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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
36 ゴブリンの群れ
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「気を付けるのはあなたのほうでしたわね」
「す、すみません。言っている傍から……」
「構いませんわ。転んで怪我をしたら大変ですし、手を繋ぎましょうか?」
「り、リディア様と手を繋ぐなんて恐れ多いです!」
「リディアお姉様! 私も転びそうで恐いです! 是非手を繋いでくださいませ!」
「……冗談のつもりでしたのに」
ここは王都の外だ。いつどこからモンスターが襲ってくるかわからない状況で手を塞ぐのは自殺行為だ。私はそれをきちんと説明した上で二人を納得させ、歩を再開した。
「背中は任せたよ、リディア」
「モンスターは俺が近寄らせねえ。安心して付いて来いよ、リディア」
「リディア、妹を頼む」
前衛を担当している男三人がこちらを振り返った。そういうことは私じゃなくてクリスタに言ってほしい。特にルーク様。
しばらく歩いていると、ゴブリンの群れに遭遇した。目に付く範囲には六匹しかいないが、感知魔法に隠れている十数匹のゴブリンの反応があった。ゴブリンのくせに統制が取れている。優秀なリーダーがいるようだ。
「僕たちが引き付ける! 君たちは後方支援を頼む!」
ルーク様の指示でディランとクラウスは武器を構えた。ルーク様は細剣、ディランは長剣、クラウスは双剣と、それぞれ異なった得物を装備している。
「リディア様! お下がりください!」
「リディアお姉様の手を借りるまでもありませんわ!」
クリスタは杖を手に持ち、アイナは魔導書を開いた。アイナの武器には魔法の威力を底上げする効果がある。そういえばゲーム本編で魔女化していたときも魔導書を使っていた。
ゴブリン程度が相手なら私の出る幕はなさそうだが、私は念のため腰に差しているお飾りの剣を抜いた。
「ディラン、クラウス! 三人に敵を近付かせるな!」
「了解だ!」
「承知致しました!」
前衛の三人は迫り来るゴブリンを一太刀で斬り伏せた。一撃とはさすがだ。日々鍛錬を怠っていない証拠だ。
「私も負けていられません!」
「クリスタに同じくですわ!」
クリスタは杖から光の球を放ち、アイナは水の矢でゴブリンを貫いた。こちらも頼りになる。これなら私の手助けは必要なさそうだ。
ところが、樹上に隠れているゴブリンに動きがあった。
全員でクリスタを狙って弓を構えたのだ。
(ダークチェイン)
私は胸の内で魔法を唱えた。無声での魔法の使用は威力が格段に落ちるが、ゴブリン程度が相手なら十分だ。
現出した漆黒の鎖がゴブリンの弓兵の首に巻き付く。私がぐっと拳を握ると、それを合図に鎖がゴブリンを絞め殺した。そのあいだにみんなも目に付く範囲にいたゴブリンを殲滅していた。
「みんな、よくやってくれた」
「これくらいどうってことねえよ」
「労いの言葉、痛み入ります」
ルーク様の言葉にディランとクラウスが異なる反応を示した。
ゲームをプレイしていたときから思ってたけど、家柄的にルーク様とクラウスが親しい間柄なのは想像が付く。そこに元孤児で子爵家の養子ディランが対等に溶け込んでいるのがすごい。普通にタメ語だし。
「リディア様、お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫よ、クリスタ。あなたのほうは?」
「この通り何ともありません。リディア様に近付く敵はすべて私が倒します。ご安心してください」
「私もリディア様をお守り致しますわ!」
クリスタとアイナが横から引っ付いてきた。慕ってくれるのは嬉しいけど、くっつかれると暑苦しい。
「お、おい、何だこれ! どうなってやがる!?」
何かディランが騒いでるなー、と思ったら、ディランは私がこっそり仕留めたゴブリンの死体に気付いたらしい。
「首を鎖で絞められたような跡がある。一体誰がこんなことを……」
「ルーク殿下、モンスター以外の危険があるかもしれません。状況次第で撤退も止む無しかと」
「まだ死体は新しいぜ。近くでこんなことが起きてたのにまったく気付かなかった。やった奴はとんでもない実力者だぞ」
男三人は警戒心を露わに身構えた。バレないようにやったはずなのに気付くなんて、意外とディランは目敏い。こうなると黙っているほうが面倒なことになりそうだ。
「クリスタを弓で狙っていたので私が始末しましたわ」
私が白状すると、男三人は目を丸くした。
「この数を誰にも気付かれずに一瞬で……?」
「魔法の腕も立つのかよ。つくづく化け物だな」
「君のおかげで助かった。この数に弓を射られていたら捌き切れなかった」
「これくらいどうってことありませんわ」
私にとってゴブリン退治は蟻を踏むようなものだ。
「リディア様……私を守るために……」
クリスタは涙で目をうるうるさせた。そんな反応をされるほどのことはしてないんだけどなー……。
「さすがリディアお姉様ですわ! クリスタばかりズルいので次は私を守ってくださいな!」
「もちろん。あなたにも危険が迫っていたら全力で守りますわ」
「本当ですか? きゃあ! 虫が飛んでいますわ! お守りくださいリディアお姉様!」
ここぞとばかりに抱き着いてくるアイナ。視力が回復して元気になったの何よりだけど、クラウスが気疲れする理由が少しだけわかった。
