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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
25 兄妹喧嘩
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私は休憩を挟んだあとでアイナを連れて町を見て回った。人気のある喫茶店で食事をし、衣料店でお互いに買う服を決め合い、中央広場でやっていた人形劇を見たりと、一日を満喫した。
アイナにとって目にするすべてが新鮮な景色なのだろう。終始笑顔で私に付き合ってくれた。そんなアイナに釣られて私も頬を緩めた。笑う門には福来るって言うけど、その言葉の意味がよくわかった気がする。
「今日はとても楽しかったです!」
王都を一望できる展望台で夕焼けを背景にアイナが言った。絵になる光景だ。カメラがあれば撮っていたところだ。
「楽しんでもらえたようで何よりですわ」
「はい! 私のたくさんの初めてをリディア様と過ごすことができて、今日一日本当に幸せでした……」
アイナはもじもじと体を捻った。愛い奴め。リディアの記憶が歯止めをかけていなかったら抱き着いていたところだ。
「私があなたの目を治したことは内密にお願い致しますわ」
「心得ています。皆には当代の聖女様が見付かったことで女神ティアナ様の奇跡が私にも舞い降りたと説明しておきます」
さすがは女神様だ。周りにそう言っておけば多少の無理筋も納得してくれるからありがたい。
「リディア様、今日は本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません。あなたが助けを必要とするとき、私はこの身のすべてを捧げてあなたの力になります……フリージア公爵家の名に懸けて、ここに誓います」
ん? フリージア公爵家? どこかで聞いたような――
「アイナ! こんなところにいたのか!」
私の思考を遮るように誰かが叫んだ。やってきたのは白みがかった青髪と碧眼を併せ持つ少年だ。知性絵を感じさせる端正な顔立ちに、すらっとした高身長と高価な衣装。見るからに貴族と言った感じだ。
「その声は……お兄様なのですね!」
アイナは脇目も振らずに駆け出し、少年に抱き着いた。
「いきなり走ったら危ないじゃないか! 転んだらどうする!?」
「ごめんなさい。居ても立っても居られなくなって……ああ、お兄様はこんなお顔だったのね。いつも私に優しくしてくれる、愛しい私のお兄様……やっとあなたの顔を見ることができましたわ……」
アイナは泣きながら少年の頬に手を添えた。その様子からアイナの視力が回復したのを察した少年は限界まで瞳孔を見開いた。
「まさか、私のことが見えているのか……!?」
「はい。はっきりと、この目に……」
「し、信じられない……こんな、こんな奇跡が起きるなんて……!」
少年とアイナは号泣しながら抱き合った。
盲目の妹とそれを支えてきた優しい兄の感動的な対面だ。完全に私は邪魔者だが、それはそれとして、アイナがフリージア公爵家の娘で、その兄がこの少年だということは――
「……ところで、何故お前があの女と一緒にいるんだ?」
少年はアイナに向けていた温かな眼差しを一変させ、冷ややかな視線を私に浴びせてきた。
間違いない。この少年はクラウス・フリージア。フリージア公爵家の嫡男だ。同じ公爵家ということもあってリディアとは幼少期からの付き合いだが、他人にきつく当たるリディアを毛嫌いし、顔を合わせる度に口喧嘩をしてきた。
「お久しぶりですわね。私が婚約破棄されたパーティ以来かしら?」
「そんなこともあったな。だがあれはお前の自業自得だ。公爵家に相応しい振る舞いをしていればあんなことにはならなかった」
「耳が痛い話ですわ。最近の私が不安定だったことは自覚しています」
「己を顧みることはできるようになったようだな。しかしだからと言ってお前が今までしてきたことが帳消しになるわけではない。それより何故お前のような女が私の妹と――」
クラウスが言い終える直前だった。アイナがクラウスを突き飛ばした。
「あ、アイナ……? いきなりどうした?」
「何で……何でリディア様をそんなに悪く言うのですか!?」
アイナは泣きながらクラウスを睨み付けた。
「な、何を言っている? お前もフリージア公爵家の人間なら知っているだろう? その女が周りからどう言われているか……」
「事実かどうかもわからない噂を鵜呑みにされるのですか!? 私は今初めてリディア様がクラウディウス公爵家の方だと知りました。お兄様が言うような悪い噂も耳にしたことがあります。だけど私は今日一日リディア様と過ごして確信しています。リディア様は素晴らしいお方です」
アイナは胸に両手を添えた。
「私はリディア様の優しさに救われました……お兄様のような素敵な方が他にもいたのだと、嬉しい気持ちになりました……なのに、なのに! お兄様は私の恩人を侮辱なさるのですか!?」
アイナは怒りで全身の毛を逆立てた獣のような迫力で叫んだ。儚げだと思っていた美少女の激昂だ。端から見ている私も恐怖を感じるくらいだ。怒りを直接向けられているクラウスは生きた心地がしないはずだ。
「見損ないましたわ! お兄様がそんなお人だったなんて! お兄様なんて、お兄様なんて大嫌――」
「そこまでですわ」
私はアイナの口を両手で塞いだ。もう少しで止めを刺されるところだったクラウスはすっかり腰が引けている。
ここ最近のリディアは魔王の魂が影響して攻撃的になっていた。そのせいで傷付けられた人たちが大勢いるのは事実だ。クラウスが私に敵意を抱くのも、事情をよく知らないアイナが私のために怒るのも無理はない。
