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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
18 孤児院の借金
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ケビンに案内された先は教会が併設された孤児院だった。どちらの建物も年季が入っている。庭先では子供たちが元気に走り回っている。
「あっ、お帰り、ケビン」
庭先で洗濯物を干している少女がケビンに声をかけた。
焦げ茶色の髪と目の色をした少女だ。取り立てて美人ではないけど、素朴な愛らしさがある。衣服には縫い目が目立っている。貧しい生活をしているのが一目でわかる格好だ。
「あれ? その人は?」
「えっと、このお姉ちゃんは……」
「リディア。通りすがりの冒険者ですわ」
「へえ、冒険者さん。私はシスカ。この教会でシスター兼孤児院の院長をしています。何故冒険者のあなたがケビンと一緒にいるのですか?」
「この子が柄の悪い男と揉めているところをお見かけしたので、安全のためにここまで付いてきましたわ」
「り、リディアお姉ちゃん!」
「……一体何があったの? ケビン」
シスカさんに睨み据えられたケビンは気まずそうに顎を引いた。
「ケビンがご迷惑をおかけしました。詳しく話を窺いたいのですが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「構いませんわ。むしろそのためにここまで来ました」
「ありがとうございます。大したおもてなしはできませんが、どうぞ中へお入りください。ケビンはこっち!」
シスカさんはケビンの耳を引っ張りながら孤児院の中へと連行していった。私はそのあとに続き、案内された席に腰を下ろした。
「ケビンがご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「謝られるようなことではありませんわ。それで、あなたは何であんなことを?」
私に水を向けられたケビンは居心地が悪そうに縮こまったが、私とシスカの視線に耐え兼ねたのか、大凡の経緯を説明した。
「このおバカ。あの人は別に私を虐めてたわけではないんだから」
「で、でも! シスカ姉ちゃんあいつらが来たあとはいつも落ち込んでるだろ! あいつらが悪いことをしてるからじゃないのかよ!?」
「子供のあんたにはわからない大人の事情があるのよ」
「何が大人の事情だよ! そんなのわかるわけないだろ! シスカ姉ちゃんのバカアホドジマヌケ!」
ケビンは目元を擦りながら外へと飛び出して行った。シスカさんは深々と息を吐き、片手で頭を抱えた。
「すみません。お見苦しいところを……」
「気にしていませんわ。それと口調を改める必要はありません。私たちあまり年は変わらないようですし」
「……そういうことならお言葉に甘えようかな。リディアさんはいくつなの?」
「リディアで結構ですわ。私は今年で16になります」
「へえ、あいつと同い年か。私は今年で19よ。あなたみたいな綺麗な子に同じくらいの年だって言われると嬉しいわ」
「別にお世辞ではなくてよ」
「……うん。ありがとう、リディア」
シスカさんは微笑んだが、その裏に疲労が滲んでいるのが見て取れた。
「部外者の私が立ち入るのも何ですが、事情をお聞かせ願いませんか?」
「言えないよ。リディアに迷惑かけたくないし」
「ケビンを手助けしたことで私も無関係ではなくなりましたわ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「私、困っている人を放っておけないタチですの」
私はシスカさんの手を握った。
この世界に転生してからの私は、助けを必要としている人に手を差し伸べ、感謝されることが自分にとっての喜びになると学んだ。おそらくブラック企業から抜け出せず、漠然とした助けを求めていた前世が強く影響しているのだろう。
もしあのとき、誰かが救いの手を差し伸べてくれていたら……救われた人がどんな気持ちになるか、私には痛いほどわかる。
「話してもどうしようもないことだけど……」
