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24,友人と友人もどきの歴然とした差
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話が進むとイグニスさんは仰いましたが、これ以上お2人も話すこともないそうで、
「後は王都にいる奴に任せるしかねぇから、俺はフルレット侯爵領に帰る」
子供の頃と同じように、イグニスさんは私の頭をポンポンと叩いていきます。
これから冬を迎えるフルレット侯爵領は既に繁忙期が終わっておりますから、やることがないイグニスさん達一部の農夫が酒浸りになるのが私としては少し心配ですね。
村の長老でもある村長さんのゴッドハンドは年のせいか最近制御が利かないとかで非常に高威力になっているのですが、あまり節度ない生活していると容赦なく唸りますよ。大丈夫でしょうか。
「誰かに会っていかなくてもいいのかい?」
謎の大神官であるロクス様がイグニスさんに尋ねられました。
この2人の関係は何でしょう。
普段のイグニスさんは侯爵である実父にも敬語など使いませんのに。
「私は死んだことになっております。死者が生き返るわけにはいきません」
イグニスさん……。
だから慰謝料を奥様に支払った方がいいですよ。
死んだことにしてまで慰謝料の支払いから逃れようとするから、ハッシュさんの方が上になるのですよ。
あの方は店から持ち逃げしたお金を奥様のお一人の持参金でお返ししましたから、払う物は払って終了した方なのです。出所はどうかと私も思いますが、精算することは人間大事なのですよ。
口をちょっと閉じていろと言われたので、私は口には出しませんが。
ロクス様が使いを出したらしく、しばらくしてオラージュ公爵家からの迎えが来ました。以前フルレット侯爵領で私の護衛をしていた、イグニスさんとは顔見知りのオラージュ騎士団の騎士です。軽くイグニスさんと挨拶しております。
この方のように過去に私の護衛をしていた騎士達から養母は、前王立騎士団騎士団長であるイグニスさんがフルレット侯爵領にいることを知ったのでしょうか。それにしても、他の騎士達はイグニスさんがいることを知らなかったのは何故でしょう?
これで漸く役目を終えたとイグニスさんが部屋を出て行きかけたとき、思い出したように私を振り返りました。
「最後に、俺は今の王立騎士団騎士団長を信用していない。お前がどう思ってどう行動するかは勝手だが、あいつには警戒しろよ」
「今の騎士団長?」
「オルト・レクスタっていう、俺が騎士団にいた頃に副団長をしていた奴だ」
元同僚で部下だった方なのですね。ですが、あの方とは、
「少し前に神殿でお目にかかりました。奥様の御葬儀の途中でしたけど」
そう私が言うと、イグニスさんは私が今まで一度も見たことのない怖い顔をされました。
「あいつはすげぇ馬鹿だ。あいつは自分で勝手に泥沼に落ちているが、周りも一緒に巻き込もうとしている。いいか、お前は絶対に巻き込まれないようにあいつとは距離を取れ」
どうしてなのか、詳しい話をするのを拒むかのようにイグニスさんは足早に立ち去っていきました。
「そうか、オルト殿の奥方は亡くなったか……」
皆さん知り合い同士なんですか?
