異世界少女は仮想世界で夢を見る

工事帽

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42.異世界少女は襲われる

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 広場で話を聞き終わったアリスは、館に帰ることにした。
 ギルドの中で数人、広場へやって来てからも数人。
 マナが多いプレイヤー。確認した全員のログインの頻度が低かった。となれば、ログインという行為にマナを消耗する何かがあるということになる。

 ログインのときにどうやって奪っているのか、奪った目的はなにか。そういったことまでは調べられていないが、いずれも些末なことだ。
 コロンのように、魂のマナが少ないプレイヤーには、ログインをしないように伝える。それだけで魂の崩壊から逃れられる。それが重要なことだ。

 最後に話していたプレイヤー二人と別れて、広場の端へ向かう。
 今度こそ屋台区画、とも思うが、コロンへ話をするのが先だろう。
 だが、広場を出る前に、立ちふさがる者たちが居た。

『名前:ロック 職業:剣士  レベル:不明 能力値:不明』
『名前:伏木  職業:盗賊頭 レベル:不明 能力値:不明』

 鑑定結果に見覚えのある二人だった。
 他のプレイヤーであれば、名前、職業の他にレベルや能力値が帰ってくるのが鑑定だ。その一部で『不明』と帰ってきたのは、覚えている限り一度だけ。
 それは運営を名乗る二人だった。

「なにか用かしら?」

 言葉には何も返ってこない。
 言葉どころか、視線ですら。
 虚ろな瞳の二人は、アリスを見ているようで見ていない。

(催眠? 洗脳? いえ、違うわね)

 アバターのマナが変だ。
 他のプレイヤーが使っているアバターのマナよりも、遥かに多いマナを持っている。
 ログイン頻度で、魂のマナの量に違いがあるのは、先ほどまで確認していた通りだ。だが、魂のマナが多くても、アバターのマナは一定量で打ち止め。魂のマナの量に比例するわけではなかった。アバターを動かすための必要な量がそこまで高くないのだろう。
 そんなアリスの仮説を否定するかのように、大量のマナがアバターにある。

 それともう一つ。

(飲まれかけていないかしら)

 アバターのマナが多すぎることで、魂のマナの量のほうが少なくなっている。
 魂とアバターの関係は推測を重ねるしかないが、主であるはずの魂より、従であるはずのアバターのマナが多いのは歪な関係に思える。

 魂同士の戦いともなれば、マナの量が勝敗に大きく関わる。
 所有するマナの少ない魂が、マナの多い魂に接触しても飲み込まれるだけだ。侵食され、飲み込まれ、そして消滅する。

 アバターは意志のない入れ物に過ぎないと考えても、自身よりも大きなマナを制御出来るのかどうか。
 そしてNPCと呼ばれる人形は、決められた動作だけであっても自律しているように見えた。人形を動かすルールと、アバターを動かそうとするプレイヤーの意志が異なった場合にどうなるのか。

 カチャン。

 そこまで考えたところで、運営の二人が武器を手に取った。
 一人は長剣を、もう一人は短剣をそれぞれの手に。切っ先をアリスに向ける。

 タンッ。

 軽い音から、音に似合わぬ急加速で、二人はアリスに襲い掛かってきた。
 振られる長剣を後ろにステップして躱し、追いかけて来る短剣を横に飛んで避ける。

 前回はまともな戦いになる前に、ガーゴイルと催眠の不意打ちで終わらせた。
 ここは広場の一角で、回りには他のプレイヤーが何人もいる。催眠にしろガーゴイルにしろ、手の内を晒すには場所が悪い。

 運営の二人がお互いに邪魔になるように、回避の方向を選ぶ。
 短剣の小刻みな突きを、持ち手を叩いて弾く。

 ならば魔法かとも考えるが、動きが早く回避するだけで手一杯だ。呪文を唱える時間もない。いっそ一撃受けてその隙にと思っても、敵の手数が多い。一撃受けたところで反撃する時間はなさそうだ。

(困ったわ)

 すぐには打つ手が見つからない。
 いっそ走って逃げようかとも思う。

「何やってんだお前!」

 回避を続けながらも、視界の隅に映ったのは、さっきまで話をしていた二人のプレイヤーだった。
 アリスが襲われているのに気づいたのだろう。二人は駆け寄ってくるなり、運営の二人を攻撃する。
 一人は斧で、一人は盾を構えての体当たりだ。
 だがその攻撃は不発に終わる。斧は剣で、盾を使っての体当たりも短剣を持ったまま、運営を一歩も引かせることもなく受け止められる。

