せっかく魔王と婚約したのに嫉妬した女神が邪魔をしてきます

朝日はじめ

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第6章 招かれざる客

第33話 一緒にご飯

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「……ショコラの言ってることは正しい」
「ほら見なさい」
「でも、マロンの気持ちもよくわかる」
「さすが公一くん。私が転生者に選んだだけのことはあります」
「そこで提案だ。この子に治療をして食事も与えるけど、城には入れない。この子のことはマロンと俺で責任を持つ。これでどうだ?」

 公一の提案にショコラはやれやれと腕を組み、マロンはぱっと顔を明るくした。

「私もそれが妥当だと思うけど、公一までこの子の責任を持つ必要はないはずよ。その女一人にやらせればいいじゃない」
「マロンだけに任せるとこの子のことが心配で……」
「ああ、そういうことね……」

 公一とショコラに不安視されたマロンは「どういう意味ですか⁉」と声を大にした。

「まったく、お人好しなんだから。そういうところも好きよ」
「自分の意見を押し通さず、妥協案を飲んでくれる君の寛大なところも好きだ」
「公一……」
「ショコラ……」
「はいはいそこまでです。話がまとまったならさくっと治療しちゃいますね」

 マロンが手をかざすと、少女の傷がみるみるうちに塞がっていった。
 日頃の見苦しい行動で忘れがちだが、ショコラは再生の女神だ。治すことにおいては右に出る者はいないほどの存在なのだ。
 痛みで歪んでいた少女の顔色が柔らかくなり、寝息も落ち着いてきた。
 これで一命を取り留めたはずだが、まだやることが残っている。

「丁度ポトフを作ってたんだ。この子にも食べさせてあげよう」
「私はこの子を見てるのでここに持って来てください。城には入れませんからね」

 マロンは「べーだっ」とショコラに向けて舌を出した。

「まるで私が悪者ね。別にいいけど。行きましょ、公一。あなたのポトフ楽しみにしてるわ。熱かったらふーふーで冷ましてくれる?」
「いや、責任を持つと言った手前だ。俺もここでマロンたちと一緒に食べるよ」
「あっそ。私よりその女を取るのね」
「意地の悪いことを言わないでくれ。今回は事情が事情じゃないか」
「知らない。公一のバカ」

 ショコラはぷいっと顔を背け、城へと戻って行った。愛には衝突と擦れ違いが付き物だが、こんな形で訪れるのは予想外だった。

「仕方ない。今晩はショコラが好きなショコラを作って機嫌を取るか」
「ダジャレですか?」
「……そう聞こえるのは無理もないか」

 公一は後頭部を掻き、一度その場を離れた。厨房でポトフを煮込み終えたムギに事情を説明し、三人分のポトフを持って城壁の前へと戻った。

「あっ! 公一くん! 丁度良かった! この子たった今目を覚ましたところなんです!」

 マロンがぱたぱたと小走りで駆け寄ってきた。マロンの背後にちらりと目をやると、少女は公一を凝視しながら限界まで瞳孔を見開いていた。

「目が覚めたみたいだな。気分はどうだ?」
 公一が訊ねると、少女は現実に立ち返ったように肩を震わせ、曖昧にはにかんだ。

「あ、あの、助けてくれてありがとうございます。マロン様から話を聞きました。ボクのために魔王に掛け合ってくれたって……」
「怪我人をみすみす放っておくわけにはいかないからな。君の名前は?」
「ぼ、ボクは、えっと、モカって言います。あの、あなたは公一さん、ですよね?」
「国生公一だ。よろしくな」
「……この世界では珍しい名前ですよね。どこから来たんですか?」
「その辺はおいおい話す。食欲はあるか? 食事を持ってきた」

 公一がポトフを見せると、モカは目を輝かせた。

「これ公一さんが作ったんですか⁉」
「気に入ってくれたのか? もっと食べたいなら言ってくれ。また持ってくる」
「ありがとうございます!」

 モカは女の子とは思えないがつがつとした食べ方でポトフを頬張った。
 公一はマロンにもポトフを手渡し、魔王城の周囲に広がっている大自然を見ながら三人で食事を摂った。

「いやー、公一くんの料理は相変わらず美味しいです。今度ピザも作ってくださいね」
「まだ諦めてなかったのか。この世界の食材見た目は悪いが、基本何でも揃ってるから作ろうと思えば作れる。今度作ってみるよ」
「やったー! 楽しみにしてますね!」

 マロンは子供のようにぴょんぴょんと跳びはねた。
 喜んでもらえると作り甲斐がある、と公一が口元を緩めていると、モカは感動に打ち震えるように頬に手を添えていた。

「もう最高。こんなところで公一の手料理が食べられるなんて思わなかったよ……」
「気に入ってもらえたようで何よりだけど、いきなり呼び捨ては驚いたかな」
「ご、ごめんなさい! ボクのほうが年下なのに失礼ですよね」
「好きに呼んでくれていいよ。何なら普通に喋ってくれてもいい」
「本当? それじゃ公一って呼ぶね。ボクはモカ。そう、モカだよ」
「さっきも聞いた。何か自分で言い聞かせてるみたいに聞こえるな」
「そ、そんなことないよ! い、嫌だなー、もう」

 モカは誤魔化すようにスープを飲んだ。公一は何となく違和感を覚えたが、このときは深く考えることはしなかった。
 食事を終えた三人はほっと一息つき、腹が膨れて動けなくなった体を草原に預けた。
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