次から次に出てくる謎を問いたい気持ちが顔に出てしまっていたのでしょうか、
「自己紹介が遅くなりましたね。オラージュ公爵令嬢、私はここで大神官を務めているロクスと申します。イグニスとはまだ私が俗世にいた頃、仕事上付き合いがありました」
騎士団長と付き合いがある仕事って王城関連でしょうか。
ロクス様の前職が気になりますね。
「貴女の母上、実母の方とは幼馴染みです。今回のこともその繋がりでして。また会うこともありますでしょうから、今後ともよろしくお願いします」
『奉仕を行うために大神殿に赴いた王女は、奉仕を行った他の加護持ちも悩まされている急激な体調不良を起こし動けなくなり、神殿でしばらく静養した後王城に帰った』と後日発表されました。
オラージュ公爵家のフレイ様から婚約者への贈り物との名目で、養母が用意して下さった私の日用品が離宮に送られてきます。
ついでにフルレット侯爵令嬢時代から付いていた要領の良いメイドを1人こっそり付けて頂きました。無論、裏から手を回したそうで、本来ならもっと長くて厳しい審査があるところを公爵家のメイドに早めに王女様の生活を覚えさせるとの名目で捻じ込んだそうです。
「お城に行くことは夢でした!」
嬉しそうなメイドのマーガレットは平民の出なので、本来は主人と気安く会話できる立場ではありませんが、どうせ王女の住む離宮にはまともに侍女もいないのですから、フルレット侯爵領にいたときと同じ調子で良いことにしました。
以前王女についていたメイドは、既に結婚退職を前倒しして王城から去っております。たった一人に全ての業務を押しつけられた職場環境にいては、退職するならと渡されたお金の力は大きいですね。
こちらとしては王女の顔を知っている為に去って貰うことが重要な元メイドには詳しい事情は知せる必要もなく、本人もこれで結婚が出来ると喜んでいたので問題はありません。
「王女は本当に何もやることはないの?」
「ございません。王女殿下には何の憂いもなく日々を送られるのが良いこととなっております」
答えるのは私の補助をするために移動して貰った侍女のウィルマで、初めての王女専属の侍女とのことです。
相変わらず王女、離宮には、囲んでいる塀の外以外に護衛の騎士は配置されておりませんが、こちらももう少ししたら専属の護衛、オラージュ騎士団から出向した騎士が付くそうです。
ウィルマはオラージュ公爵家に連なる貴族家の出身で、以前私の前に出没したなりきり2号を諫めた案内役の侍女です。かなり心強いですね。
なお、私がいつもと同じくウィルマに敬語で話しかけたら大変怒られました。現在では私の身分が上で、敬語を使ってはいけないとのことです。
このように、私の入れ替わり王女生活はまだ始まったばかりで、あれこれ戸惑うことばかりです。
「隣国の王家から王族がいらっしゃっておりますが、王女殿下がお会いする予定は今のところ入ってはおりません」
「予定って……身代わりの私では他国の王族と会うのは良くないでしょう?」
「その辺りは王妃様方が調整するとのことです。余程のことがなければ、王女殿下に仕事はございません」
「王族の仕事を振られても私では困るのだけど、ある程度はどうしようもないでしょうね」
王女様との入れ替わり生活が始まった当初に、こっそりと王妃様から王族としての生活をある程度は説明されましたが、以前から王女様に関しては王族としての仕事はほとんどないそうです。
王家そのものの指示ではなく貴族院、文官達がそう判断したとのことです。
とっくに成人した王族でもある王女様に仕事を振らないのは、得体の知れない庶子でしかない王女に国の重要な部分に関わらせる気はないということなのでしょうか。
それにしても王族としての教育もせず、いつまでも城の片隅に押し込めて……入れ替わりの原因でもある王女様を女王にしたい層も含めて、一体全体何を考えておられるのでしょう?
「少なくとも女王にしたい層は、無知な女王を作りたかったのかしら?」
「どうでしょう。私の知りうる限り、どこかの貴族の意思が反映された結果ではありません。唯一の肉親であられる陛下が王女殿下の教育方針をお決めにならなかったので、教育も中途半端に終わらざるを得なかったからと存じます」
以前にも伝え聞いてはおりましたが、陛下は王女様を完全に放置しておられます。
それはそれで立派な虐待ですよね。
私も自分の教育は中途半端であると知っておりますが、田舎の領地まで来て下さる家庭教師がなかなか見つからなかったという理由です。決して両親の放置ではありません。
「おかげで私と入れ替わっても不都合がないのも微妙な話ね」
フルレット侯爵領で別れたときの王女は、広い田舎の大地をはしゃいで走り回っておられました。
幼い頃に何処からか連れてこられ、長らく狭い場所で放置されていた王女がこの先どうなるか、どうするかは、私には分からないことです。ただ、王女様を死なせないために色々な方が動いており、きっと王女様の未来は明るいのだと信じたいです。
「では王女殿下、今からどうされます?」
どうされますって……。
どうしましょう?
これと言って今の私には、何かやりたいこともありません。
王女様と入れ替わっていることがバレたら困りますから、離宮からあまり出ない方がいいですよね。なら、本? 刺繍? 楽器演奏?
