異世界少女は仮想世界で夢を見る

工事帽

文字の大きさ
23 / 55

20.異世界少女は働かない

しおりを挟む
 カーン、カーン、カーンと石を叩く音が鳴り響く。
 フォースの街のギルドには石工が多い。
 すぐ近くに石切り場があるということが、その理由の大半だ。逆に、戦闘職にとってはゴーレムくらいしか出ないフォースの街周辺は、あまり人気がない。

 もう一つ理由を付け加えるとするなら、スキルレベルだろう。
 一定以上のスキルレベルを持たないと、街へ入るためのクエストが発生しない。一芸に特化した生産職であれば中堅レベル程度のものだが、武器の種類によるスキル、攻撃系スキル、防御系スキルと、平行していくつものスキルを育てる必要がある戦闘職にとってのハードルは高い。
 だから、その日にギルドでクエストを探していたプレイヤーたちも生産職、石工だった。

「よう、このクエストどうよ」
「んー? 石畳? なんかつまんなそう。もっとこうロボット的なさ~」
「金額見て見ろよ」
「うわ、めっちゃ高いじゃん。これ受けようぜ」

 金銭効率、経験効率。効率を追求する者も、しない者もいる。だが、目の前においしいクエストがぶら下がっているのを、見逃すプレイヤーはいなかった。
 そうして石工たちは、大量の石材を抱えて村を目指す。

              *

 村からほど近い海岸。そこに何人ものプレイヤーが集まっていた。
 近くには、海岸に引き上げられたいくつもの船がある。
 船の扱いは乗り物に準じる。お金さえ出せば小型の船をレンタルすることは可能だし、金額の多寡を考えなければ、大型の船を購入することも可能だ。

 だが、収納に仕舞うことは出来ない。
 船から降りたら、船が流されないようにどこかに繋いでおくか、陸に引き上げる必要がある。
 この砂浜のように、繋ぐものがない場所では、陸地に引き上げる一択だ。
 そして桟橋のない砂浜であれば、浅瀬の海からプレイヤーが引っ張って陸地まで引き上げることになる。

「このあたりに作れないか?」
「出来なくはないが……、ここは遠浅だろ。もっと水深が深くないと、大きな船は入れないぞ」
「ああ、それがあったか。今は、海辺で船から降りて砂浜まで引き上げてるから、遠浅でいいんだが。桟橋だと違うか」
「でも村の距離で見たら、このあたりのが便利じゃない。土を掘るとかしたら……」

 集まって話し合っていたのは、桟橋を作る場所だった。
 すでに村からの依頼でクエストは発行されている。ただ、作る場所が問題だ。そこで大工と船に乗る人たちで、場所を相談することになった。

 相談にあたっては、桟橋の場所だけではなく、使う船の大きさに合わせた桟橋の規模が必要になる。そこで現地を見ながら話そうと海岸までやってきたのだ。

「掘るにしても人手が問題になるぞ。村の建物もまだ途中なんだ、大工が足りない」
「大工って木工スキルだっけ。誰か呼んでくるわけにはいかないの?」
「知り合いは全部声を掛けたあとだからな~。なんなら船乗りみんなで木工スキル取ってみるか?」
「え、いやだよ。ウチは漁師だもの」
「でも、木工スキルがあれば、船の修理も出来るようになるぞ」
「それは……」

 村からは、一気にクエストが発行された。
 それは生産職にとっては、いくらでも稼げるといってもいいくらいの量だ。だが、それだけに、一度に作れる物は職人の数で制限される。

 元々、大工の数は少ない。
 生産職よりは戦闘職のほうが人気は高い。生産職の中でも、戦闘に使う武具が作れる鍛冶師や、料理でバフがかかる料理人、一時的に装備に属性を付与できる付術師のほうが人気が高い。
 それは攻略組と言われる、難易度の高い地域で活動する戦闘クランに居場所があるかどうかによる。

 木工スキルで作れる武具なんて、初心者用の木刀や木の盾くらいのものだ。
 だから大工の職業は人気がない。
 今、大工へ転職を果たしているのは、戦闘に興味が薄い、趣味で物作りをしたい人たちばかりだ。
 一人で好きに物作りをしている分には、大工が何人いようが関係ない。だが、この村のように大規模な工事が立て続けに、となると人数は一人でも多いほうがいい。

「考えてもみてくれ。この先、漁の途中で船が壊れるかもしれない。近くの海岸に避難するかもしれない。そんな時に船を修理出来るかどうかは重要じゃないか。それに、もっといい漁場を見つけたとして、近くの海岸に小屋の一軒も建てれれば、そこから漁に出れるぞ」

 桟橋の話し合いは、いつの間にか大工の勧誘へと移っていった。

              *

「用意が出来たならいくぞ」
「ちょっと待ってくれよ。いきなり店が閉まってしまって、魚が買えないんだよ」
「幽霊船か。タイミング悪いな。なら船着き場だ、運がよければ漁師がいる」
「それがあったか」

 サイドの港町では料理人が準備に忙しく立ち回っていた。
 急に出来た海沿いの村。何人かの料理人は、少し前からその村で屋台を開いていたという。二人がその存在を知ったのは、ほんの数日前だ。

 村を作ったという美少女には、他の料理人たちと一緒にサードの街に入るクエストを手伝ってもらった。その時は、報酬は料理だけでいいという話しだったし、討伐系のクエストは一人ではクリア出来ない。すぐにサードの街に入るわけではないが、このチャンスにクエストをクリアしておこう、そのくらいの気持ちだった。

