嘘ばかりの貴方を愛すなんて誰が出来るの?

夏見颯一

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11.【誰でも知っていると思うな】

 人生にはいくつも岐路があります。
 よく聞くのは正しき道と悪しき道の岐路。

「それで、貴方は何をしたのですか?」

 大丈夫、どう答えてもいいのよ。
 私は落ち着き払ってソリウスの返答を待っていました。

 貴方の人生には最早岐路なんてなく、破滅への単調な道だけが続いているのだから、どんな答えでも同じ事よ。

 先が完全に決まっていてブレないと言う事も羨ましい所がありますね。
 私などはどうやっても平坦に平凡な人生しか歩めないので、地獄に向かう人生も羨ましい部分があります。
 ソリウスの道連れだけは遠慮しますけどね!

 しばらくソリウスの返答を待ちますが、声は聞こえません。
 静まり返っている室内ですので、ソリウスの返答が小さな声であっても誰も聞こえないと言う事はない筈です。

「まさか! ソリウスは騎士なのに敵前逃亡したというの!? 物語の序盤で調子よく進んだ勇者がうかれたまま手順をすっ飛ばして、ラスボスの所に行ってボコボコにされて逃げ帰る系の!」
「アステリア伯爵令嬢、お静かに。ソリウス殿が怯えて話も出来ません」
「それって騎士として……」
「そのお話は、後ほどじっくりと騎士団長とソリウス殿の上司にお願いします」

 名前を出された2人のうち騎士団長様はともかく、ソリウスの上司は何か驚く事でもあったのか飛び上がりましたね。
 お話と言われましても、私もそこまで暇ではありませんので帰りますよ?

「……何を……いや、だって……」
「貴方から白紙の申し出も出来たのに、貴方はやらなかった。見方によったら貴方がアステリア伯爵令嬢に縋っていたのですよ」

 一応私は聞かれたら、父が言ったように「問題がある相手からの婚約を避ける為の婚約だった」と答えますけど、今となったらソリウスも問題ある相手以外の何ものでもないですね。
 まあ、私のおかげで変な相手から婚約を迫られる事がなかった分、ソリウスは私に感謝すべきでしょう。

 だからいい加減、ソリウスは婚約界隈では【売れ残り】と自覚を持つべきです。

「違う! 私は嫌だった! 縋ってなどいない」
「ならば何故、婚約の白紙化を申し出なかったのですか? 婚約の男女の比重の話は有名でしょう。本来、貴方が申し出るべき話です」

 この世界は男尊女卑ですが、前世のある私からすると、全てにおいて男性が有利かというと違うのです。
 ゆるっゆるの婚約で我が家から出来た事実は内々の話でしかなく、世間一般の目からすると、婚約の白紙化はソリウスが申し出る以外はあり得ません。
 多くの者からすると、女性側の家から白紙を申し出るのを待つソリウスは非常識なのですよ。

「それ、は……」

 これもソリウスの大きすぎる恥ですし、関係者一同で折角黙っていてあげたのですが、残念ながらソリウスは地形が変わる程深い墓穴を掘りますね……。
 寧ろ、誰がどうやったらフォロー出来るか教えて欲しいものです。

「これまで何もしていなかったのですから、今の貴方が仰る事には説得力がありません」
「違う! この女が悪いんだ! この女がいたから私はリンカ様と婚約が出来なかったんだ!」

 ガシャン、と割れる音がしました。
 何かと振り返ると、聖女様がカップを机に叩き付けた所為で割れたようでした。

「傍聴に徹していましたが、リンカと婚約出来なかったというその理由、しっかりと述べて下さい」
「はい!」

 嬉しそうな声に目眩がしました。
 聖女様もソリウスとリンカ様の婚約に何があったのか御存知の筈で、貴方の味方ではないのですよ?

