、毎日、客先を回る日々。
それなりにやりがいを感じ、学生時代から付き合っていた彼女とも結婚し、細かい不満はあっても、傍目には幸せな人生に映っていたことだろう。
それがひっくり返ったのは、たった一度の交通事故だった。
仕事中にあった交通事故。
それで俺は、片足を失った。
妻や友人には、命があっただけ良かったのだと、そう嘯いてみても、足を失って出来なくなったことは多い。
大きな所では仕事だ。
車で客先を回るのが日常だった所に片足を失ったのだ。
障碍者用の車もないではないが、社用車にそれを求めるにはハードルが高すぎた。値段だけではなく、片足のない俺専用に車を用意するのかという問題だ。
結果。社内で出来る事務系の仕事に回された。まあ、すぐに解雇されなかっただけ温情はあったのだろう。今ならそう思える。
だが、当時は無理だった。
自分で運転できる車はなく、仕事への送り迎えは妻任せ。慣れない義足で歩くだけはなんとか出来るものの、慣れない仕事と、慣れない義足の生活で、俺は疲弊していた。
そして、程なく、退職届を出すに至った。
俺は、誰の役にも立たない。
それがその時の心情だ。
退職より少し前、退院からリハビリをする期間に、妻が仕事を始めたことも、多少の影響はあったのかもしれない。今まで俺が得ていた給料が無くなったのだ。何があるか分からない重傷の期間を過ぎれば、自分達の生活を心配するのは分かる。俺に頼らずに自分で稼ごうとするのも分かる。
分かるだけに自分の不甲斐なさが重く圧し掛かる。その頃からだっただろうか「無理はしないで」が妻の口癖になったのは。
勿論、妻を非難するつもりなどない。
なにせ片足がないのだ。俺が、職場に復帰出来ず職を失うことを考えれば、その代わりを務めようとしてくれた気持ちには、感謝の言葉しかない。
今では。
だが、その時には、そう、言い訳に過ぎないとは分かっているが、俺には余裕がなかった。
退職を決めた俺に妻はただ「それでいい」と、そう答えた。
退職してしばらくは何もしなかった。ゲーム一つやる気になれず、動画をだらだらと見る程度がせいぜいだった。
そのうち、気が持ち直してくると、家事を少しづつやるようになった。
短い距離だが、スーパーへの買い物は、義足に慣れるのに丁度よかったように思う。
掃除、洗濯は問題なくやれたが、料理についてはイマイチだった。
まったく出来ないわけではなかったが、料理動画を見ながら作ってもイマイチな味にしかならず、無理に作るよりは買ってくる弁当や総菜のほうが美味しく、あまり作ろうという気にはなれなかった。
動けるようになると、収入を妻に頼り切りな状況に、罪悪感を覚えるようになる。
何か仕事をと探し始めるも、義足のことがあるから、肉体労働は全てNG。同じ理由で、立って行う仕事もNG。車の運転が必要な仕事もNG。と、出来る仕事はなかなか見つからない。
そんな中で動画の投稿を始めたのは、パソコンの勉強を兼ねてのことだった。
座って出来る仕事を探すなら、パソコンは必須になる。
前の会社でも使ってはいたものの、外回り中心の仕事ではパソコンにさわる時間自体が短く、教わった通りにデータを登録するくらいしかしていなかった。
片足を失ってから退職するまでの間は、パソコン中心の業務になったものの、人に聞かなければ何も出来ないという事態に随分と凹んだものだ。
動画の作り方、動画の投稿の仕方は、いくらでも解説しているホームページがあったし、見ていた動画サイトでも動画の作り方を説明した動画がいくつも投稿されていた。
それらを見ながら、勉強ついでに投稿した動画は意外にも再生数が伸びた。
伸びたとは言っても、今と比べても桁が低いし、有名な投稿者と比べたら、今でも桁が低い。
それでも見る人がいるという事実は励みになった。
動画投稿が、パソコンを勉強する手段から、目的に入れ替わった。
「もうちょっと工夫出来ないかなぁ」
パソコンの前で独り言ちる。
投稿を続けていく中で、サムネを工夫し、効果音などの演出を入れるようになった。
一通りやれることをやった結果、自分なりの動画のスタイルも出来てきたように思う。
だが、上を見ればキリがないとは言え、再生数もチャンネル登録ももっと増やしたい。
「ああ、こういうのを調べるか」
動画についたコメントを見ていてふと思う。
自分でやることを一通りやってしまったのだから、次は他人の意見を参考にしてみようと。
早速、自分のチャンネル名や、動画タイトルで検索をかける。
「結構、紹介してくれてる人がいるな」
動画についていたコメントは「面白かった」「待ってました」といった肯定的なものばかりだった。動画サイトを離れればブログで動画の紹介をしてくれている人も、SNSで感想を書いている人も居た。こちらも「面白いから見て」ということばかりで、あまり意見などは見当たらない。
動画自体は大量にあるのだ。面白くないと思ったら途中で再生するのをやめるし、別の面白そうな動画に移動する。面白くないと思った人は、俺の動画のことなんてすぐに忘れるから、何が面白くないかなんて書き込むこともないのだろう。
昨日投稿した動画も順調に再生数が増えていっていた。
全て短時間の動画ながら、投稿数も百を超えて、数カ月前からは収益化にも成功している。
今はまだ小遣い程度だが、このままがんばれば生活費を稼ぐことが出来るだろうか。