シスカさんは事情を説明してくれた。
孤児院の運営を教会への寄付だけで賄うことができず、先代の神父の頃から借金をして存続させてきたそうだ。シスカさんは亡き先代に代わってシスターと院長を兼任し、今日まで運営を維持してきたが、日に日に借金は膨れ上がるばかり。ついには借金取りまで顔を出すようになった。私が会った柄の悪い男はその一人だったのだ。
「先代の神父様がすごいお人好しだったんだ。もちろん良いところではあるんだけど、誰でも信じちゃうところがあって、そのせいでよく人にお金を騙し取られて……多額の借金を残して死んだんだ。孤児院を畳んで土地ごと売れば何とか借金を帳消しにはできそうだったんだけど、そうなったら子供たちはみんな路頭に迷うことになる……だから私は神父様の借金を引き継いで返してきたんだけど、上手くいかなくて今って感じかな」
シスカさんは力なく笑った。悪いのは先代の神父でもシスカさんでもない。神父様の善意に付け込んで金を騙し取った悪党だ。実は借金取りと悪党がグルで、共同して神父様を騙していたという話なら取っちめることもできるけど、あの様子だと借金取りも悪党に一杯食わされた口で、負債の回収のためにここに来ている様子だった。
「この間借金取りに働き口を紹介するって言われたんだ。男の子は炭鉱で、女の子はもう少し大きくなったら娼館。私は今からでも働けるから早く借金を返したいならそうしろって……孤児院を出た私の弟がお金を集めてくれてるんだけど、さすがに全額何とかするのは無理だろうから、正直手詰まりなんだよね……」
「もっとまともな仕事を紹介してもらえるならありがたいお話でしたのに」
「本当にね。あの人たちも早くお金を回収したいから必死なんじゃないかな」
「あなたや子供たちを力尽くで連れて行かないだけまだマシなほうですわね」
「さすがに女神様の信徒である私にそんなことしたら罰が当たるからね」
「その女神様の信徒に娼館を紹介するのはどうかと思いますわ」
「その設定で客を取ればたんまり稼げるって言われたよ」
「下世話な話ですわね……事情はわかりましたわ。お話してくれてありがとうございます」
「暗い話でごめんね。でも人に話したら少しすっきりしたよ。聞いてくれてありがとう」
シスカさんは作り笑いを浮かべた。この様子だと身売りするのも時間の問題だ。
ケビンに案内された先は教会が併設された孤児院だった。どちらの建物も年季が入っている。庭先では子供たちが元気に走り回っている。
「あっ、お帰り、ケビン」
庭先で洗濯物を干している少女がケビンに声をかけた。
焦げ茶色の髪と目の色をした少女だ。取り立てて美人ではないけど、素朴な愛らしさがある。衣服には縫い目が目立っている。貧しい生活をしているのが一目でわかる格好だ。
「あれ? その人は?」
「えっと、このお姉ちゃんは……」
「リディア。通りすがりの冒険者ですわ」
「へえ、冒険者さん。私はシスカ。この教会でシスター兼孤児院の院長をしています。何故冒険者のあなたがケビンと一緒にいるのですか?」
「この子が柄の悪い男と揉めているところをお見かけしたので、安全のためにここまで付いてきましたわ」
「り、リディアお姉ちゃん!」
「……一体何があったの? ケビン」
シスカさんに睨み据えられたケビンは気まずそうに顎を引いた。
「ケビンがご迷惑をおかけしました。詳しく話を窺いたいのですが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「構いませんわ。むしろそのためにここまで来ました」
「ありがとうございます。大したおもてなしはできませんが、どうぞ中へお入りください。ケビンはこっち!」
シスカさんはケビンの耳を引っ張りながら孤児院の中へと連行していった。私はそのあとに続き、案内された席に腰を下ろした。
「ケビンがご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「謝られるようなことではありませんわ。それで、あなたは何であんなことを?」
私に水を向けられたケビンは居心地が悪そうに縮こまったが、私とシスカの視線に耐え兼ねたのか、大凡の経緯を説明した。
