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狂嵐襲来編
銀の死神
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王子とゲオルグの会話が終わると、今度はゲオルグがサーディスをじっと見つめた。
彼の視線が鋭さを増し、まるで獲物を見極めるかのような目つきになる。
「……お前の名は?」
ゲオルグの問いに、サーディスは微動だにせず答えた。
「サーディス」
その瞬間――。
傭兵団の面々がざわめき、周囲の空気が一変した。
「……銀の死神……?」
誰かが呟いた。
ゲオルグの眉が一瞬動き、彼は腕を組みながらサーディスを値踏みするように見つめる。
サーディスは冷静に、その視線を受け止めた。
「まさかとは思ったが……やっぱりそうか」
王子が怪訝な表情を浮かべる。
「知っているのか?」
ゲオルグは鼻を鳴らし、重々しく頷いた。
「……"銀の死神"。それは、俺たち傭兵の間で噂になってた存在だ」
傭兵団の団員たちも頷き、どこか戦慄を帯びた表情を浮かべる者もいた。
「戦場にふらっと現れては、敵対する者を片っ端から狩っていく。まるで"死神"のように、な。それで……うちの団も昔何人かやられた」
エルヴァンが皮肉めいた笑みを浮かべながら、肩をすくめた。
サーディスはそれを受けても、何の感情も見せないまま、淡々と口を開いた。
「……それで? その時の復讐でもするつもりか?」
ゲオルグの表情が険しくなる。
そして、傭兵団の者たちも微妙な空気のまま沈黙した。
数秒の間が流れる。
しかし、次の瞬間――。
「……ハハッ!」
ゲオルグが突然、豪快に笑い出した。
「いや……違ぇよ。味方ってなら、これほど頼もしい存在はいねぇ」
「……」
サーディスは無言のまま、ゲオルグを見つめる。
ゲオルグは腕を組み直し、ニヤリと笑った。
「戦場じゃ、強いヤツが生き残るもんだ。恨みを忘れたわけじゃねぇが……それ以上に、強いヤツと肩を並べるのは悪くねぇって思ってな」
エルヴァンも同意するように頷く。
「まぁ、俺たちは復讐に生きるような連中じゃねぇからな」
傭兵団の者たちも、それぞれ納得したように頷く。
王子はその様子をじっと見守っていたが、彼の胸には一抹の疑念が残った。
("銀の死神"……サーディスは、そんな存在だったのか)
だが、彼はそれを口にすることはなかった。
サーディスは、静かにゲオルグを見つめる。
「……ならば、これからは味方として戦うことになる」
ゲオルグは大きく頷いた。
「おうよ。頼りにしてるぜ、"銀の死神"さんよ"」
サーディスは何も言わなかったが、目を伏せたその表情には、一瞬だけ複雑な感情が浮かんでいた。
ゲオルグが口を開いた。
「……で、殿下。この先の宛はあるのか?」
低く、落ち着いた声だった。
その鋭い眼光が王子を見据えていた。
「無いなら、ひとまず国外に逃げたほうがいいと思うぜ」
その言葉に、王子はゆっくりと首を振る。
「それはしない。私は、グリムシュタイン公のもとへ向かう」
ゲオルグの眉がピクリと動く。
「……コウモリ公のところにか」
ゲオルグは短く笑った。
「殿下、あれは貴族派と王族派を行き来してるコウモリ野郎だぞ? どっちにつくか分かったもんじゃねぇ。そもそも、何であんたはそんな奴を頼ろうってんだ?」
ゲオルグは肘を膝に置き、片手で顎をさすりながらじっと王子を見つめる。
王子は、静かに言った。
「それは違う。グリムシュタイン公は、バランスを取っていただけだ」
「……バランス?」
「そうだ。貴族派にも王族派にも偏らず、どちらか一方が力をつけすぎないようにしていた。その目的は、国全体の安定のためだった」
ゲオルグが少し眉をひそめる。
「へぇ……」
王子は淡々と続けた。
「私も、少し前まで"コウモリ"だと思っていた。だが、父が言っていた。"何かあれば公を頼れ"と」
その言葉に、傭兵団の団員の一人が驚いたように声を上げる。
「団長、政治にも詳しいんですねー」
それにゲオルグは肩をすくめ、気怠そうに言った。
「ま、昔仕えてたところでな」
その時――。
サーディスの心に、微かな違和感が走った。
(……なにかが引っかかる)
ゲオルグの言葉――いや、彼の"声"だ。
"あの声に、聞き覚えがある"。
だが、それがどこで聞いたものなのか、思い出せない。
(どこで……? どこで私は、この声を……?)
心の奥に沈んでいた何かが、わずかに揺れ動く。
だが、まだ"答え"にはたどり着けなかった。
<あとがき>
ここまで見てくれてありがとうございます!
