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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
26 呪いの魔女
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「ごめんなさい……お兄様に酷いことを言うところでした」
「大丈夫。クラウスもわかっていますわ。そうですわよね?」
「あ、ああ……」
アイナの逆鱗に触れて間もないせいか、クラウスはまだ呆然自失としている。私も同じ立場だったらこうなっていたに違いない。
「その、何というか……詳しく説明してくれないか? クラウディウス嬢」
「あなたにそんな風に呼ばれたのは初めてですわね。いつもはあの女とかお前とかおざなりな呼び方をしていましたのに」
「……お兄様?」
「こ、これ以上妹を刺激しないでくれ! 寿命が尽きてしまう!」
「仕方ありませんわね。これは貸し一つですわよ……先ずはどこから説明するべきかしら」
「リディア様、ここ私にお任せください」
「もう平気ですの?」
「はい。リディア様のおかげですわ。さてお兄様、先ずは座っていただけますか?」
「す、座る? どこにも椅子は見当たらないが……」
「地面の上にです。もちろん正座ですわよ?」
「あ、ああ。わかった……」
クラウスはその場で正座した。公爵家の嫡男がおとなしく妹に従って地面に直接正座している。状況を整理してみるとすごい光景だ。アイナが儚げな美少女だという評価は改める必要がありそうだ。
「リディア様、お兄様に本当のことを話してもよろしいでしょうか?」
「アイナがそうしても問題はないと判断したのであれば構いませんわ」
「ありがとうございます」
アイナは今日起きたことをすべてクラウスに話した。
「信じられない……夢ではないかと疑いたいところだが……」
「すべて現実ですわ、お兄様。それで、リディア様に何か言うことがあるのではありませんか?」
「数々の非礼を謝罪する! この通りだ!」
クラウスは額を地面に擦りつけた。いくら人気がないとはいえ、公爵家の嫡男が外で土下座とかあり得ない光景だ。それを実行させるアイナ、恐ろしい子。
「私からもお願いします。どうかお兄様をお許しください」
「アイナがそこまで言うなら許して差し上げますわ」
「感謝する、クラウディウス嬢」
「敬称は不要ですわよ、クラウス様。呼び方もリディアで構いませんわ」
「私もクラウスでいい。本当にすまなかった……こ、こんなところでよかっただろうか?」
クラウスは自分の不手際で怒らせた親の機嫌を確認する子供のようにアイナの顔色を窺った。アイナはつんとした様子ではあったが、こくりと頷き、クラウスは文字通り胸を撫で下ろした。
「……お兄様が余計なことを言わなければ最高の一日でしたのに……」
アイナは不満そうにぼやいた。アイナも本心では目が見えるようになった記念すべき日にクラウスと喧嘩したくなかったのだろう。かと言って、長年私を敵視してきたクラウスが事情を知らない状態で私とアイナが一緒にいるのを見たらああなるのは無理からぬことだ。行き違いが生んだ不幸な出来事と言えるが、いつまでも引き摺っていたら気分は晴れない。
「いつまで座っているつもりですの? 早く立ちなさい」
「た、立ってもいいのか? クラウディ……リディア」
「リディア様のお許しもありましたし、私としても構いませんわよ、お兄様」
「そ、そうか。重ね重ねすまなかった」
「謝られただけではこれまでの罵詈雑言を忘れることはできませんわ」
「……リディア様、そのお話詳しくお聞かせいただけませんか?」
「もう許してくれ。頼む。アイナに嫌われたら私は生きていけない」
「あなたが妹思いだとは知っていましたけど、ここまでとは思いませんでしたわ」
魔王の魂に影響されたリディアなら弱味を握ったとばかりにクラウスをこき下ろしていたところだが、妹の目の前でクラウスの名誉を傷付けるほど私は悪趣味ではない。
「これで一件落着、とうことでよろしいですわね?」
「リディア様がそう仰るなら」
「妹がそう言うなら」
「二人して唯々諾々と私に従うのはお止めなさい」
変な力関係ができてしまったような気がするけど、何にしても仲直りできたみたいでよかった。
「しかし本当に驚いた。アイナにかけられた呪いは覚醒した聖女様でなければ治せないと言われていたのに……」
それが覚醒した聖女様だけじゃないんだよねー。私の魔王としての力があればって、あれ? 何か大事なことを忘れていたような……?