「うーん……」
人を呼ぶような事は出来ないのであれば、素直に講師も呼ぶことも出来ませんね。
「でしたら王城を探検したらいいんですよ!」
近くに控えていたマーガレットの提案は、凄く魅力的でした。
探検。
ワクワクする響きです。今なら王城を自由に歩き回れる王女の身分なのですから、好きなように探検できますよね。
ですが、問題はあります。
王女様は実際には離宮に軟禁されていた訳ではなかったのですが、城を歩き回ることに周囲から嫌な顔をされ、結局は離宮に引き籠もらざるを得なかったと伺っております。
その理由で今まで離宮から出なかった王女が城を歩き回っていたら不審に思われるのでは?
「ベールを被って城を歩くのも良い案かもしれません」
まさかのウィルマがマーガレットの案に賛成をするとは思いませんでした。
「レーニア様はオラージュ公爵様や実母であるレイチェル様より、先々代の王女であられたクローシェル様によく似ておられますから、ベール越しでご覧になった方は違和感もなく王女殿下だと思われますよ」
「それは王女様が戻られたときに困るのではないかしら?」
「だからベールなんですよ。見間違いだと言い訳が出来ますので。王女殿下本人もレーニア様程ではありませんが、クローシェル様に似ておられますよ」
王女様と私が似ている部分は、どうやらクローシェル様似の部分のようです。
「心配なら少し厚手のベールか、帽子付きのベールになさいます?」
ベール越しは確かに顔がはっきり見えないものですね。
私と王女は年齢こそ違いますが、背の高さ、髪や瞳の色は良く似ております。顔立ちの方は少しくらいしか似ておりませんが、これくらいならしっかりベールを被っていればいけるかもしれません。
「では、ベールを出して頂けますか」
「敬語は気をつけて下さいね。それが一番王女殿下ではないと気付かれる可能性が高い部分です」
それは難しいです。
ちょっと油断すると、いつもの口調に戻ってしまいます。
「やっぱり出るのは止めようかと……」
「外に出て慣れる練習をしましょう。それに王女殿下を印象づけた方が今後とも有利ではないでしょうか」
私はそんなに長居するつもりはないのですよ。
いえ、長居する予定がないからこそ、城の探検にでかけるべきでしょうか。
そうして出かけた先で、
「私とフレイ様が愛し合っていることを御存知だったのに、どうして私達を引き裂くのですか! 私達、友達でしたでしょう!」
遠いお空の向こうの王女様、貴女には友人もどきは一体何人いらっしゃったのですか?
「後は王都にいる奴に任せるしかねぇから、俺はフルレット侯爵領に帰る」
子供の頃と同じように、イグニスさんは私の頭をポンポンと叩いていきます。
これから冬を迎えるフルレット侯爵領は既に繁忙期が終わっておりますから、やることがないイグニスさん達一部の農夫が酒浸りになるのが私としては少し心配ですね。
村の長老でもある村長さんのゴッドハンドは年のせいか最近制御が利かないとかで非常に高威力になっているのですが、あまり節度ない生活していると容赦なく唸りますよ。大丈夫でしょうか。
「誰かに会っていかなくてもいいのかい?」
謎の大神官であるロクス様がイグニスさんに尋ねられました。
この2人の関係は何でしょう。
普段のイグニスさんは侯爵である実父にも敬語など使いませんのに。
「私は死んだことになっております。死者が生き返るわけにはいきません」
イグニスさん……。
だから慰謝料を奥様に支払った方がいいですよ。
死んだことにしてまで慰謝料の支払いから逃れようとするから、ハッシュさんの方が上になるのですよ。
あの方は店から持ち逃げしたお金を奥様のお一人の持参金でお返ししましたから、払う物は払って終了した方なのです。出所はどうかと私も思いますが、精算することは人間大事なのですよ。
口をちょっと閉じていろと言われたので、私は口には出しませんが。
ロクス様が使いを出したらしく、しばらくしてオラージュ公爵家からの迎えが来ました。以前フルレット侯爵領で私の護衛をしていた、イグニスさんとは顔見知りのオラージュ騎士団の騎士です。軽くイグニスさんと挨拶しております。
この方のように過去に私の護衛をしていた騎士達から養母は、前王立騎士団騎士団長であるイグニスさんがフルレット侯爵領にいることを知ったのでしょうか。それにしても、他の騎士達はイグニスさんがいることを知らなかったのは何故でしょう?
