【連載版】婚約破棄されたラスボス悪役令嬢に転生した私は死の運命から逃れるためにトゥルーエンドを目指します

朝日はじめ

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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました

9 通りすがりの冒険者

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 星神竜に願いを叶えてもらったあと、私は裏ダンジョンでモンスターと戦い続け、気付けばすべてのモンスターを狩り尽くしていた。

 裏ダンジョンのモンスターは黒竜化していた星神竜が纏っていた闇の魔力から誕生した存在で、その闇を私が払ったことで新しい個体が生まれなくなってしまったようだ。ゲームだったら無限に湧いて出てきたけど、この世界が現実となった今、その辺も事情も変わってしまったようだ。

 そのおかげで隈なくダンジョンを見て回ることができた。宝箱から回収したレアアイテムはどれも本編クリア後にしか手に入らない貴重な物ばかりだ。これらを序盤で入手できたのは大きい。エルダーリッチが余分にエリクサーをドロップしてくれたのも運が良かった。その上位互換に該当するラストエリクサーも宝箱から入手できた。こちらには万病を癒す効果もあるらしい。これだけ物資が充実していれば主人公たちに後れを取ることはないはずだ

(でも相手は主人公だし、どんな補正がかかるかわからないよね)

 主人公補正は侮れない。自分が無敵だなんて慢心は隙を生む。魔王の力を持っていても油断は禁物だ。

 学院に入学したあとはどうするか決めている。主人公と攻略対象たちの交流を後押しして好感度が高まるように働きかけ、トゥルーエンドへと導く手助けをする。

 私がこうして自由に動けるように、主人公と攻略対象を含めた登場人物がゲームと同じように動くとは限らない。自分の意志を持っている以上、コントローラーで操作するように主人公を自由に動かすことはできない。そんな主人公をいかに攻略対象たちと交流させていくか。それがトゥルーエンドへと至る重要な鍵となる。つまりこの世界の異分子である私の介入が要になるはずだ。

 ゲーム本編のリディアは魔王の魂を宿したことで負の感情が膨れ上がっていく。そして至る所で主人公の妨害を行うが、私は違う。

 今のところ魔王の影響を受けている感覚はない。私にははっきりと成宮希里香だった頃の意識がある。ほんの一部だけ思い出せるリディアと魔王の記憶は、客観的にアニメやゲームを見たときの感覚に近い。聞こえは悪いが他人事のように思える。

(ゲームの通りに悪役令嬢として振る舞うのはリスクが大きいよね)

 ゲーム本編のリディアは主人公と攻略対象たちに嫌悪されていた。同じように振る舞って距離を置かれたら動きにくくなる。トゥルーエンドに至るためにも友好関係を築くのが得策だけど、リディアが仕出かしてきたこれまでの過去は消えていない。なのにいきなり人が変わったように愛想良く振る舞ったら不審に思われる。実際メイドのポーラはびっくりすぎて気絶したわけだし。この辺の塩梅が難しい。

(何か嫌なこと思い出しちゃったな)

 大学生の頃、同じサークルに入っていた男に愛想良く対応したせいで付き纏われたことがある。幸い友達の助けを借りて撃退することができたけど、この一件で下手に愛想良く振る舞うとへりくだっていると勘違いされ、相手を付け上がらせてしまうと学んだ。社畜になったあとはその辺の匙加減を意識して行動してたけど、それでも侮られてパワハラを受けてしまった。

 状況に応じて臨機応変に応対していく必要がある。今の私には強大な力がある。時と場合によっては武力行使も厭わない。そういう心構えで生きていくべきだ。

(そういえば今日から王都で宿を取るんだった。暗くなる前に早く行かないと)

 洞窟を出た私は西に傾いた太陽を見上げた。宿が取れずに野宿なんてことになったら目も当てられない。転移魔法を使えばさくっと移動できるだろうけど、あまり人に見られたくない。ここは一旦人気のない場所に飛んで、そのあと徒歩で移動するのが無難だ。

(街道の脇にある森の中でいいかな)

 私は洞窟の入口から森の中へと一瞬で移動した。いきなり景色ががらっと変わるのは未知の体験だ。やっぱり魔法ってすごい。使ってない魔法もまだまだたくさんあるし、今度人気のないところで試してみよう。

「ち、近寄るな盗賊ども!」

 王都を目指して歩いていると、遠くから男の声がした。

(何かあったのかな)

 感知魔法で周辺を探ってみると、数百メートル先で馬車が盗賊に襲われているのがわかった。豪華な馬車を護衛と思しき騎士たちが陣を組んで守っている。相手は盗賊と言った風貌の男たちだ。数は騎士たちの倍。盗賊団に襲われているどこかのお偉方と騎士様いったわかりやすい構図だ。

(正直このまま放っておいても物語に影響はなさそうだけど……)

 ブラック企業で苦しめられていた頃の私は、心のどこかで助けを求めていた。結果として助けは来ないまま死亡し、この世界へと転生した。

 もしあの絶望の淵から誰かが助け出してくれていたら、それは何事にも代えがたい救いになっていたはずだ。

 今の私には力がある。私には関係ないと他人事を貫いて、自分を含めて何もかも見て見ぬふりしていたあの頃とは違う。

 私は一度の跳躍で馬車の直上へと移動し、危なげなく地面に着地した。

「何だてめえは。どこから現れやがった?」

 盗賊のボスと思しき大柄な男が眉を顰めた。私は少し考えたあとで、こう言った。

「通りすがりの冒険者ですわ」
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