子供のままの婚約者が子供を作ったようです

夏見颯一

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2.【子供の責任、大人の過ち】

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 子供子供とエリックの事を許してきた親達の結果かも知れません。
 親達にはいつまでもエリックの幼少期の微笑ましいやんちゃな印象が消えなかったとしても、現実にはエリックは大人なんですよ。

「子供が出来たんだ」

 突如あっけらかんと言い放ったエリックに、私の両親は時間が止まりました。
 これは流石に両親の許容範囲を超えたのではないでしょうか。

 子供が子供を作ってくるなんて!

 流石に洒落がきき過ぎなくらいです。
 呆れ過ぎて笑ってしまいそうで、私は一言も発する事が出来ませんでした。


 エリックは婚姻前に外で子供を作る事に何の罪悪感も感じてない様子でした。
 当然認められると思っているのでしょう。
 これまで私の両親がエリックの全ての行動を許してきたのですから、これこそ本当に『仕方ない』結果ですね。

「これもっと欲しいんだけど」

 私の両親の困惑を余所に、今もエリックは無作法に好きな菓子を次々口の中に放り込んで、ボロボロと下に食べかすを落としています。
 ある程度大きくなれば子供でも許されない事です。
 なのに、あろう事か公爵家の婿として迎える気だった私の両親もエリックの食べ方を注意した事はありませんでした。

 礼儀を知らない子供のまま成長したその姿に、私は親達の罪深さの一端を見た気がします。
 常識ある周囲の使用人も化け物を見る目でエリックを見ております。

 それにしても、前触れもなく突然来たエリックの為に、本来の公爵家の予定をねじ曲げて私達は一緒にお茶をしていたのですが……私達がこんな非常識の為にそこまでする価値はあったのでしょうか?
 エリックに子供が出来た話は重要な話なんですが、聞く価値のない話でもあります。

 貴方、やっぱり種馬婚約を理解していなかったわね。

 むしろ種馬結婚だから、無責任で良いと思ったのでしょうか。
 ただ、必要とされているのはディアーモ公爵家の血を引いて継ぐ権利を持つ私の子供であって、何も権利を持たない婿予定の庶子未満を作る意味は、一体誰なら理解出来るでしょう。

 私には到底エリックの考えを理解出来る日は来ないと悟りました。

 昔から私を心配している友人が常々言っていました。
「あいつはきっと何かやらかす」
 面白いほど友人の言葉は当たりました。
 友人の言葉を信じてここまで我慢してきた甲斐がありますよ。
 とは言え、流石にここまでエリックが愚かだったのは予想外です。

 周囲の冷たく止まった空気を全く理解出来ないエリックは、

「で、子供の為に何人か乳母を雇って欲しいんだけど。やっぱり最初の子が継ぐわけだし、若い乳母が良いよね。ああ、それと僕の子を産む女性には部屋を用意してくれる? ヒルダと同じくらいでいいからさ」

 非常識もここまで来ると、人間には思えませんね。
 次期ディアーモ公爵である公爵令嬢と同じ部屋を、どうして種馬としか期待しない入り婿の愛人の為に用意しなくてはいけないのですか。
 しかも若い乳母なんてあからさまに不貞の下地を婚家に用意させようとするなんて、本当にエリックの家ではどういう教育方針だったのでしょう。
 この化け物が育つ事になった環境の一端である両親の反応を待っていると、

「……巫山戯るな! 娘の子が継ぐのであって、ディアーモ公爵家の血を引かない女の子供をどうして屋敷に入れなくてはいけない!」

 私の記憶にある限り、初めて父がエリックに怒鳴り付けました。
 憤怒の表情で立ち上がり、エリックを睨み付けて。
 エリックは自覚なくとも格上の公爵家である私達を馬鹿にしたのですから、当然でしょうね。
 ちょっと遅すぎですが。

