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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
7 星神竜
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(やっぱりいた)
そこには暗黒のオーラを纏う巨大な黒竜の姿があった。
この乙女ゲーの裏ボスだ。私に気付かず眠っているけど、目の前にいるだけで物凄い迫力だ。
本編クリア後に目を覚ました黒竜は、その力でダンジョンに魔物を溢れ返させる。スタンビートの前触れと判断した王国は主人公たちに調査を命じ、ここ最深部で黒竜と戦うことになるのだ。主人公たちを最大レベルまで上げても戦略を間違えれば即座に全滅させてくる最強の敵であり、裏ボスの名に恥じない強さだった。何度コントローラーを投げたことか。
目を覚ますのが本編クリア後ということもあり、黒竜は私が来てもぐっすりと眠っている。
この場で倒しておけば未然にスタンピードを防ぐことができる。何より私の目的を果たすことができる。
(デュランダルを装備できたのはラッキーだったね)
両手で魔剣を構えてみると、頭の中に自然と言葉が浮かび上がってきた。
「我が命を糧に鳴動せよ」
二枚刃の刀身が私の声に応じたように振動し、周囲に高速の金属音を拡散させた。私の体力が魔力に変換されていくのを感じる。これで開幕から最大火力の一撃を放つことができる。
「遍く生命を滅する終末の光よ。我が敵を根源より討ち滅ぼし、永久の虚無へと還さん」
詠唱を用いると魔法の威力が増大する。普段は面倒なので魔法名を唱えるだけにしているが、相手は最強の裏ボスだ。持てる力の限りを尽くして挑むべきだ。
私は膨大な魔力を収束させた魔剣を掲げ、こう唱えた。
「エクスティンクション!」
無数の白い光が黒竜の元に集まった瞬間、目が眩むほどの閃光と共に大爆発が起きた。
すべての魔力を使い果たす代償に放たれる超位魔法の一種。それがエクスティンクションだ。闇属性の魔王が唯一使える無属性魔法だ。
魔剣の効果で威力がさらに上乗せされた超位魔法だ。並みのモンスターなら瞬殺だが、舞い上がった土埃のなかから黒竜が猛り声を上げながら姿を現わした。
最初から一撃で倒せるとは思っていない。私はここに来る道中で手に入れたレアアイテム、エリクサーで体力と魔力を全回復させ、もう一度エクスティンクションを放った。
閃光を伴った大爆発に見舞われた黒竜は苦悶の声を上げた。まだまだこれからだ。私はエクスティンクションからエリクサーのコンボを何度も黒竜に叩き込んだ。
(これで最後の一本!)
私はエリクサーを飲み干し、空瓶を地面に放り投げた。この一撃で倒し切れなかったら肉弾戦しかないが、ここまで弱らせれば十分に勝機はあるはずだ。
「な、何だ、一体何が起きて……?」
黒竜が何か言っていたが、関係ない。
私は最後のエクスティンクションを放った。黒竜は反撃の隙を与えられないまま口から白煙を噴き出し、地響きと共に倒れた。
(な、何とか倒せた……)
魔剣に体力をごっそり奪われた私は膝を付いた。魔剣と十分な量のエリクサーがなければここまで上手くいかなかった。さすがは魔王と言うべきか、私の作戦勝ちと言うべきか。とにかく倒せてよかった。
私がお父様から貰ったポーションを飲んで体力を回復させたときのことだ。黒竜の鱗が白金色に変化した。
ゲームで見た通りの展開だ。不意打ちからのハメ殺しは卑怯だけど、相手はこの世界における最強格だ。一人で挑むのだからこれくらいは許して欲しい。
「我を覆っていた闇が……これはお前がやったのか?」
白竜が威厳のある声で訊ねてきた。この星の生命体が放つ悪意や憎悪などの負のエネルギーを吸収して浄化し、星に還元するのが白竜の役目だが、ある日を境に許容量を超えてしまい、浄化し切れず黒竜に変貌していたのだ。全部ゲーム本編で倒したあとに白竜が説明してくれたことの受け売りだ。