 だが、その後にギルドから大量のクエストが発行された。
 行先はその村。
 クエストの種類は製造系。船をつけるための桟橋に、村の外壁の建築、NPCが常駐する商店なんかも建てるらしい。
 そのクエストは、料理人には直接関係はないが。料理を食べることでつくバフは、どの職人にも有効だ。特に魚料理でつくDEXのバフは、その製造職でも作業効率を上げられる。

 つまり、売れる。

 屋台区画はないようだが、料理人であればレンタルした屋台がある。街の中だろうが、を街の外のフィールドだろうが屋台を広げることが出来る。何も問題はない。
 それに、村へ行けば美味しそうに食べてくれた、あの美少女にもう一度会えるかもしれない。
 そうして料理人たちは船着き場へ向かった。

              *

 村では至る所に職人が張り付き、開発が進んでいた。
 職人の数には限りがあるため、抜群の速さで、という訳にはいかない。それでも現実で重機を使って建てるよりも、遥かに早いスピードで進むのは、ゲームならではだろう。

「本当にここに建てるのかい?」
「ええ、このラインでだだーんと建てちゃってください」
「随分と、村から離れてるが……」

 振り返れば、元々の村の柵が遠くに見える。
 その間を、シー・スラッグがのんびりと横切っていく。ノンアクティブで、ドロップ品が建築の素材になる。石工にとっても、大工にとっても馴染み深い魔物だ。

「いやあ、なんか、都市計画?的なあれで、このくらい広くないと、建物が入りきらないからダメなんですって」
「どんだけ広げる気なんだよ」
「だから、ここまでです」
「……わかった」

 一人は石工で、村の外壁の工事クエストを請け負ったのだが、予想よりも広い範囲に驚いていた。
 知り合いの石工も何人も村に来ている。知り合いたちは、先に村の中で、道路にあたる部分の石畳を作ることになっていた。
 しかし、これだけ広いとなると、先に外壁に手を貸してもらったほうがいいだろうか。どうせ石畳も、外壁の傍まで敷き詰めることになるんだろう。ならば、順番は外壁が先だ。

「あ、あとですね。外壁の上に石像が欲しいんですけど、出来ます?」
「石像は、俺の専門じゃないな。作ってるヤツから買い取ってくるんでもいいのか?」
「はい、はい、大丈夫です。じゃあ石像の買い取りで、別にクエスト出しておきますね。それで、こんな感じの石像がいいんですけど……」

 そういって収納から取り出したのは、三頭身の犬の像だった。ぬいぐるみのように可愛らしい。だが石だ、固い。

「なんだ。メイアンが彫ったやつか。なら、あいつに頼めばいいな」
「知ってるんですか。なら安心ですね。誰が作ったのか分からなくて、困ってたんですよ」
「まあ、大丈夫だと思うぞ。ただ、あいつ、こういう可愛いやつ作ってるの隠してるんだよ。とっくにバレてるけどな」

 他の石工がいる前では彫らない。そして並べてある石像も、手前は猛々しい獣ばかりで、可愛い石像は奥のほうに隠してある。近づいて覗き込めば、見つかる程度の隠し方だが。
 それでも、隠しているという気持ちを考えて、周囲の石工は何も言わないでいる。

「それで、ここに建てるのは分かったが、あっちのシー・スラッグはいいのか?」

 のんびりと進むシー・スラッグは、まだ視界の半分も移動していない。
 こちらから戦いを挑まなければ問題ないとはいえ、魔物が沸く場所の外側に外壁といわれると、何か違うように思う。

「よく分かんないんですけど、外壁が出来た後に、付与して?司教の魔法で?なんとかなるらしいです」
「ふーん。それならいいさ」

 付与使いの職業についている知り合いはいる。司教は、攻略組にいるような上級の支援職だから、知り合いにはいないが。なんとかなるなら、石工は石工らしく仕事をするだけだ。

              *

 サードの街は森に囲まれている。
 森の中ではレアドロップ狙いに猿を狩るプレイヤーと、木材狙いでトレントを狩る斧使いが多い。生産職と戦闘職のバランスが取れた狩場だと言える。
 しかし、しばらく前からトレントを狩るプレイヤーが、多く滞在するようになった。

 それはトレント材の需要の急増。
 木材の加工するための作業所、通称「加工所」。トレント材はそこで大量の買い取りを行っていた。だが、その日は多くいた職人たちの姿も少なく、買い取りに訪れる人の姿もまた少なくなっていた。
 トレント材を持ってきたプレイヤーが不審に思って訪ねる。

「ひょっとして木材の買い取り終わった?」
「いや、買い取りはあるよ。今度はギルド経由に代わっただけ、だからギルドに持って行ってくれ。値段は一緒」
「それならいいや。でもギルド経由ってなんでだ?」
「作ってた村にギルドが建ったからな」
「え? お前ら村作ってたの?」

 木材を売りにきて、何人もの職人が加工しているのは知っていても、それが何を示しているのかは理解していなかったプレイヤーが驚く。

「なんだと思ってたんだよ」
「いや、誰かがクランハウスでも建てるんだろうなー、と」

 聞けば、森を抜けた海岸に村が出来ているという。
 元より森の中で狩りをしているのだ、もう少し足を伸ばすだけで海があり、新しい村がある。そう聞けば見に行こうという気にもなる。しかも工事中の建物が沢山あるという。建った建物には特に興味もないが、工事中は見てみたい。
 そうしてクエストとは無関係に、村への見物客も増えていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

聖女じゃない私たち

あんど もあ
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生二人。王太子によって、片方は「聖女」として王宮に迎えられ、片方は「ただの異世界人」と地方の男爵に押し付けられた。だが、その判断に納得する二人ではなく……。

処理中です...