「はい。リディア様のおかげで呪いの魔女にならずに済みました。本当に感謝していますわ」
んー? 呪いの魔女だって? なーんか聞き覚えがあるんだよねそのフレーズ。
私はじっとアイナの顔を見た。そこでようやく記憶の中のとある人物の面影が重なった。
クラウスルートに入る重要なイベントの一つに、魔女化したクラウスの双子の妹を主人公の光魔法で救う話があった。特定の条件を満たさずに戦うと殺める結果になってしまい、クラウスフラグが完全にへし折られることになる。その条件が煩雑だったために詰んでしまう初見のプレイヤーが多かった。現に私も攻略サイトで条件を満たす方法を知るまで詰んでいた口だ。
ちなみにゲーム本編のクラウスの妹は学院に通わず家で療養しており、魔女化から救い出したあとも物語終盤まで寝た切りになる。クラウスルートのエンディングで最後にちらっと登場するが、魔女化した姿しか知らないために誰? 状態になったプレイヤーも少なくない。私だ。
「私からも改めて礼を言わせてくれ。妹を救ってくれて本当にありがとう。今後は君への態度を改めて接していくつもりだ」
「お兄様共々よろしくお願い致しますわ、リディア様!」
アイナは満面の笑みを浮かべた。
く、クラウスの妹ってアイナだったのね……全然似てないじゃん。
「大丈夫。クラウスもわかっていますわ。そうですわよね?」
「あ、ああ……」
アイナの逆鱗に触れて間もないせいか、クラウスはまだ呆然自失としている。私も同じ立場だったらこうなっていたに違いない。
「その、何というか……詳しく説明してくれないか? クラウディウス嬢」
「あなたにそんな風に呼ばれたのは初めてですわね。いつもはあの女とかお前とかおざなりな呼び方をしていましたのに」
「……お兄様?」
「こ、これ以上妹を刺激しないでくれ! 寿命が尽きてしまう!」
「仕方ありませんわね。これは貸し一つですわよ……先ずはどこから説明するべきかしら」
「リディア様、ここ私にお任せください」
「もう平気ですの?」
「はい。リディア様のおかげですわ。さてお兄様、先ずは座っていただけますか?」
「す、座る? どこにも椅子は見当たらないが……」
「地面の上にです。もちろん正座ですわよ?」
「あ、ああ。わかった……」
クラウスはその場で正座した。公爵家の嫡男がおとなしく妹に従って地面に直接正座している。状況を整理してみるとすごい光景だ。アイナが儚げな美少女だという評価は改める必要がありそうだ。
「リディア様、お兄様に本当のことを話してもよろしいでしょうか?」
「アイナがそうしても問題はないと判断したのであれば構いませんわ」
「ありがとうございます」
アイナは今日起きたことをすべてクラウスに話した。
「信じられない……夢ではないかと疑いたいところだが……」
「すべて現実ですわ、お兄様。それで、リディア様に何か言うことがあるのではありませんか?」
「数々の非礼を謝罪する! この通りだ!」
クラウスは額を地面に擦りつけた。いくら人気がないとはいえ、公爵家の嫡男が外で土下座とかあり得ない光景だ。それを実行させるアイナ、恐ろしい子。
「私からもお願いします。どうかお兄様をお許しください」
「アイナがそこまで言うなら許して差し上げますわ」
「感謝する、クラウディウス嬢」
「敬称は不要ですわよ、クラウス様。呼び方もリディアで構いませんわ」
「私もクラウスでいい。本当にすまなかった……こ、こんなところでよかっただろうか?」
クラウスは自分の不手際で怒らせた親の機嫌を確認する子供のようにアイナの顔色を窺った。アイナはつんとした様子ではあったが、こくりと頷き、クラウスは文字通り胸を撫で下ろした。
「……お兄様が余計なことを言わなければ最高の一日でしたのに……」
アイナは不満そうにぼやいた。アイナも本心では目が見えるようになった記念すべき日にクラウスと喧嘩したくなかったのだろう。かと言って、長年私を敵視してきたクラウスが事情を知らない状態で私とアイナが一緒にいるのを見たらああなるのは無理からぬことだ。行き違いが生んだ不幸な出来事と言えるが、いつまでも引き摺っていたら気分は晴れない。
「いつまで座っているつもりですの? 早く立ちなさい」
「た、立ってもいいのか? クラウディ……リディア」
「リディア様のお許しもありましたし、私としても構いませんわよ、お兄様」
「そ、そうか。重ね重ねすまなかった」
「謝られただけではこれまでの罵詈雑言を忘れることはできませんわ」
「……リディア様、そのお話詳しくお聞かせいただけませんか?」
「もう許してくれ。頼む。アイナに嫌われたら私は生きていけない」
「あなたが妹思いだとは知っていましたけど、ここまでとは思いませんでしたわ」
魔王の魂に影響されたリディアなら弱味を握ったとばかりにクラウスをこき下ろしていたところだが、妹の目の前でクラウスの名誉を傷付けるほど私は悪趣味ではない。
「これで一件落着、とうことでよろしいですわね?」
「リディア様がそう仰るなら」
「妹がそう言うなら」
「二人して唯々諾々と私に従うのはお止めなさい」
変な力関係ができてしまったような気がするけど、何にしても仲直りできたみたいでよかった。
「しかし本当に驚いた。アイナにかけられた呪いは覚醒した聖女様でなければ治せないと言われていたのに……」
それが覚醒した聖女様だけじゃないんだよねー。私の魔王としての力があればって、あれ? 何か大事なことを忘れていたような……?
「はい。リディア様のおかげで呪いの魔女にならずに済みました。本当に感謝していますわ」
んー? 呪いの魔女だって? なーんか聞き覚えがあるんだよねそのフレーズ。
私はじっとアイナの顔を見た。そこでようやく記憶の中のとある人物の面影が重なった。
クラウスルートに入る重要なイベントの一つに、魔女化したクラウスの双子の妹を主人公の光魔法で救う話があった。特定の条件を満たさずに戦うと殺める結果になってしまい、クラウスフラグが完全にへし折られることになる。その条件が煩雑だったために詰んでしまう初見のプレイヤーが多かった。現に私も攻略サイトで条件を満たす方法を知るまで詰んでいた口だ。
ちなみにゲーム本編のクラウスの妹は学院に通わず家で療養しており、魔女化から救い出したあとも物語終盤まで寝た切りになる。クラウスルートのエンディングで最後にちらっと登場するが、魔女化した姿しか知らないために誰? 状態になったプレイヤーも少なくない。私だ。
「私からも改めて礼を言わせてくれ。妹を救ってくれて本当にありがとう。今後は君への態度を改めて接していくつもりだ」
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アイナは満面の笑みを浮かべた。
く、クラウスの妹ってアイナだったのね……全然似てないじゃん。
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