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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
8 願い事
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「……私がその魔王ですわ」
「おお、やはりそうか。しかし妙な話だ。この場所は超位の封印魔法で秘匿していたはずだが、よく見付け出せたものよ。我に関する情報も人の世にほとんど出回っていないというのに。まるで我がここにいるのを最初から知っていたように思えるなぁ」
「ぐ、偶然この辺りを探索していたときに見付けただけですわ」
我ながら苦しい言い訳だ。相手はこの星の始まりから生きている海千山千の存在だ。まともに腹の探り合いをすれば勝ち目はない。ここは全力で白を切るしかない。
「ほう、偶然か」
星神竜が私の顔を覗き込んできた。心の奥底まで見通してしまいそうな神秘的な金瞳だ。誘導尋問に乗ってはいけない。反応してもいけない。何か訊かれたら沈黙してやり過ごすしかない。
「……まあよい。お前が何者であろうと我の闇を払ったのは事実。これ以上探るのは止しておこう」
「そう言っていただけると助かりますわ」
「探られては困る者の言い草だな」
「や、止めると言ったのにあんまりですわ!」
「はっはっはっ! すまなかった。お前はからかい甲斐がある故、ついな」
星神竜は「さて」と前置きしてからこう言った。
「我を打ち倒した褒美として、お前の願いを一つ叶えてやろうではないか」
私は内心で小躍りした。私がここに来た目的はこれだ。
ゲームだったら今頃選択肢が表示されているはずだが、私の目には何も映っていない。
よし、先ずは選択肢にないお願いをしてみてどんな反応をするか確かめてみよう。
「私の願いは世界征服ですわ」
「ほう、さすがは魔王と言ったところか。しかしその願いは我の力を借りずとも遠からず達成できるはずだ。他の願いを言うがよい」
「なら私を不老不死にしなさい」
「お前は輪廻転生を繰り返す魔王であろう? 実質不老不死のようなものではないか。他の願いを言うがよい」
「注文が多いですわね」
「何でも叶えられるわけではない。叶えられる願いは我ができる範囲までだ」
予想通り選択肢以外の願いは叶えられないようだ。
ゲームでは全能力を向上させる冠、全属性攻撃を無効化する指輪、魔力の消費量を半分にする腕輪、その他に星神竜の武具一式の獲得といった複数の選択肢があった。周回することでそれらすべてを手に入れることができるのだが、この世界は私にとって現実となったのだ。ゲームとは違い、一度願いを叶えてもらったら再戦の機会を失うかもしれない。
慎重に選ぶべき場面だが、実は何を叶えてもらうかは既に決めている。
「では、私の仲間になりなさい」
私は右手を差し伸べた。ゲーム本編では選択できる願いをすべて叶えてもらったあとで星神竜を仲間にすることができる。と言ってもパーティメンバーに加わるわけではなく、戦闘開始時に高確率で助っ人として登場し、敵に強力な一撃を与えてくれる。この頃には敵なしになっているので星神竜を仲間にするのはやり込み要素の一つでしかないが、果たしてこの世界ではどうなるのか。そもそも叶えてもらえるかどうか。
「はっはっは! 面白い! 我のすべてを欲するか!」
「笑っていないで叶えられるかどうか教えなさい」
「可能だ! 一度の願いで我を抱え込もうとは実に愉快! その願い叶えてやろう!」
私は内心でガッツポーズを取った。これで万が一主人公たちと敵対することになっても負けることはなくなった。ここにあった伝説級の武器防具とレアアイテムも回収できた。あとはトゥルーエンドを迎えることができれば安泰だ。
「さて、我はこれから少し世界を巡ってみることにする。我が眠りに就いてからどれほどの年月が経ったのか、世界がどう変わったのか気になるのでな」
「好きになさい」
現実となったこの世界で星神竜がどう活躍してくれるかわからないが、今すぐ手を借りたいわけではない。本人がそうしたいと言っているなら尊重するべきだ。
「ふむ。では行ってくる」
星神竜が巨大な翌膜の翼を羽ばたかせると、頭上の岩肌が真っ二つに割れ、日の光が差し込んできた。
「また会える日を楽しみにしているぞ! 我が友よ!」
そう言い残し、星神竜は飛び去って行った。あの巨体が一瞬で消えるとか信じられない。こんな狭い洞窟内じゃなくて空の下で戦うことになっていたら勝てなかったかもしれない。
「これで一安心ですわね」
私は胸を撫で下ろした。上手くいって良かった。イベントを前倒しにしたことで今後のストーリーに影響が出るかもしれないけど、ゲームで言えば今はプロローグと本編スタートの間くらいだ。私が大々的に魔王として動かなければ問題はないはずだ。