これで漸く役目を終えたとイグニスさんが部屋を出て行きかけたとき、思い出したように私を振り返りました。
「最後に、俺は今の王立騎士団騎士団長を信用していない。お前がどう思ってどう行動するかは勝手だが、あいつには警戒しろよ」
「今の騎士団長?」
「オルト・レクスタっていう、俺が騎士団にいた頃に副団長をしていた奴だ」
元同僚で部下だった方なのですね。ですが、あの方とは、
「少し前に神殿でお目にかかりました。奥様の御葬儀の途中でしたけど」
そう私が言うと、イグニスさんは私が今まで一度も見たことのない怖い顔をされました。
「あいつはすげぇ馬鹿だ。あいつは自分で勝手に泥沼に落ちているが、周りも一緒に巻き込もうとしている。いいか、お前は絶対に巻き込まれないようにあいつとは距離を取れ」
どうしてなのか、詳しい話をするのを拒むかのようにイグニスさんは足早に立ち去っていきました。
「そうか、オルト殿の奥方は亡くなったか……」
皆さん知り合い同士なんですか?
次から次に出てくる謎を問いたい気持ちが顔に出てしまっていたのでしょうか、
「自己紹介が遅くなりましたね。オラージュ公爵令嬢、私はここで大神官を務めているロクスと申します。イグニスとはまだ私が俗世にいた頃、仕事上付き合いがありました」
騎士団長と付き合いがある仕事って王城関連でしょうか。
ロクス様の前職が気になりますね。
「貴女の母上、実母の方とは幼馴染みです。今回のこともその繋がりでして。また会うこともありますでしょうから、今後ともよろしくお願いします」
『奉仕を行うために大神殿に赴いた王女は、奉仕を行った他の加護持ちも悩まされている急激な体調不良を起こし動けなくなり、神殿でしばらく静養した後王城に帰った』と後日発表されました。
オラージュ公爵家のフレイ様から婚約者への贈り物との名目で、養母が用意して下さった私の日用品が離宮に送られてきます。
ついでにフルレット侯爵令嬢時代から付いていた要領の良いメイドを1人こっそり付けて頂きました。無論、裏から手を回したそうで、本来ならもっと長くて厳しい審査があるところを公爵家のメイドに早めに王女様の生活を覚えさせるとの名目で捻じ込んだそうです。
「お城に行くことは夢でした!」
嬉しそうなメイドのマーガレットは平民の出なので、本来は主人と気安く会話できる立場ではありませんが、どうせ王女の住む離宮にはまともに侍女もいないのですから、フルレット侯爵領にいたときと同じ調子で良いことにしました。
以前王女についていたメイドは、既に結婚退職を前倒しして王城から去っております。たった一人に全ての業務を押しつけられた職場環境にいては、退職するならと渡されたお金の力は大きいですね。
こちらとしては王女の顔を知っている為に去って貰うことが重要な元メイドには詳しい事情は知せる必要もなく、本人もこれで結婚が出来ると喜んでいたので問題はありません。
「王女は本当に何もやることはないの?」
「ございません。王女殿下には何の憂いもなく日々を送られるのが良いこととなっております」
答えるのは私の補助をするために移動して貰った侍女のウィルマで、初めての王女専属の侍女とのことです。
相変わらず王女、離宮には、囲んでいる塀の外以外に護衛の騎士は配置されておりませんが、こちらももう少ししたら専属の護衛、オラージュ騎士団から出向した騎士が付くそうです。
ウィルマはオラージュ公爵家に連なる貴族家の出身で、以前私の前に出没したなりきり2号を諫めた案内役の侍女です。かなり心強いですね。
なお、私がいつもと同じくウィルマに敬語で話しかけたら大変怒られました。現在では私の身分が上で、敬語を使ってはいけないとのことです。
このように、私の入れ替わり王女生活はまだ始まったばかりで、あれこれ戸惑うことばかりです。
「隣国の王家から王族がいらっしゃっておりますが、王女殿下がお会いする予定は今のところ入ってはおりません」
「予定って……身代わりの私では他国の王族と会うのは良くないでしょう?」
「その辺りは王妃様方が調整するとのことです。余程のことがなければ、王女殿下に仕事はございません」
「王族の仕事を振られても私では困るのだけど、ある程度はどうしようもないでしょうね」
王女様との入れ替わり生活が始まった当初に、こっそりと王妃様から王族としての生活をある程度は説明されましたが、以前から王女様に関しては王族としての仕事はほとんどないそうです。
王家そのものの指示ではなく貴族院、文官達がそう判断したとのことです。
とっくに成人した王族でもある王女様に仕事を振らないのは、得体の知れない庶子でしかない王女に国の重要な部分に関わらせる気はないということなのでしょうか。
それにしても王族としての教育もせず、いつまでも城の片隅に押し込めて……入れ替わりの原因でもある王女様を女王にしたい層も含めて、一体全体何を考えておられるのでしょう?