 それでも甘やかされ続けたエリックには、父の怒りの理由が分からなかったようです。

「え……だって、僕の子供だよ? 小父さん達は嬉しくないの?」
「嬉しい訳ないだろう! 全く無関係の他人の子だ。お前は何を考えて子供を作ったんだ!」
「子供が早く欲しいって言ってたじゃないか! だから」
「それは娘と結婚したら早く子供が見たいと言う話に決まっているだろう!」

 我が儘で悪意に満ちた子供を夫として見られますか?
 少なくとも私には無理です。

 父の気持ちは勝手な祖父気取りの気持ちと分かってはいても、私はとてもじゃないですが、エリックと子供を作るのは願い下げです。
 このまま婚約を解消なりしないかと父とエリックのやり取りを見ていると、

「ヒルダなんてあんな子供、全然魅力もないじゃないか! あんな女と結婚させられる僕を小父さんは可哀想だと思わなかったの?」

 投げつけられたカップが割れる音が響き渡りました。
 こぼれた紅茶がかかったエリックが文句を言う前に、母の意を汲んだメイド長がエリックを張り倒しました。
 貧弱なエリックですから、女性の拳で簡単に床に転がりましたよ。

「そうね。貴方のような男と結婚するなんて『娘が』可哀想ね。婚前に子供を作るような発情した駄馬なんて、公爵家には必要ありませんね」

 淑女の笑みを浮かべる母の目は、笑ってはおりません。
 両親ともに態度が変わった事を察した護衛騎士達が一斉に剣を抜きました。

 ここに至り、エリックは我が公爵家にとって害ある存在と見なされたようです。

 この状況を見てもまだエリックは、自分の立場が理解出来ない顔をしています。
 ずっと公爵夫妻は娘ではなく自分を大事にして、自分のやることなすこと認めてくれると思い込んでいたのでしょう。

「何で……」
「当たり前でしょう。私達はヒルダを愛しているのだから、娘を虚仮にする男を許す筈もありません」
「はあ!? だって、そいつは僕に何もしてくれないのに、どうして小母さん達は!」
「当たり前だ。何故私の娘がお前なんぞに奉仕しなくてはいけない!」

 父もエリックに吠え、暴れ始めたエリックを騎士達が掴んで外に連れて行きました。

「婚約は破棄だ!」

 怒り心頭の父はサラサラと手紙を書くとグリューを呼んで、エリックの実家であるリーノ伯爵家に届けるように言いました。

 私はこれまで両親にとって優先順位がエリックの方が高いと思っていましたが、最後の一線は両親のどちらも弁えていたようです。
 これまでの我慢を思い出し、言葉を失っている私を母は抱きしめ、

「ごめんなさい。こんな子とは思わなかったのよ……」

 エリックをあんな風に育てたのは、貴女もですよ。
 それでも、最後に私をきちんと選んでくれたのは嬉しかった。


 そうして、嫌がらせを伴う婚約はエリック側の有責で破棄となりました。

 ですが、エリックが反省したとはついぞ聞きませんでした。
 私は不安に駆られましたが、婚約をした割にリーノ伯爵家は我が家とそれほど繋がりがある家ではなく、それ以上は私には分かりませんでした。



「今は怒っているみたいだけど、きっと少し経ったら落ち着いてくれると思うよ」

 エリックが恋人のベリーナにそんな事を言っていたなんて、当然知りませんでした。

「ふふっ。次期公爵だと大変ですね」
「全く。僕が公爵になったら我が儘なヒルダなんて娼館にでも売るさ」

 破棄された事が理解出来なかっただけでなく、自分が公爵になれない事すらエリックは理解しておらず。

「今日は何処へ行こうか?」
「新しいカフェがオープンしたって聞きました! 行ってみませんか」
「子供がいるのにカフェは大丈夫か?」
「ちょっとくらいならいいと思いますよ」

 仲良く連れ立つエリックとベリーナは、誰かが取りなし自分達を楽しい未来に連れて行ってくれる事を信じていた。


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