「正気に戻ったようで何よりですわ」
「ああ、助かった。黒竜に変じていた我は正気を失っていたのでな。あのままでは目を覚ましてすぐに世界中に災厄をもたらすところであった」
「そうでしたか。それよりあなたは一体何者かしら? あなたのような竜がいるなんて初めて知りましたわ」
これは主人公が黒竜を倒したあとで言う台詞だ。こうすればゲームと同じように話が進むはずだ。
「我は星神竜。星の始まりと共に生まれた原初の竜であり、この星の守護者である」
星神竜は女神ティアナがこの星に降臨する前から星を守護してきた原住民だ。僅かな文献に存在を示唆されている程度にしか知られていない幻の竜であり、その存在が歴史から抹消されたのは女神を唯一神として崇めるティアナ教によるものだ、とゲーム本編の隠しイベントで知ることができる。
「あなたがあの星神竜……」
「ほう、我を知っているのか? 博識ではないか。人の世に我の名はほとんど残されていないはずなのだがな」
「真実を追い求める変人はいつの世にもいますわ」
「お前のようにか?」
「か弱いレディを変人呼ばわりなんて失礼ではなくて?」
「はっはっは! か弱いレディか! 黒竜に変じた我を打ち倒した者の言う台詞ではないな!」
星神竜は豪傑笑いをした。笑い声が反響して洞窟内が地震のように揺れた。
「か弱いレディのお前から凄まじいほどの闇の波動を感じるぞ。黒竜に変じていた我も闇属性だった。同属性では有効打に欠けるというのによく倒したものよ」
「エクスティンクションの連発で倒しましたわ」
「ほう、超位魔法の一種だな。人の身で扱えるのは聖女、もしくは魔王だけだと聞いていたのだがなぁ?」
星神竜の目がきらりと光った。うっ、鋭い。伊達に長生きはしていない。
そこには暗黒のオーラを纏う巨大な黒竜の姿があった。
この乙女ゲーの裏ボスだ。私に気付かず眠っているけど、目の前にいるだけで物凄い迫力だ。
本編クリア後に目を覚ました黒竜は、その力でダンジョンに魔物を溢れ返させる。スタンビートの前触れと判断した王国は主人公たちに調査を命じ、ここ最深部で黒竜と戦うことになるのだ。主人公たちを最大レベルまで上げても戦略を間違えれば即座に全滅させてくる最強の敵であり、裏ボスの名に恥じない強さだった。何度コントローラーを投げたことか。
目を覚ますのが本編クリア後ということもあり、黒竜は私が来てもぐっすりと眠っている。
この場で倒しておけば未然にスタンピードを防ぐことができる。何より私の目的を果たすことができる。
(デュランダルを装備できたのはラッキーだったね)
両手で魔剣を構えてみると、頭の中に自然と言葉が浮かび上がってきた。
「我が命を糧に鳴動せよ」
二枚刃の刀身が私の声に応じたように振動し、周囲に高速の金属音を拡散させた。私の体力が魔力に変換されていくのを感じる。これで開幕から最大火力の一撃を放つことができる。
「遍く生命を滅する終末の光よ。我が敵を根源より討ち滅ぼし、永久の虚無へと還さん」
詠唱を用いると魔法の威力が増大する。普段は面倒なので魔法名を唱えるだけにしているが、相手は最強の裏ボスだ。持てる力の限りを尽くして挑むべきだ。
私は膨大な魔力を収束させた魔剣を掲げ、こう唱えた。
「エクスティンクション!」
無数の白い光が黒竜の元に集まった瞬間、目が眩むほどの閃光と共に大爆発が起きた。
すべての魔力を使い果たす代償に放たれる超位魔法の一種。それがエクスティンクションだ。闇属性の魔王が唯一使える無属性魔法だ。
魔剣の効果で威力がさらに上乗せされた超位魔法だ。並みのモンスターなら瞬殺だが、舞い上がった土埃のなかから黒竜が猛り声を上げながら姿を現わした。
最初から一撃で倒せるとは思っていない。私はここに来る道中で手に入れたレアアイテム、エリクサーで体力と魔力を全回復させ、もう一度エクスティンクションを放った。
閃光を伴った大爆発に見舞われた黒竜は苦悶の声を上げた。まだまだこれからだ。私はエクスティンクションからエリクサーのコンボを何度も黒竜に叩き込んだ。
(これで最後の一本!)
