せっかく魔王と婚約したのに嫉妬した女神が邪魔をしてきます

朝日はじめ

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第1章 魔王と婚約

第1話 騒がしい日常

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「その調子よ。最高に気持ち良いわ」

 城のテラスに設置されたビーチチェアで俯せになっている黒髪紅眼の美少女・ショコラが艶のある声を発した。
 ショコラは背中を露出させ、悪魔の翼と尻尾を上機嫌な犬のようにぱたぱたと振っている。発汗の機能があるのか、頭部の角は汗ばんでいた。

「満足してもらえて何よりだよ」

 黒髪黒目の少年・国生公一は、ショコラの背中に指圧を施した。ショコラの玉のような肌は押し出す度に固い弾力があった。

「やっぱり凝ってるみたいだな。座りっぱなしは体に悪いから運動したほうがいい」
「私と夜のベッドで朝まで運動したいってこと? 私が満足するまで頑張ってくれるならいいわよ」
「お望みならって言いたいけど、運動と言えば他にもあるだろ? スクワットとか」
「ヘッドバンキング?」
「言ってない。あれ脳に負担がかかるからやらないほうがいいぞ」
「そんな機会ないから平気よ。次はこっちをお願い」

 ショコラは仰向けになると、眩しい生足を公一に向けて伸ばした。
 触るまでもなく滑らかな触り心地を予感させる生足だ。公一は緊張を覚えたが、表情は平静を取り繕い、ショコラのふくらはぎに指を添えた。

「ま、待て、そんなに強く押されたら、私、もう……!」
「変な声を出すな」

 ショコラのわざとらしい嬌声を聞き流し、公一は足裏のツボをぐいぐいと押し込んだ。
 どこをどう押せばどの部位に効果があるのか、異世界転生を果たしたときに獲得したチートスキルの恩恵ですべて把握している。
 公一がマッサージを続けていくと、ショコラは艶めかしい反応から一転し、痛みに身悶えるようになった。

「ち、ちょっと待って、本当に痛いわ。もっと優しく……」
「ここを押されて痛いってことは疲れが溜まってる証拠だ」

 公一は涙目で仰け反るショコラに構わず指先に力を込めた。

「これで良しっと」

 公一は額の汗を拭った。ショコラは激しい運動をしたあとのように息を荒げながら公一に涙目を向けた。

「は、初めてにしては、上手だったわよ……?」
「言い方がエロい。俺はただマッサージをしただけだぞ?」
「次は優しくしてね。毎日こんなに乱暴されたら、私壊れちゃう……」
「だから言い方。もっと普通に言ってくれ」
「私はサキュバスよ? そういう方面に話を持って行くのは本能なのよ」
「史上最強の魔王がサキュバスとか、他の悪魔たちは何をやっているんだか」
「はい、次はこっち」

 むくりと起き上がったショコラは、長い黒髪で秘部が隠された乳房を突き出した。

「胸を揉めってことか?」
「お尻がよかった?」
「どっちがいいとかそういう話じゃなくてだな……」
「言っておくけど、これはマッサージの一環よ? これを機に一線を越えようなんて思ってないんだからね。ドキドキ」
「ドキドキって言ってるじゃないか」

 公一は呆れ返ったが、口振りとは裏腹に、上半身を晒しているショコラから目を離すことができなかった。
 ショコラはそんな公一の心中を察してか、誘うような笑みを湛えている。

「ねえ、早くして。あまり焦らさないで……嫌いになっちゃうわよ?」
「それは困る。俺は君が好きだからな」
「私もよ。もう順序とかどうでもいいから、我慢しないで、一緒に気持ち良くなろ? あなたが望むなら、私のこと、好きにしていいんだから」

 ショコラは蠱惑的な視線を公一に注いだ。
 絶世の美少女から許可を出されて黙っていられる男はいない。
 それは鉄の意志で順序を守ってきた公一も例外ではなかった。マッサージで揉むならセーフだ、と都合の良い解釈で自分を言い聞かせ、しかし逡巡する素振りを見せながら、ショコラの胸に手を伸ばしたが、テラスの扉が勢いよく開かれたことでぴたりと動きを止めた。

「はい残念でしたー! 私の目を盗んでイチャイチャしようとしても無駄ですー! 何があっても邪魔しますー!」
 突然現れた銀髪碧眼の美少女・マロンが不細工な顔をしながらべろべろと舌を出した。
「もう最悪。今いいところだったのに」

 ショコラは溜め息交じりに指を鳴らすと、魔法で生み出した紅色のネグリジェに身を包み、公一の耳元で「続きはまた今度ね」と囁き、城内へ入っていった。

「助かったような、助かってないような、複雑な気分だな」

 公一は額に片手を添えた。あのまま流されていたら順序を忘れてショコラに手を出していたかもしれない。そう考えればマロンの乱入は悪いことではなかったが、まったく悪びれていないマロンを見ていると抗議したくなる。

「……他人の足を引っ張ることに躍起になってたら一生幸せになれないぞ」
「はいそれも残念! 公一くんが何万回転生しても足りないくらい長生きしてきたのに幸せになれなかったから今更ですー! それとも公一くんが私のことを幸せにしてくれるんですか? 嬉しいありがとう!」
「そうやって勢いですべて押し通そうとするのは止めろ」

 公一は抱き着こうとしてきたマロンの顔を押し退けた。

 異世界に転生してから数日が経過したが、公一はこんな調子で騒がしい日常を送っているのだった。
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