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番外編121.【誰かを悪にしたとして】
しおりを挟む「副団長として伺います。フォルクロア様は今回の問題にどのような始末を付けようとお考えなのですか?」
進捗会議の直後、アイルが1人になる僅かな機会を窺って副団長は尋ねた。
割とアイルに遠慮のある騎士団長は、ここまではっきりと聞く事はない。
ペルパ辺境伯家から始まった問題は、反王家派を経て、キノコの問題となりつつあった。
その中心にキノコ人間(推定生物)になった偽の前ペルパ辺境伯がいる事だけが確かで、キノコまで至った(?)現在、捕まえる事が副団長には解決の道とは思えなかった。
「精霊剣の砕けた今、根本を解決する事自体は簡単なんですよ」
王都の平和の水面下では、次々新しい問題が起きて騎士団は疲弊していた。
副団長もいつまでも解決の糸口が見えない状態にしびれを切らすのも仕方ないだろう。
「キノコ人間(場面破壊)が何処にいるのか……いえ、新都に追い込むだけで十分です。そうしたら、僕が直ぐに片を付けますよ」
フォルクロアとしてアイルはそう言い残し、待っていたエリオルと共に去って行った。
「新都か……」
アイルが1人になるのは本当に僅かな時間だった。
一つ質問が出来る程度の時間だったので、周囲には騎士団長達幹部が集まっており、少し離れた場所ではルードルフも2人の会話を黙って聞いていた。
アイルは聞かなければ言わない性格のフォルクロア家の人間である。
ただ、意見を聞くべきタイミングは王家の者にすら分からない。副団長の質問は良いタイミングだったと言えよう。
騎士団長がルードルフを振り返ると、ルードルフは一つ頷いて去って行った。
「我々は前ペルパ辺境伯を名乗っていた男を新都に追い込む」
行動の指針が示された事は大きい。
呼び込めれば、フォルクロア家がどうにかする。
疲労感を滲ませた騎士団員は、本当の終わりが見えて一様に安堵した。
部屋に戻ったアイルは会議で聞いた話を紙に纏めていた。
一度は全部回収されたファイルの内、事件の概要を纏めたファイルはアイルに返却されていて、今書いているのはその追記事項だった。
ルードルフや騎士団からすれば、ただのメモ書き程度の内容で、アイルにしても備忘録的な物である。
『現在ペルパ辺境伯領付近では、幻獣がペルパ辺境伯家関係者を襲っている』
ニルア将軍達が王都に帰って来ないのは、後始末以外にも問題が発生していたからだった。
ただでなくてもペルパ辺境伯家本邸の人間が全員殺害されていた事実は、周辺の領地にいたペルパ辺境伯家関係者を大きく動揺させた。
本来統率すべき前ペルパ辺境伯自身が犯人と思しい状況下で行方不明となっている事実に、本邸に身内を働かせていた親類縁者の家が静観を止め、騎士団を攻撃し始めた。までは良いだろう。
「幻獣……」
流石に非常にアイルは驚いた。
それと同時に、何故かペルパ辺境伯家周辺の貴族の家を襲い出した幻獣に対応しようと出動したペルパ辺境伯家騎士団は、大半が騎士として何ら訓練をしていない素人だった故に幻獣に壊滅させられて終了したらしい。
狩る側じゃなかったのか、と壊滅まで行った弱さにアイルは戦いた。
『幻獣はボク達の代わりに動いたんだ!』
『ボク達がやれないからな!』
『凄い、強い、生臭い!』
幻獣の暴走の理由は羽虫精霊達の言う通りだったにせよ、収拾はつくのか。
一瞬アイルは不安に駆られるも、キノコを狩りさえすれば……一部は終わるであろう。
「僕も一度新都に行きます」
閉じたファイルはメモ書き故に特に何の制限もなく、アイルの不在時にディリオンが勝手に読んだとしてもアイル本人は怒らない。しかし、迂闊に片付けていかなかった事をディリオンに怒られる事になる。
騎士団としては王都周辺に潜伏していると思われるキノコ人間(胞子散布中)がいそうな場所に出かけて欲しくない反面、いるんだったら出てくるかも知れないと少しの希望があって、アイルの新都行きは許可された。
「そう簡単に寄って来るとは思えませんよ?」
「私もそう思うのですが、先日も火に向かう虫のようにフラフラ出てきましたからね」
何度も似たような会話をしているのは、何度も同じ事が起きている所為であり、決してアイルの責任ではない、筈だ。
旧都とは違い雑然とした新都はエリオルによると旧都より雑多な物が集まり常に賑わっていたとの事だが、馬車の中から見えるのはハンターか巡回する騎士のいずれかであった。
店の多くも相変わらず閉めており、人気のない家が大通りにもチラホラ見えるほど閑散としていた。
「事態を招いた貴族家には何らお咎めはないのですか?」
「この新都は王都外の扱いで、住んで何かが起こっても自己責任の割合が大きいのですよ。それに治安維持の名目で行われている魔物退治ですから、精々苦情を入れられる程度だそうです」