「り、リディア様? どうして……」
「落ち着きなさい……かっとなって取り返しの付かないことを言ったら後悔しますわよ」
言葉には影響力がある。一時的な感情で言ってはいけないことを言ってしまったら絶対に後悔する。アイナのような優しい子は尚更だ。
私は休憩を挟んだあとでアイナを連れて町を見て回った。人気のある喫茶店で食事をし、衣料店でお互いに買う服を決め合い、中央広場でやっていた人形劇を見たりと、一日を満喫した。
アイナにとって目にするすべてが新鮮な景色なのだろう。終始笑顔で私に付き合ってくれた。そんなアイナに釣られて私も頬を緩めた。笑う門には福来るって言うけど、その言葉の意味がよくわかった気がする。
「今日はとても楽しかったです!」
王都を一望できる展望台で夕焼けを背景にアイナが言った。絵になる光景だ。カメラがあれば撮っていたところだ。
「楽しんでもらえたようで何よりですわ」
「はい! 私のたくさんの初めてをリディア様と過ごすことができて、今日一日本当に幸せでした……」
アイナはもじもじと体を捻った。愛い奴め。リディアの記憶が歯止めをかけていなかったら抱き着いていたところだ。
「私があなたの目を治したことは内密にお願い致しますわ」
「心得ています。皆には当代の聖女様が見付かったことで女神ティアナ様の奇跡が私にも舞い降りたと説明しておきます」
さすがは女神様だ。周りにそう言っておけば多少の無理筋も納得してくれるからありがたい。
「リディア様、今日は本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません。あなたが助けを必要とするとき、私はこの身のすべてを捧げてあなたの力になります……フリージア公爵家の名に懸けて、ここに誓います」
ん? フリージア公爵家? どこかで聞いたような――
「アイナ! こんなところにいたのか!」
私の思考を遮るように誰かが叫んだ。やってきたのは白みがかった青髪と碧眼を併せ持つ少年だ。知性絵を感じさせる端正な顔立ちに、すらっとした高身長と高価な衣装。見るからに貴族と言った感じだ。
「その声は……お兄様なのですね!」
アイナは脇目も振らずに駆け出し、少年に抱き着いた。
「いきなり走ったら危ないじゃないか! 転んだらどうする!?」
「ごめんなさい。居ても立っても居られなくなって……ああ、お兄様はこんなお顔だったのね。いつも私に優しくしてくれる、愛しい私のお兄様……やっとあなたの顔を見ることができましたわ……」
アイナは泣きながら少年の頬に手を添えた。その様子からアイナの視力が回復したのを察した少年は限界まで瞳孔を見開いた。
「まさか、私のことが見えているのか……!?」
「はい。はっきりと、この目に……」
「し、信じられない……こんな、こんな奇跡が起きるなんて……!」
少年とアイナは号泣しながら抱き合った。
盲目の妹とそれを支えてきた優しい兄の感動的な対面だ。完全に私は邪魔者だが、それはそれとして、アイナがフリージア公爵家の娘で、その兄がこの少年だということは――
「……ところで、何故お前があの女と一緒にいるんだ?」
少年はアイナに向けていた温かな眼差しを一変させ、冷ややかな視線を私に浴びせてきた。
間違いない。この少年はクラウス・フリージア。フリージア公爵家の嫡男だ。同じ公爵家ということもあってリディアとは幼少期からの付き合いだが、他人にきつく当たるリディアを毛嫌いし、顔を合わせる度に口喧嘩をしてきた。
「お久しぶりですわね。私が婚約破棄されたパーティ以来かしら?」
「そんなこともあったな。だがあれはお前の自業自得だ。公爵家に相応しい振る舞いをしていればあんなことにはならなかった」
「耳が痛い話ですわ。最近の私が不安定だったことは自覚しています」
「己を顧みることはできるようになったようだな。しかしだからと言ってお前が今までしてきたことが帳消しになるわけではない。それより何故お前のような女が私の妹と――」
クラウスが言い終える直前だった。アイナがクラウスを突き飛ばした。
「あ、アイナ……? いきなりどうした?」
「何で……何でリディア様をそんなに悪く言うのですか!?」
アイナは泣きながらクラウスを睨み付けた。
「な、何を言っている? お前もフリージア公爵家の人間なら知っているだろう? その女が周りからどう言われているか……」
「事実かどうかもわからない噂を鵜呑みにされるのですか!? 私は今初めてリディア様がクラウディウス公爵家の方だと知りました。お兄様が言うような悪い噂も耳にしたことがあります。だけど私は今日一日リディア様と過ごして確信しています。リディア様は素晴らしいお方です」
アイナは胸に両手を添えた。
「私はリディア様の優しさに救われました……お兄様のような素敵な方が他にもいたのだと、嬉しい気持ちになりました……なのに、なのに! お兄様は私の恩人を侮辱なさるのですか!?」
アイナは怒りで全身の毛を逆立てた獣のような迫力で叫んだ。儚げだと思っていた美少女の激昂だ。端から見ている私も恐怖を感じるくらいだ。怒りを直接向けられているクラウスは生きた心地がしないはずだ。
「見損ないましたわ! お兄様がそんなお人だったなんて! お兄様なんて、お兄様なんて大嫌――」
「そこまでですわ」
私はアイナの口を両手で塞いだ。もう少しで止めを刺されるところだったクラウスはすっかり腰が引けている。
ここ最近のリディアは魔王の魂が影響して攻撃的になっていた。そのせいで傷付けられた人たちが大勢いるのは事実だ。クラウスが私に敵意を抱くのも、事情をよく知らないアイナが私のために怒るのも無理はない。
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