そうは思っても、流行り廃りの早いこのメディアで「このまま」を維持するのはとても難しい。動画を投稿する度に、再生数やコメントが気になってしょうがない。
元々は普通のサラリーマンだった。
営業職として、毎日、客先を回る日々。
それなりにやりがいを感じ、学生時代から付き合っていた彼女とも結婚し、細かい不満はあっても、傍目には幸せな人生に映っていたことだろう。
それがひっくり返ったのは、たった一度の交通事故だった。
仕事中にあった交通事故。
それで俺は、片足を失った。
妻や友人には、命があっただけ良かったのだと、そう嘯いてみても、足を失って出来なくなったことは多い。
大きな所では仕事だ。
車で客先を回るのが日常だった所に片足を失ったのだ。
障碍者用の車もないではないが、社用車にそれを求めるにはハードルが高すぎた。値段だけではなく、片足のない俺専用に車を用意するのかという問題だ。
結果。社内で出来る事務系の仕事に回された。まあ、すぐに解雇されなかっただけ温情はあったのだろう。今ならそう思える。
だが、当時は無理だった。
自分で運転できる車はなく、仕事への送り迎えは妻任せ。慣れない義足で歩くだけはなんとか出来るものの、慣れない仕事と、慣れない義足の生活で、俺は疲弊していた。
そして、程なく、退職届を出すに至った。
俺は、誰の役にも立たない。
それがその時の心情だ。
退職より少し前、退院からリハビリをする期間に、妻が仕事を始めたことも、多少の影響はあったのかもしれない。今まで俺が得ていた給料が無くなったのだ。何があるか分からない重傷の期間を過ぎれば、自分達の生活を心配するのは分かる。俺に頼らずに自分で稼ごうとするのも分かる。
分かるだけに自分の不甲斐なさが重く圧し掛かる。その頃からだっただろうか「無理はしないで」が妻の口癖になったのは。
勿論、妻を非難するつもりなどない。
なにせ片足がないのだ。俺が、職場に復帰出来ず職を失うことを考えれば、その代わりを務めようとしてくれた気持ちには、感謝の言葉しかない。
今では。
だが、その時には、そう、言い訳に過ぎないとは分かっているが、俺には余裕がなかった。
退職を決めた俺に妻はただ「それでいい」と、そう答えた。
退職してしばらくは何もしなかった。ゲーム一つやる気になれず、動画をだらだらと見る程度がせいぜいだった。
そのうち、気が持ち直してくると、家事を少しづつやるようになった。
短い距離だが、スーパーへの買い物は、義足に慣れるのに丁度よかったように思う。
掃除、洗濯は問題なくやれたが、料理についてはイマイチだった。
まったく出来ないわけではなかったが、料理動画を見ながら作ってもイマイチな味にしかならず、無理に作るよりは買ってくる弁当や総菜のほうが美味しく、あまり作ろうという気にはなれなかった。
動けるようになると、収入を妻に頼り切りな状況に、罪悪感を覚えるようになる。
何か仕事をと探し始めるも、義足のことがあるから、肉体労働は全てNG。同じ理由で、立って行う仕事もNG。車の運転が必要な仕事もNG。と、出来る仕事はなかなか見つからない。
そんな中で動画の投稿を始めたのは、パソコンの勉強を兼ねてのことだった。
座って出来る仕事を探すなら、パソコンは必須になる。
前の会社でも使ってはいたものの、外回り中心の仕事ではパソコンにさわる時間自体が短く、教わった通りにデータを登録するくらいしかしていなかった。
片足を失ってから退職するまでの間は、パソコン中心の業務になったものの、人に聞かなければ何も出来ないという事態に随分と凹んだものだ。
動画の作り方、動画の投稿の仕方は、いくらでも解説しているホームページがあったし、見ていた動画サイトでも動画の作り方を説明した動画がいくつも投稿されていた。
それらを見ながら、勉強ついでに投稿した動画は意外にも再生数が伸びた。
伸びたとは言っても、今と比べても桁が低いし、有名な投稿者と比べたら、今でも桁が低い。
それでも見る人がいるという事実は励みになった。
動画投稿が、パソコンを勉強する手段から、目的に入れ替わった。
「もうちょっと工夫出来ないかなぁ」
パソコンの前で独り言ちる。
投稿を続けていく中で、サムネを工夫し、効果音などの演出を入れるようになった。
一通りやれることをやった結果、自分なりの動画のスタイルも出来てきたように思う。
だが、上を見ればキリがないとは言え、再生数もチャンネル登録ももっと増やしたい。
「ああ、こういうのを調べるか」
動画についたコメントを見ていてふと思う。
自分でやることを一通りやってしまったのだから、次は他人の意見を参考にしてみようと。
早速、自分のチャンネル名や、動画タイトルで検索をかける。
「結構、紹介してくれてる人がいるな」
動画についていたコメントは「面白かった」「待ってました」といった肯定的なものばかりだった。動画サイトを離れればブログで動画の紹介をしてくれている人も、SNSで感想を書いている人も居た。こちらも「面白いから見て」ということばかりで、あまり意見などは見当たらない。
動画自体は大量にあるのだ。面白くないと思ったら途中で再生するのをやめるし、別の面白そうな動画に移動する。面白くないと思った人は、俺の動画のことなんてすぐに忘れるから、何が面白くないかなんて書き込むこともないのだろう。
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