ハンターの投入には元々騎士団の怠慢も理由の一つになっていた。
警備の厳重な王都では起こり得なかった事故は、ポーリア達3人が新都に迷い込んだ自己責任の面もあるが、無防備な貴族子弟子女を王都から新都へ行く門を潜らせてしまったのは騎士団の責任と言えた。
あの日の失態の理由は今もって不明のままとなっていた。
ただ、当日門を担当していた騎士は逆方向の信頼の置けるペルパ辺境伯家親族の出身であった時点で、最近の騎士団内では解決済みと見なしている傾向があった。
不運な事故。騎士団にとってはそう言う事になりつつあるからこそ、リンデル達の両親はハンターの依頼を撤回しないのだろう。
そのまま馬車は大通りを裏道に入っていき、中途半端に建設中の屋敷が立ち並ぶ地区へと入って行って止まった。
通常『再開発地区』などと呼ばれているが、現状の真実は建設を依頼した貴族達が軒並み没落したために屋敷が建設途中で止まった状態で放置されているだけとの事だった。
一時は格安で売りに出された事もあったらしい。
馬車を降りたアイルの爪先に『売り地』の古びた看板が当たった。
錆だらけの壊れた柵からアイルが中を覗き込むと、大貴族の邸宅としか思えない巨大な邸宅が作りかけのまま朽ちて行こうとしていた。
「誰も買い取らなかったんですね」
「ロスフォルトに連なる貴族の邸宅なんて、作りかけでも何が仕掛けられているか分かりませんからね」
この国の闇に君臨していたロスフォルト公爵家が崩壊すれば、公爵家に従い甘い汁を分けて貰っていた近しい家も没落を免れなかった。
本家がいなくなれば、分家も煽りを受ける。
リンデル達は分家の自分達が本家の娘のポーリアの護衛をしていると誇らしげに言っていた姿を思い出した。
貴族の家の仕組みはアイルにはいまいち理解出来ない。
住宅街の一角で、アイルは足を止めた。
古い花束の上に持ってきた花束をそっと置いた。
エリオルが何処かで手に入れてきた慎ましやかな花は、他に供えられた花束が枯れて果てている分目立った。
ここで、リンデルとスプリアが命を落とした。
『何か』を巡る事情はいつだって悲しいものが付きまとう。
襲われたポーリアも本人ではなく母親の罪の所為で狙われていたのだ。
ナリスが解放されたとしても、巻き込まれ亡くなった者は帰ってくる事はない。
アイルには祈りを捧げる事しか出来なかった。
「下見では無いと思っておりましたが……」
本日はディリオンは連れてきてはいなかった。つまり、アイルは危険があると考える場所に行こうとしているとエリオルは考えていた。
「祈りに来たのはついでですよ」
とても短い間の付き合いだったが、アイルはリンデル達に悪い印象はなかった。
「祈れない『何か』達の代わりに祈りに来たと言うべきでしょうか」
この事件は誰の罪だか判然としない。
恐らく「文句があるならダンジョンの最深部にいらっしゃい」と怠惰達がラスボス顔して言うだろうし、真の犯人はそう言う事で良いだろう。
とは言え、リンデル達の両親に世界の何処かにある最終ダンジョンの最奥を攻略して仇をとって来るべきと言うのは、ただの一貴族でしかない様子の両親には無理があるとアイルには思えた。
「誰もが『可哀想』な事情を抱えた問題ですよね」
「そうですね。誰が原因と言ったらソラジュ侯爵夫人でしょうが、故人ですしね」
「その部分も難しいでしょう。ソラジュ侯爵自身が横恋慕して後に後妻に収まる夫人の気持ちにもっと早く気付いていたら、こんな事にはならなかったと言えます」
ソラジュ侯爵は自分の罪を理解しているからこそ、後妻の娘を道連れに表舞台から遠ざかった。
それすら良いか悪いか分からない。
アイルはそのまま馬車に戻らず、再開発地区をブラブラと歩き出した。
周囲にはエリオルの他にも少し距離を取って騎士達が控えているので見た目ほど無防備ではないとは言え、新都は治安が悪化しており散歩も控えるべきところだった。
側近くにいるエリオルはアイルを諫めなかった。
「キノコを生えさせている人がそれなりにいましたね」
「……凄く精神修行になります」
キノコを生えるものだと認識したアイルと違い、生きている人間にキノコが生える光景はエリオルにとってなかなかの恐怖だった。
通りすがった住人らしき男性も、肩からキノコを生えさせていた。
「日光に当たっている所為か、カラフルですよね」
新都のキノコは生き生きしていた。
生えさせている人間の方は湿気た感情を持って沈んだ顔をしている一方、キノコは毒々しい原色を放っていた。
『今のは不倫相手に別な男が出来て振られただけだぞ』
とても面白くもない湿気た話だった。
寧ろキノコが綺麗であったのが救いだろうか。
やがて地区を担当する騎士団の小さな詰め所に行き当たった。
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