「……妹がすまない」
「これくらい可愛いものですわ。この調子で行きますわよ」
私が催促すると、五人は元気に返事をした。
子供たちの引率をする先生のような気分だ。実際中身はそれくらい年が離れてるしね
「す、すみません。言っている傍から……」
「構いませんわ。転んで怪我をしたら大変ですし、手を繋ぎましょうか?」
「り、リディア様と手を繋ぐなんて恐れ多いです!」
「リディアお姉様! 私も転びそうで恐いです! 是非手を繋いでくださいませ!」
「……冗談のつもりでしたのに」
ここは王都の外だ。いつどこからモンスターが襲ってくるかわからない状況で手を塞ぐのは自殺行為だ。私はそれをきちんと説明した上で二人を納得させ、歩を再開した。
「背中は任せたよ、リディア」
「モンスターは俺が近寄らせねえ。安心して付いて来いよ、リディア」
「リディア、妹を頼む」
前衛を担当している男三人がこちらを振り返った。そういうことは私じゃなくてクリスタに言ってほしい。特にルーク様。
しばらく歩いていると、ゴブリンの群れに遭遇した。目に付く範囲には六匹しかいないが、感知魔法に隠れている十数匹のゴブリンの反応があった。ゴブリンのくせに統制が取れている。優秀なリーダーがいるようだ。
「僕たちが引き付ける! 君たちは後方支援を頼む!」
ルーク様の指示でディランとクラウスは武器を構えた。ルーク様は細剣、ディランは長剣、クラウスは双剣と、それぞれ異なった得物を装備している。
「リディア様! お下がりください!」
「リディアお姉様の手を借りるまでもありませんわ!」
クリスタは杖を手に持ち、アイナは魔導書を開いた。アイナの武器には魔法の威力を底上げする効果がある。そういえばゲーム本編で魔女化していたときも魔導書を使っていた。
ゴブリン程度が相手なら私の出る幕はなさそうだが、私は念のため腰に差しているお飾りの剣を抜いた。
「ディラン、クラウス! 三人に敵を近付かせるな!」
「了解だ!」
「承知致しました!」
前衛の三人は迫り来るゴブリンを一太刀で斬り伏せた。一撃とはさすがだ。日々鍛錬を怠っていない証拠だ。
「私も負けていられません!」
「クリスタに同じくですわ!」
クリスタは杖から光の球を放ち、アイナは水の矢でゴブリンを貫いた。こちらも頼りになる。これなら私の手助けは必要なさそうだ。
ところが、樹上に隠れているゴブリンに動きがあった。
全員でクリスタを狙って弓を構えたのだ。
(ダークチェイン)
私は胸の内で魔法を唱えた。無声での魔法の使用は威力が格段に落ちるが、ゴブリン程度が相手なら十分だ。
現出した漆黒の鎖がゴブリンの弓兵の首に巻き付く。私がぐっと拳を握ると、それを合図に鎖がゴブリンを絞め殺した。そのあいだにみんなも目に付く範囲にいたゴブリンを殲滅していた。
「みんな、よくやってくれた」
「これくらいどうってことねえよ」
「労いの言葉、痛み入ります」
ルーク様の言葉にディランとクラウスが異なる反応を示した。
ゲームをプレイしていたときから思ってたけど、家柄的にルーク様とクラウスが親しい間柄なのは想像が付く。そこに元孤児で子爵家の養子ディランが対等に溶け込んでいるのがすごい。普通にタメ語だし。
「リディア様、お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫よ、クリスタ。あなたのほうは?」
「この通り何ともありません。リディア様に近付く敵はすべて私が倒します。ご安心してください」
「私もリディア様をお守り致しますわ!」
クリスタとアイナが横から引っ付いてきた。慕ってくれるのは嬉しいけど、くっつかれると暑苦しい。
「お、おい、何だこれ! どうなってやがる!?」
何かディランが騒いでるなー、と思ったら、ディランは私がこっそり仕留めたゴブリンの死体に気付いたらしい。
「首を鎖で絞められたような跡がある。一体誰がこんなことを……」
「ルーク殿下、モンスター以外の危険があるかもしれません。状況次第で撤退も止む無しかと」
「まだ死体は新しいぜ。近くでこんなことが起きてたのにまったく気付かなかった。やった奴はとんでもない実力者だぞ」
男三人は警戒心を露わに身構えた。バレないようにやったはずなのに気付くなんて、意外とディランは目敏い。こうなると黙っているほうが面倒なことになりそうだ。
「クリスタを弓で狙っていたので私が始末しましたわ」
私が白状すると、男三人は目を丸くした。
「この数を誰にも気付かれずに一瞬で……?」
「魔法の腕も立つのかよ。つくづく化け物だな」
「君のおかげで助かった。この数に弓を射られていたら捌き切れなかった」
「これくらいどうってことありませんわ」
私にとってゴブリン退治は蟻を踏むようなものだ。
「リディア様……私を守るために……」
クリスタは涙で目をうるうるさせた。そんな反応をされるほどのことはしてないんだけどなー……。
「さすがリディアお姉様ですわ! クリスタばかりズルいので次は私を守ってくださいな!」
「もちろん。あなたにも危険が迫っていたら全力で守りますわ」
「本当ですか? きゃあ! 虫が飛んでいますわ! お守りくださいリディアお姉様!」
ここぞとばかりに抱き着いてくるアイナ。視力が回復して元気になったの何よりだけど、クラウスが気疲れする理由が少しだけわかった。
「……妹がすまない」
「これくらい可愛いものですわ。この調子で行きますわよ」
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