「婚約を白紙にしたにも関わらず、フロスティアは私とリンカ様の婚約に嫉妬して、姉である聖女様に毒を盛ったのです!」
「それは聞きました。では、どんな方法で? 私にどのような毒を?」
「お茶会があると知ったフロスティアはメイドに偽装してお茶に毒を混ぜました。毒は多分、領地の何処かに生えていた草です!」

 私は思わず騎士団長様を見ました。
 視線に気付いた騎士団長様は首を横に振りました。
 やはり……寛大にして聖人に至りそうなソリウスの上司が部下の教育にも何処までも甘かったのですね……。優しい事もときに問題と言う事でしょう。

 悲鳴が上がって聖女様を再び振り返ると、聖女様はとうとう手にしていたカップを握力で砕いたようです。
 オロオロする第4王子殿下を横に聖女様は、

「まず、アステリア伯爵令嬢はお茶会の客人として参加しておりました。メイドなんてコスプレしてません。説得力皆無ですね」

 聖女様が断言しましたが……脇の方で「コスプレ……?」と聞こえます。
 転生も転移もある世界であっても、立場と状況にあった服装にとんでもなく厳しい世界でもありますから、コスプレは浸透しておりませんでした。

「もう少し、真面目にお答え下さい。出なければ、貴方の頭がこのカップのよ」
「毒の混入方法、入手方法、共に貴方の推測でしかなく、アステリア伯爵令嬢を犯人と決めつけるものとは認められません」

 聖女様の言葉は険呑すぎて聖騎士の方が途中で遮りました。
 リンカ様の事でやたらと迂遠な方法を採ってまで聖女の瑕疵を恐れておられましたが、私には聖女は力で黙らせるタイプに思えるのですよ。

「方法なんてどうでも良いでしょう! 聖女様を毒殺しようと考えるのは、フロスティアしかあり得ません!」

 付け焼き刃の理屈を脱ぎ捨てソリウスが第2形態に進化する事はなく、

「あら、第4王子殿下の元婚約者である私はのけ者? 私は聖女様に第4王子殿下を押しつ……奪われましたのよ」

 私の近くから声が聞こえました。
 公爵令嬢以外結局誰が誰だか覚えきれませんでしたが、どうやら美貌しかない第4王子殿下の被害者の方がいらっしゃったよう。
 その声を皮切りに、

「社交界で一番の花形だった私も聖女様に居場所を取られましたわ。私も十分動機がありましてよ」
「あら、私もよ。私も何年も神殿に通ってそれこそ聖女と呼ばれていたのに、本物に努力を無にされてしまいましたわ」
「ふふふ。我が家などは特級ポーションを卸していましたが、聖女様の治癒で必要なくなったと告げられましたの」

 次から次へと容疑者が名乗りを上げます。
 実に楽しそうに笑いながら。

 さっきの若い騎士達が取り囲んだのは、本当に令嬢達には分かりやすい動機があったからなんですね。
 令嬢達の立場を考えると、彼女達が口にした話は王都では有名でしょう。
 そうやって考えると、寧ろ私は全く動機がないので一周回って怪しくなる?

「それで、ソリウス殿はアステリア伯爵令嬢だけが犯人だとどうして思ったのですか?」

 最早ソリウスから返ってくる言葉はなく、騎士団長様達がソリウスの襟首を引っ掴んで連れていきました。
 すれ違いざまソリウスの上司には、

「待って下さい。私の言い分を聞いて頂きませんと」

 騎士達は吹き出して、令嬢達も声を上げて笑いだしました。
 何か終わったような空気を出しておりますが、ちゃんと公明正大に行くには大事な事なのです!

「アステリア伯爵令嬢、ほどほどに」

 聖騎士の方に止められている間に、ソリウスの上司は走って帰っていきました。
 上司だと色々仕事があるのでしょうね。


 こうして私の王宮でのお茶会は終わり、今度という今度こそ帰るつもりでしたが聖女様に気に入られた為に帰る事は叶いませんでした。


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