気に入っていただけたら、お気に入り登録をよろしくお願いします!
彼の視線が鋭さを増し、まるで獲物を見極めるかのような目つきになる。
「……お前の名は?」
ゲオルグの問いに、サーディスは微動だにせず答えた。
「サーディス」
その瞬間――。
傭兵団の面々がざわめき、周囲の空気が一変した。
「……銀の死神……?」
誰かが呟いた。
ゲオルグの眉が一瞬動き、彼は腕を組みながらサーディスを値踏みするように見つめる。
サーディスは冷静に、その視線を受け止めた。
「まさかとは思ったが……やっぱりそうか」
王子が怪訝な表情を浮かべる。
「知っているのか?」
ゲオルグは鼻を鳴らし、重々しく頷いた。
「……"銀の死神"。それは、俺たち傭兵の間で噂になってた存在だ」
傭兵団の団員たちも頷き、どこか戦慄を帯びた表情を浮かべる者もいた。
「戦場にふらっと現れては、敵対する者を片っ端から狩っていく。まるで"死神"のように、な。それで……うちの団も昔何人かやられた」
エルヴァンが皮肉めいた笑みを浮かべながら、肩をすくめた。
サーディスはそれを受けても、何の感情も見せないまま、淡々と口を開いた。
「……それで? その時の復讐でもするつもりか?」
ゲオルグの表情が険しくなる。
そして、傭兵団の者たちも微妙な空気のまま沈黙した。
数秒の間が流れる。
しかし、次の瞬間――。
「……ハハッ!」
ゲオルグが突然、豪快に笑い出した。
「いや……違ぇよ。味方ってなら、これほど頼もしい存在はいねぇ」
「……」
サーディスは無言のまま、ゲオルグを見つめる。
ゲオルグは腕を組み直し、ニヤリと笑った。
「戦場じゃ、強いヤツが生き残るもんだ。恨みを忘れたわけじゃねぇが……それ以上に、強いヤツと肩を並べるのは悪くねぇって思ってな」
エルヴァンも同意するように頷く。
「まぁ、俺たちは復讐に生きるような連中じゃねぇからな」
傭兵団の者たちも、それぞれ納得したように頷く。
王子はその様子をじっと見守っていたが、彼の胸には一抹の疑念が残った。
("銀の死神"……サーディスは、そんな存在だったのか)
だが、彼はそれを口にすることはなかった。
サーディスは、静かにゲオルグを見つめる。
「……ならば、これからは味方として戦うことになる」
ゲオルグは大きく頷いた。
「おうよ。頼りにしてるぜ、"銀の死神"さんよ"」
サーディスは何も言わなかったが、目を伏せたその表情には、一瞬だけ複雑な感情が浮かんでいた。
ゲオルグが口を開いた。
「……で、殿下。この先の宛はあるのか?」
低く、落ち着いた声だった。
その鋭い眼光が王子を見据えていた。
「無いなら、ひとまず国外に逃げたほうがいいと思うぜ」
その言葉に、王子はゆっくりと首を振る。
「それはしない。私は、グリムシュタイン公のもとへ向かう」
ゲオルグの眉がピクリと動く。
「……コウモリ公のところにか」
ゲオルグは短く笑った。
「殿下、あれは貴族派と王族派を行き来してるコウモリ野郎だぞ? どっちにつくか分かったもんじゃねぇ。そもそも、何であんたはそんな奴を頼ろうってんだ?」
ゲオルグは肘を膝に置き、片手で顎をさすりながらじっと王子を見つめる。
王子は、静かに言った。
「それは違う。グリムシュタイン公は、バランスを取っていただけだ」
「……バランス?」
「そうだ。貴族派にも王族派にも偏らず、どちらか一方が力をつけすぎないようにしていた。その目的は、国全体の安定のためだった」
ゲオルグが少し眉をひそめる。
「へぇ……」
王子は淡々と続けた。
「私も、少し前まで"コウモリ"だと思っていた。だが、父が言っていた。"何かあれば公を頼れ"と」
その言葉に、傭兵団の団員の一人が驚いたように声を上げる。
「団長、政治にも詳しいんですねー」
それにゲオルグは肩をすくめ、気怠そうに言った。
「ま、昔仕えてたところでな」
その時――。
サーディスの心に、微かな違和感が走った。
(……なにかが引っかかる)
ゲオルグの言葉――いや、彼の"声"だ。
"あの声に、聞き覚えがある"。
だが、それがどこで聞いたものなのか、思い出せない。
(どこで……? どこで私は、この声を……?)
心の奥に沈んでいた何かが、わずかに揺れ動く。
だが、まだ"答え"にはたどり着けなかった。
<あとがき>
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