「うわっ」
「がっ」

 そして二人のプレイヤーは運営の一撃で消滅した。

(少し、締まらないわね)

 あっさりと消えていくプレイヤーの姿にそう思いながらも、二人が作ってくれた隙にバックステップで距離を取る。
 そして呪文を詠唱した。

我は宣言するアサーション。風よ集いて刃となせ。『姿なき群狼』」

 いくつもの風の刃が運営二人の足に襲い掛かる。
 切り飛ばされる両足。白い断面を晒すそれが転がっていき、運営二人は地面に這いつくばる。
 それでも虚ろな目のまま、這ってアリスの元へ向かってくる二人。
 アリスはその背に手を突き立てた。

              *

 ある建物の屋上。男は一人、広場を見下ろしていた。
 広場では遠巻きに見守る何人ものプレイヤーの姿、そしてその中心ではアリスが一人、立ち上がるところだった。
 アリスに倒された開発チーム二人の姿は既にない。
 アバターは消滅した。、数分後にはどこかの街でリポップすることだろう。

「身体能力は高いが、アバターと同等くらいか。あの魔法はなんだ、この世界の魔法とは違うのか?」

 男は独り言をつぶやきながら、メニューを操作して今の映像を再生する。
 貴重な戦闘映像だ。逃げられる前にと、この街にいた二人をぶつけて見た。捕らえることは出来なかったものの、アリスの能力のいくつかは把握出来た。
 戦った開発チームのメンバーの身体能力は、プレイヤーアバターの上限値と同程度。ステータスがカンストした状態に近い。カンスト状態で動かすには大量のエネルギーが必要になる。本来はプレイヤーが到達出来ないステータスだ。
 そのアバター二体で、反撃できない程度には封じ込められたのだ。今、この街に向かっている他の開発チーム総出で掛かれば、反撃を許すことはないだろう。

 問題は今回のように邪魔が入った場合だ。
 接近戦ならば完封出来るとしても、他のプレイヤーが邪魔をしたり、接近する前に魔法を使われた場合が問題となる。
 映像では口元が動き、数秒後に前方に何かを飛ばしたように見える。そして開発チームの両足が切り落とされた。

 この世界のルールでは、魔法に詠唱も宣言も必要ない。
 メニューから使いたい魔法を選択し、対象を指定する。
 慣れない初心者はメニューを手で操作するから時間がかかる。慣れてきた中級者以上になると視線だけでメニューを操作する。
 どちらの方法でも口元が動くことはない。

侵入者インベーダーのルールは何だ」

 この世界のルールとは異なっても、何らかのルールがあるはずだ。

 それに石像の一件もある。
 以前に開発チームが倒された時、一人は石像に攻撃されたと言っていた。
 石像を付与魔法でゴーレムに仕立て上げる魔法は、この世界にもある。その時は単に、魔法が使えるのかと思っただけだった。同じ効果に見えても、まったく別のルールに則った魔法であれば、ゴーレムの能力もまた未知数となる。

 今回はゴーレムを連れていなかった。もし連れていれば、一対一が二組になったはずだ。
 プレイヤーの乱入がなくても開発チームが負けていた可能性は高い。

「この世界のルールなら、ゴーレムの能力はプレイヤーの半分にも満たないが、警戒は必要か」

 ゲームにおいては、あくまでプレイヤーが主でゴーレムは従だ。
 ゴーレムが強すぎれば、プレイヤーとゴーレムで、他のプレイヤーの二人分の戦闘力を持つことになる。ゲームのルール上、そこまで有利にならないように、調整したのが今のゴーレムだ。
 ルールを無視するのであれば、侵入者インベーダーのゴーレムにプレイヤーと同等の戦闘力を与えることは可能だ。

「次は全員集まってからだな」

 アリスの戦う映像を何度も見直して、そう結論する。
 全員で戦えば、ゴーレムの戦闘力が高かろうが、魔法の一つも打たれようが、確実に捕縛出来るだろう。
 そして侵入者インベーダーの知識を奪い、断罪する。

「この世界を完全なものにするのために」
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