「このおバカ。あの人は別に私を虐めてたわけではないんだから」
「で、でも! シスカ姉ちゃんあいつらが来たあとはいつも落ち込んでるだろ! あいつらが悪いことをしてるからじゃないのかよ!?」
「子供のあんたにはわからない大人の事情があるのよ」
「何が大人の事情だよ! そんなのわかるわけないだろ! シスカ姉ちゃんのバカアホドジマヌケ!」
ケビンは目元を擦りながら外へと飛び出して行った。シスカさんは深々と息を吐き、片手で頭を抱えた。
「すみません。お見苦しいところを……」
「気にしていませんわ。それと口調を改める必要はありません。私たちあまり年は変わらないようですし」
「……そういうことならお言葉に甘えようかな。リディアさんはいくつなの?」
「リディアで結構ですわ。私は今年で16になります」
「へえ、あいつと同い年か。私は今年で19よ。あなたみたいな綺麗な子に同じくらいの年だって言われると嬉しいわ」
「別にお世辞ではなくてよ」
「……うん。ありがとう、リディア」
シスカさんは微笑んだが、その裏に疲労が滲んでいるのが見て取れた。
「部外者の私が立ち入るのも何ですが、事情をお聞かせ願いませんか?」
「言えないよ。リディアに迷惑かけたくないし」
「ケビンを手助けしたことで私も無関係ではなくなりましたわ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「私、困っている人を放っておけないタチですの」
私はシスカさんの手を握った。
この世界に転生してからの私は、助けを必要としている人に手を差し伸べ、感謝されることが自分にとっての喜びになると学んだ。おそらくブラック企業から抜け出せず、漠然とした助けを求めていた前世が強く影響しているのだろう。
もしあのとき、誰かが救いの手を差し伸べてくれていたら……救われた人がどんな気持ちになるか、私には痛いほどわかる。
「話してもどうしようもないことだけど……」
シスカさんは事情を説明してくれた。
孤児院の運営を教会への寄付だけで賄うことができず、先代の神父の頃から借金をして存続させてきたそうだ。シスカさんは亡き先代に代わってシスターと院長を兼任し、今日まで運営を維持してきたが、日に日に借金は膨れ上がるばかり。ついには借金取りまで顔を出すようになった。私が会った柄の悪い男はその一人だったのだ。
「先代の神父様がすごいお人好しだったんだ。もちろん良いところではあるんだけど、誰でも信じちゃうところがあって、そのせいでよく人にお金を騙し取られて……多額の借金を残して死んだんだ。孤児院を畳んで土地ごと売れば何とか借金を帳消しにはできそうだったんだけど、そうなったら子供たちはみんな路頭に迷うことになる……だから私は神父様の借金を引き継いで返してきたんだけど、上手くいかなくて今って感じかな」
シスカさんは力なく笑った。悪いのは先代の神父でもシスカさんでもない。神父様の善意に付け込んで金を騙し取った悪党だ。実は借金取りと悪党がグルで、共同して神父様を騙していたという話なら取っちめることもできるけど、あの様子だと借金取りも悪党に一杯食わされた口で、負債の回収のためにここに来ている様子だった。
「この間借金取りに働き口を紹介するって言われたんだ。男の子は炭鉱で、女の子はもう少し大きくなったら娼館。私は今からでも働けるから早く借金を返したいならそうしろって……孤児院を出た私の弟がお金を集めてくれてるんだけど、さすがに全額何とかするのは無理だろうから、正直手詰まりなんだよね……」
「もっとまともな仕事を紹介してもらえるならありがたいお話でしたのに」
「本当にね。あの人たちも早くお金を回収したいから必死なんじゃないかな」
「あなたや子供たちを力尽くで連れて行かないだけまだマシなほうですわね」
「さすがに女神様の信徒である私にそんなことしたら罰が当たるからね」
「その女神様の信徒に娼館を紹介するのはどうかと思いますわ」
「その設定で客を取ればたんまり稼げるって言われたよ」
「下世話な話ですわね……事情はわかりましたわ。お話してくれてありがとうございます」
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