【連載版】婚約破棄されたラスボス悪役令嬢に転生した私は死の運命から逃れるためにトゥルーエンドを目指します

朝日はじめ

文字の大きさ
23 / 56
第1章 乙女ゲーの世界に転生しました

23 呪われた少女

しおりを挟む
 △


 孤児院で寝泊まりするようになった私は、変わらず冒険者ギルドでEクラスのクエストを引き受ける毎日を過ごしている。低額の報酬で重労働を任されることもあるため、駆け出しの冒険者でも嫌がる雑用にもすっかり慣れてきた。そんな雑用クエストをこなしてきた私は住民に顔を知られるようになり、町を歩いているだけで挨拶をされるようになった。人に好かれて感謝されるのは気分がいい。

(また良い種を見付けたし、これも孤児院で育ててもらおうかな)

 私は郊外でハイポーションの原料になる上薬草の種を入手した。ベリーブルーベリーほどの収益にはならないが、育ち盛りの子供たちがたくさんいる孤児院だ。擦り傷は日常茶飯事。上薬草があれば怪我をしたときに大いに役立つ。私もいくつかストックしておきたいところだ。

 私はふと空を見上げた。日差しを浴びながら体を動かすことがこんなに気持ち良いなんて知らなかった。狭いビルの一室で納期に追われてひたすらパソコンを打っていた頃とは大違いだ。貧弱だった前世の体じゃこんな生活できなかっただろうけどね。体は資本って真理だよあれ。

「あ、あれ、私の杖はどこに……?」

 冒険者ギルドでクエスト達成の報告を終え、帰路に就いていたときだ。フードを目深に被った小柄な女性が手探りで何かを探しているところに遭遇した。口振りからして杖を落としたのだろう。少し手を伸ばせば届く距離にあるのに気付いていない。

「探し物はこれかしら?」

 私はひょいと杖を拾い上げ、小柄な女性に手渡した。

「あっ、ご、ご親切にありがとうございます……」

 私は小首を傾げた。少女の声だ。高齢の方かと思った。

「あ、あの……私はこれで失礼致します……」
「ええ。お気を付けて」

 と、私は見送ろうとしたが、余所見をしながら歩いてきた中年の男に突き飛ばされ、少女は体勢を崩した。私は咄嗟に少女を抱き止めた。

「謝りもしないなんて失礼にもほどがありますわね」

 電車で出退勤していた頃に何度かぶつかりおじさんに遭遇したことがある。まともにぶつかったらこっちが吹き飛ばされるからそれらしい人を見掛けたら早めに避けるようにしていたけど、狙いを定めて突っ込んでくるから始末に負えなかった。まあそんな嫌な記憶はどうでもいいとして……。

「お怪我はありませんか?」
「は、はい。二度も助けていただきありがとうございます」

 ぶつかった衝撃で捲れ上がったフードの下には、透き通った青い髪と蒼天のような目をした美少女の顔があった。婚約破棄されたパーティで着飾った淑女を大勢見てきたが、その誰よりも綺麗だ。触れたら幻のように消えてしまう。そんな儚げな印象を抱く美少女だ。

「あ、あの、どうかなさいましたか?」
「な、何でもありませんわ」

 私は少女から身を引いた。少女はぶつかった拍子に落としてしまった杖を探そうと屈み込んだが、すぐ傍にあるのに気付いていない。

 そこでようやく得心がいった。この子は目が見えていないのだ。

「私が拾いますわ。はいこれ」
「す、すみません。ありがとうございます」
「困ったときはお互い様ですわ」

 私が微笑みかけると、少女は私の様子を察したのか、微笑み返してくれた。目が見えていない分他の感覚が研ぎ澄まされているのかもしれない。

「私はリディア。通りすがりの冒険者ですわ。あなたは?」
「わ、私はアイナと申します」

 アイナはぺこりと頭を下げた。同い年くらいの目が見えない子に会ったのは今回が初めてだ。同情を抱いてしまうのは偽善なのか、それとも優越なのか。それなりに生きてきた私でも未だによくわからない。

「この目は生まれつきなんです」

 アイナが口を開いた。私の沈黙からこちらの心情を察したのだろう。

「薬じゃ治せなくて。ご迷惑をおかけしてすみません」
「迷惑だなんて思っていませんわ……辛いですわよね」
「どうでしょう。生まれたときからこうですから。ただ、可哀想な子だって思われるのは、少し複雑かもしれません……仕方ないんですけどね」

 アイナは愛想笑いを浮かべた。

 私は自己嫌悪を抱いた。もっと深く推察すればアイナの心境に気付けたはずだ。それを安っぽい同情で傷付けてしまうなんて……。

「魔法であなたの体を調べてもよろしいかしら?」
「えっ? えっと、いきなりそんなことを言われても……」
「悪いようには致しません。あとからお金を請求するなんてこともしませんわ」
「わ、わかりました」

 病気や状態異常は投薬で治すのがこの世界の常識だ。アイナの了承を得た私は早速魔眼でアイナの状態を確認し、異変に気付いた。

 アイナは病気にかかっていない。これは――

「呪いですわね」

 私が独り言ちると、アイナはびくりと体を震わせた。

「……何故おわかりになったのですか?」
「私魔法は得意ですの。あなたにかけられている呪いは高位、あるいは超位のものですわ。こんなこと言いたくはありませんけど、あなたのご家族は誰かから恨みを買うようなことをしているのかしら?」

 前世の私はこんな風にはっきりと物を言えなかった。目立たないように波風立てず、周りに迷惑をかけないように自分を押し殺して、大多数の一人になって生きていた。思ったことをさらっと口にできるリディアが羨ましい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放されたヒロインですが、今はカフェ店長してます〜元婚約者が毎日通ってくるのやめてください〜

タマ マコト
ファンタジー
王国一の聖女リリアは、婚約者である勇者レオンから突然「裏切り者」と断罪され、婚約も職も失う。理由は曖昧、けれど涙は出ない。 静かに城を去ったリリアは、旅の果てに港町へ辿り着き、心機一転カフェを開くことを決意。 古びた店を修理しながら、元盗賊のスイーツ職人エマ、謎多き魔族の青年バルドと出会い、少しずつ新しい居場所を作っていく。 「もう誰かの聖女じゃなくていい。今度は、私が笑える毎日を作るんだ」 ──追放された聖女の“第二の人生”が、カフェの湯気とともに静かに始まる。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...