私はエリクサーを飲み干し、空瓶を地面に放り投げた。この一撃で倒し切れなかったら肉弾戦しかないが、ここまで弱らせれば十分に勝機はあるはずだ。
「な、何だ、一体何が起きて……?」
黒竜が何か言っていたが、関係ない。
私は最後のエクスティンクションを放った。黒竜は反撃の隙を与えられないまま口から白煙を噴き出し、地響きと共に倒れた。
(な、何とか倒せた……)
魔剣に体力をごっそり奪われた私は膝を付いた。魔剣と十分な量のエリクサーがなければここまで上手くいかなかった。さすがは魔王と言うべきか、私の作戦勝ちと言うべきか。とにかく倒せてよかった。
私がお父様から貰ったポーションを飲んで体力を回復させたときのことだ。黒竜の鱗が白金色に変化した。
ゲームで見た通りの展開だ。不意打ちからのハメ殺しは卑怯だけど、相手はこの世界における最強格だ。一人で挑むのだからこれくらいは許して欲しい。
「我を覆っていた闇が……これはお前がやったのか?」
白竜が威厳のある声で訊ねてきた。この星の生命体が放つ悪意や憎悪などの負のエネルギーを吸収して浄化し、星に還元するのが白竜の役目だが、ある日を境に許容量を超えてしまい、浄化し切れず黒竜に変貌していたのだ。全部ゲーム本編で倒したあとに白竜が説明してくれたことの受け売りだ。
「正気に戻ったようで何よりですわ」
「ああ、助かった。黒竜に変じていた我は正気を失っていたのでな。あのままでは目を覚ましてすぐに世界中に災厄をもたらすところであった」
「そうでしたか。それよりあなたは一体何者かしら? あなたのような竜がいるなんて初めて知りましたわ」
これは主人公が黒竜を倒したあとで言う台詞だ。こうすればゲームと同じように話が進むはずだ。
「我は星神竜。星の始まりと共に生まれた原初の竜であり、この星の守護者である」
星神竜は女神ティアナがこの星に降臨する前から星を守護してきた原住民だ。僅かな文献に存在を示唆されている程度にしか知られていない幻の竜であり、その存在が歴史から抹消されたのは女神を唯一神として崇めるティアナ教によるものだ、とゲーム本編の隠しイベントで知ることができる。
「あなたがあの星神竜……」
「ほう、我を知っているのか? 博識ではないか。人の世に我の名はほとんど残されていないはずなのだがな」
「真実を追い求める変人はいつの世にもいますわ」
「お前のようにか?」
「か弱いレディを変人呼ばわりなんて失礼ではなくて?」
「はっはっは! か弱いレディか! 黒竜に変じた我を打ち倒した者の言う台詞ではないな!」
星神竜は豪傑笑いをした。笑い声が反響して洞窟内が地震のように揺れた。
「か弱いレディのお前から凄まじいほどの闇の波動を感じるぞ。黒竜に変じていた我も闇属性だった。同属性では有効打に欠けるというのによく倒したものよ」
「エクスティンクションの連発で倒しましたわ」
「ほう、超位魔法の一種だな。人の身で扱えるのは聖女、もしくは魔王だけだと聞いていたのだがなぁ?」
星神竜の目がきらりと光った。うっ、鋭い。伊達に長生きはしていない。
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