(せっかくここまで来たし、もう少しモンスターを倒していこうかな。レアアイテムもドロップするかもしれないし)
備えあれば憂いなしだ。私は来た道を引き返した。
「おお、やはりそうか。しかし妙な話だ。この場所は超位の封印魔法で秘匿していたはずだが、よく見付け出せたものよ。我に関する情報も人の世にほとんど出回っていないというのに。まるで我がここにいるのを最初から知っていたように思えるなぁ」
「ぐ、偶然この辺りを探索していたときに見付けただけですわ」
我ながら苦しい言い訳だ。相手はこの星の始まりから生きている海千山千の存在だ。まともに腹の探り合いをすれば勝ち目はない。ここは全力で白を切るしかない。
「ほう、偶然か」
星神竜が私の顔を覗き込んできた。心の奥底まで見通してしまいそうな神秘的な金瞳だ。誘導尋問に乗ってはいけない。反応してもいけない。何か訊かれたら沈黙してやり過ごすしかない。
「……まあよい。お前が何者であろうと我の闇を払ったのは事実。これ以上探るのは止しておこう」
「そう言っていただけると助かりますわ」
「探られては困る者の言い草だな」
「や、止めると言ったのにあんまりですわ!」
「はっはっはっ! すまなかった。お前はからかい甲斐がある故、ついな」
星神竜は「さて」と前置きしてからこう言った。
「我を打ち倒した褒美として、お前の願いを一つ叶えてやろうではないか」
私は内心で小躍りした。私がここに来た目的はこれだ。
ゲームだったら今頃選択肢が表示されているはずだが、私の目には何も映っていない。
よし、先ずは選択肢にないお願いをしてみてどんな反応をするか確かめてみよう。
「私の願いは世界征服ですわ」
「ほう、さすがは魔王と言ったところか。しかしその願いは我の力を借りずとも遠からず達成できるはずだ。他の願いを言うがよい」
「なら私を不老不死にしなさい」
「お前は輪廻転生を繰り返す魔王であろう? 実質不老不死のようなものではないか。他の願いを言うがよい」
「注文が多いですわね」
「何でも叶えられるわけではない。叶えられる願いは我ができる範囲までだ」
予想通り選択肢以外の願いは叶えられないようだ。
ゲームでは全能力を向上させる冠、全属性攻撃を無効化する指輪、魔力の消費量を半分にする腕輪、その他に星神竜の武具一式の獲得といった複数の選択肢があった。周回することでそれらすべてを手に入れることができるのだが、この世界は私にとって現実となったのだ。ゲームとは違い、一度願いを叶えてもらったら再戦の機会を失うかもしれない。
慎重に選ぶべき場面だが、実は何を叶えてもらうかは既に決めている。
「では、私の仲間になりなさい」
私は右手を差し伸べた。ゲーム本編では選択できる願いをすべて叶えてもらったあとで星神竜を仲間にすることができる。と言ってもパーティメンバーに加わるわけではなく、戦闘開始時に高確率で助っ人として登場し、敵に強力な一撃を与えてくれる。この頃には敵なしになっているので星神竜を仲間にするのはやり込み要素の一つでしかないが、果たしてこの世界ではどうなるのか。そもそも叶えてもらえるかどうか。
「はっはっは! 面白い! 我のすべてを欲するか!」
「笑っていないで叶えられるかどうか教えなさい」
「可能だ! 一度の願いで我を抱え込もうとは実に愉快! その願い叶えてやろう!」
私は内心でガッツポーズを取った。これで万が一主人公たちと敵対することになっても負けることはなくなった。ここにあった伝説級の武器防具とレアアイテムも回収できた。あとはトゥルーエンドを迎えることができれば安泰だ。
「さて、我はこれから少し世界を巡ってみることにする。我が眠りに就いてからどれほどの年月が経ったのか、世界がどう変わったのか気になるのでな」
「好きになさい」
現実となったこの世界で星神竜がどう活躍してくれるかわからないが、今すぐ手を借りたいわけではない。本人がそうしたいと言っているなら尊重するべきだ。
「ふむ。では行ってくる」
星神竜が巨大な翌膜の翼を羽ばたかせると、頭上の岩肌が真っ二つに割れ、日の光が差し込んできた。
「また会える日を楽しみにしているぞ! 我が友よ!」
そう言い残し、星神竜は飛び去って行った。あの巨体が一瞬で消えるとか信じられない。こんな狭い洞窟内じゃなくて空の下で戦うことになっていたら勝てなかったかもしれない。
「これで一安心ですわね」
私は胸を撫で下ろした。上手くいって良かった。イベントを前倒しにしたことで今後のストーリーに影響が出るかもしれないけど、ゲームで言えば今はプロローグと本編スタートの間くらいだ。私が大々的に魔王として動かなければ問題はないはずだ。
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