【連載版】婚約破棄されたラスボス悪役令嬢に転生した私は死の運命から逃れるためにトゥルーエンドを目指します

朝日はじめ

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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました

31 定番化

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 王立魔法学院は貴族の子息子女が通う由緒正しい教育機関だ。一般科目の授業も受けられるが、主に教わるのは実戦的な魔法の扱い方だ。その理由は、大昔からセレスティア王国と魔王軍は争い続けており、軍備の拡充を優先した政策を取っているからだ。魔法の座学や実践、郊外で魔物相手の実戦訓練など、授業には命の危険もある。特に今年は聖女が出現したことで国内は慌ただしくなっている。

 聖女の出現。それは魔王復活の兆しと同義だからだ。学院は魔王復活に備え、今年からはさらに厳しい訓練を生徒に課していくだろう。実は既に魔王は復活していて、しかも生徒に紛れて入学しているとは学院側も想定していないはずだ。

 私は魔王の力を得た上で裏ボスを倒し、裏ダンジョンのモンスターも殲滅した。もはやこの世界で私の敵足り得る存在はごく僅かだ。今更学院で学ぶことは何もないが、トゥルーエンドを目指すためにはクリスタが攻略対象たちの相互好感度を上げなければならない。その手助けをするには近くにいたほうが何かと動きやすい。

 そんなまどろっこしいことをせずとも成長前のクリスタたちを屠ろうと思えば実行は容易い。が、そんなことをすれば王国は大変なことになるし、その影響は他国にも波及して世界が大混乱に陥ってしまう。もちろんそんな事態は避けたい。というかクリスタたちを倒しちゃおうとか、そんな物騒なことを考えてしまうのは魔王の記憶が私の意識に作用している証拠だ。意識を強く持たないと。

 人格は前世の私がベースになっているが、時々リディアと魔王の記憶が私の言動に影響を及ぼしてくる。そのせいで言動と内心が違うなんて事態が幾度も発生しているのだ。

 もしかしたら私はもう前世の自分とは違う存在になっているのかもしれない。そう考えると背筋が凍る思いだ。気をしっかり保たないとそのまま引っ張られてしまうかもしれない。トゥルーエンドへ至るためにも油断はできない。

 なんてことを考えているうちに始業式が終わっていた。新入生代表がルーク様だったことしか覚えていない。早速おかしくなり始めているのだろうか。深く考えると泥沼にはまりそうだから、先ずは目の前のことに集中しなきゃ。

 始業式のあとは教室で学院についての簡単な説明を受けた。それが終わると早速授業が始まった。

 初めは座学だった。魔法には火、水、風、土、金、氷、雷、木の基本属性に加え、光と闇を含めた十種類の属性がある。属性は一人に一つ宿るのが基本であり、大抵の人間は基本属性のどれかを宿すことになるが、私のように稀少な闇属性を宿す者もいる。

 光属性は聖女にのみ宿る。だからこそクリスタは例外的な扱いを受けているのだ。子供の頃に習うような内容だが、これから実戦で魔法を使っていく上で基本のおさらいをするのは正しい。前世の世界で例えるなら、いきなり銃を渡されて撃てと言われるより事前に銃の説明があったほうがわかりやすい、と言った感じだろうか。

 教室は自由席だが、大抵は皆それぞれ定位置を決めて座ることが多いようだ。私は最前列の中央を陣取ったが、両隣にクリスタとアイナが付いて来た。女子同士だから気兼ねすることはないけど、二人ともやけに距離が近い。アイナに至っては腕に抱き着いてくる始末だ。

 こうして午前中の授業が終わった。午後からは早速実践だ。学生の魔法がどの程度のレベルなのかしっかり見定めておかないと。学院に入学する前に自分が規格外と学べたのは大きな収穫だった。手加減を間違えていたらと思うとぞっとする。

「起きなさい、アイナ。お昼ですわよ」

 私は机に突っ伏して眠っているアイナを揺らした。初日から居眠りとは豪胆だ。今後の成績が心配になる。対照的にクリスタは真面目に授業を受けていた。確かゲーム本編のクリスタは平民では学べない知識の数々を聞かされてうきうきしていたはずだ。表情を見る限りその認識で間違いなさそうだ。

「すまない。妹が苦労をかける」

 クラウスが困った顔をしながら声をかけてきた。

「気にしていませんわ。アイナの成績が心配ではありますけど」
「これでも君と一緒に学院で学びたいと言って猛勉強をしていたんだ。まだ文字の読み書きが拙くてね。気にかけてくれると助かる」

 アイナは私が呪いを解くまで目が見えていなかった。話はできても読み書きは人並み以下だ。そこに気が回らなかった浅慮を私は恥じた。

「もちろん。アイナは私のお友達ですもの」

 私が微笑みかけると、クラウスはほんのりと頬を赤くした。女子の笑顔を見ただけでこの反応とは意外に初心だ。貴族なんだから相手は選び放題だろうに。

「と、ところで、昼食はどうするつもりだ? よかったら私とアイナの三人で――」
「クラウス様、妹を出しにするなんて卑劣だとは思いませんか?」
「ま、また君か、オベール嬢……別に卑劣だとは思わないのだが……」
「見損なったよ、クラウス。友人である僕を差し置いて三人だけで食事を摂ろうとするなんて」
「こ、こちらからお誘いするのは失礼かと思いまして……」
「お兄様! ここで負けてはいけません! 諦めなかった者にだけ勝利がもたらされるのです!」
「目が覚めていたならもっと早く言ってくれ、アイナ」

 三人に捕まったクラウスはたじろいでいる。これからこのやり取りが定番化していきそうな気がする。本編ゲームだとこんなシーンなかったんだけどね。

「まさか俺だけ除け者ってわけじゃねえよな?」

 ディランが訊ねてきた。私は笑顔でこう言った。

「あなたはお断りですわ」
「何でだよ!?」

 ディランのツッコミが教室に響き渡った。これも定番化しそうだ。
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