「少なくとも女王にしたい層は、無知な女王を作りたかったのかしら?」
「どうでしょう。私の知りうる限り、どこかの貴族の意思が反映された結果ではありません。唯一の肉親であられる陛下が王女殿下の教育方針をお決めにならなかったので、教育も中途半端に終わらざるを得なかったからと存じます」
以前にも伝え聞いてはおりましたが、陛下は王女様を完全に放置しておられます。
それはそれで立派な虐待ですよね。
私も自分の教育は中途半端であると知っておりますが、田舎の領地まで来て下さる家庭教師がなかなか見つからなかったという理由です。決して両親の放置ではありません。
「おかげで私と入れ替わっても不都合がないのも微妙な話ね」
フルレット侯爵領で別れたときの王女は、広い田舎の大地をはしゃいで走り回っておられました。
幼い頃に何処からか連れてこられ、長らく狭い場所で放置されていた王女がこの先どうなるか、どうするかは、私には分からないことです。ただ、王女様を死なせないために色々な方が動いており、きっと王女様の未来は明るいのだと信じたいです。
「では王女殿下、今からどうされます?」
どうされますって……。
どうしましょう?
これと言って今の私には、何かやりたいこともありません。
王女様と入れ替わっていることがバレたら困りますから、離宮からあまり出ない方がいいですよね。なら、本? 刺繍? 楽器演奏?
「うーん……」
人を呼ぶような事は出来ないのであれば、素直に講師も呼ぶことも出来ませんね。
「でしたら王城を探検したらいいんですよ!」
近くに控えていたマーガレットの提案は、凄く魅力的でした。
探検。
ワクワクする響きです。今なら王城を自由に歩き回れる王女の身分なのですから、好きなように探検できますよね。
ですが、問題はあります。
王女様は実際には離宮に軟禁されていた訳ではなかったのですが、城を歩き回ることに周囲から嫌な顔をされ、結局は離宮に引き籠もらざるを得なかったと伺っております。
その理由で今まで離宮から出なかった王女が城を歩き回っていたら不審に思われるのでは?
「ベールを被って城を歩くのも良い案かもしれません」
まさかのウィルマがマーガレットの案に賛成をするとは思いませんでした。
「レーニア様はオラージュ公爵様や実母であるレイチェル様より、先々代の王女であられたクローシェル様によく似ておられますから、ベール越しでご覧になった方は違和感もなく王女殿下だと思われますよ」
「それは王女様が戻られたときに困るのではないかしら?」
「だからベールなんですよ。見間違いだと言い訳が出来ますので。王女殿下本人もレーニア様程ではありませんが、クローシェル様に似ておられますよ」
王女様と私が似ている部分は、どうやらクローシェル様似の部分のようです。
「心配なら少し厚手のベールか、帽子付きのベールになさいます?」
ベール越しは確かに顔がはっきり見えないものですね。
私と王女は年齢こそ違いますが、背の高さ、髪や瞳の色は良く似ております。顔立ちの方は少しくらいしか似ておりませんが、これくらいならしっかりベールを被っていればいけるかもしれません。
「では、ベールを出して頂けますか」
「敬語は気をつけて下さいね。それが一番王女殿下ではないと気付かれる可能性が高い部分です」
それは難しいです。
ちょっと油断すると、いつもの口調に戻ってしまいます。
「やっぱり出るのは止めようかと……」
「外に出て慣れる練習をしましょう。それに王女殿下を印象づけた方が今後とも有利ではないでしょうか」
私はそんなに長居するつもりはないのですよ。
いえ、長居する予定がないからこそ、城の探検にでかけるべきでしょうか。
そうして出かけた先で、
「私とフレイ様が愛し合っていることを御存知だったのに、どうして私達を引き裂くのですか! 私達、友達でしたでしょう!」
遠いお空の向こうの王女様、貴女には友人もどきは一体何人いらっしゃったのですか?
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