【連載版】婚約破棄されたラスボス悪役令嬢に転生した私は死の運命から逃れるためにトゥルーエンドを目指します

朝日はじめ

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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました

37 ヒドラ出現

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 それから私たちは森の奥にある湖を目指した。そこには学院側が用意した魔石が設置されている。それを持ち帰ることで訓練終了となる。危険を判断して途中で引き返してもペナルティはない。持ち帰ればその分評価される。実践的でいい授業だ。

 そうこうしている内に、私たちは湖の畔に到着した。

「これで魔石は回収済み、と。みんなお疲れ様。ここまでは順調だったね」
「拍子抜けするくらいにな。もっと張り合いのあるモンスターと戦いたかったぜ」
「この森は我々のような学生や新人冒険者が利用する初級エリアだ。初実戦としては申し分ない場所と言える」

 男三人は周辺にモンスターがいないのを確認してから緊張を解した。

 ここに来るまでの道中、ゴブリン以外のモンスターにも襲われたが、男三人は前衛としての役目を立派に果たした。後衛の私たちのやることがなかったくらいだ。危険はないに越したことはないが、クリスタとアイナが実戦経験をあまり積めなかったのは痛手だ。みんなに危険が及ばないように保護者の気持ちで立ち回っていたせいでモンスターをけしかけるのも忘れていた。このまま好感度アップのイベントが消滅するのはまずい。

「リディア様、汗をお拭き致します」
「あなたは私の侍女ではないでしょう、クリスタ」
「私もお拭き致します!」
「あなたは公爵家の娘でしょう。自重なさい」

 クリスタとアイナは私にべったりするようになった。クリスタにはルーク様と仲良くしてほしいところだけど、

「君は平民と言っても女神様の祝福を受けた聖女だ。相応しい振る舞いを心掛けるべきではないのかな?」
「リディア様は私を友達と言ってくださいました。私が聖女であろうと友達を案じるのはおかしなことではありません」
「そこまでしなくてもいいんじゃないかって言ってるつもりなんだけどね」
「そこまでとはどこまでのことでしょうか?」
「そんなこと言わなくてもわかるんじゃないかな?」
「わかりません。私平民で学がありませんので」

 クリスタはぷいっと顔を背けた。ルーク様は顔をぴくぴくと引き攣らせている。

 おかしいな。ゲーム本編だと湖に落ちそうになったクリスタをルーク様が助けようとして一緒に落ちて、水浸しになったお互いの姿を見て笑い合う微笑ましいシーンがあったのに。

(どうにかして二人には仲良くしてもらわないと)

 放っておけば関係が悪化していく一方だ。何か手を打たなければ、と私が考えていたときだった。感知魔法に反応があった。

「何か来ますわね」

 私が口にすると、五人は怪訝そうな顔をした。

「何かって、一体何の話かな?」
「近くにモンスターは見当たらねえぞ?」
「私も近くに敵はいないと思うが……」
「私の感知魔法にも反応がありません。でもリディア様が言うなら信じます」
「私も信じますわ! リディアお姉様!」
「ありがとう、二人とも。皆さん武器を構えて」

 敵は湖の中を移動している。明らかにこちらに狙いを定めている動きだ。しかもかなり大きい。感知魔法では大凡の姿しか判別できない。集中すればその限りではないが、代償に激しい頭痛を伴う。どの道来るとわかっているならそこまでする必要はない。

「! 私の感知魔法にも反応がありました! すぐそこまで来ています!」

 クリスタが叫んだと同時だった。湖から九つの首を持った巨大な蛇が飛び出てきた。

「あ、あり得ない! 何でこんなところにヒドラがいるんだ!?」
「熟練の騎士団や冒険者が徒党を組んで挑むモンスターだぞ!?」
「生息地は魔族領の奥のはず! 何故こんなところに!?」
「ヒドラは猛毒を持っています! 皆さん油断しないでください!」
「まあ! これがヒドラですの? 大きいモンスターは迫力がありますわね」

 五人は各々に異なる反応を示した。

 私ははてと首を捻った。ゲーム本編のこのタイミングで現れるモンスターはポイズンフロッグのはずだ。好感度が一番高い攻略対象の誰かが毒攻撃を受けて苦しむことになり、その際にクリスタの力の一部が目覚め、治癒魔法で助けるといった流れだった。

(また物語の順序がおかしくなってるのかな?)

 ヒドラが王都近郊に出現するようになるのは終盤になってからだ。こんな序盤に現れるなんて明らかにおかしい。

 私は五人をちらりと見た。今の五人ではヒドラを倒すことはできない。私なら敵ではないが、だからと言って全部私任せというわけにはいかない。

 クリスタたちにはこれから多くの試練が待ち受けている。それらを乗り越えていくことで物語は進行していくのだ。トゥルーエンドに至るためにも、クリスタたちにはある程度力を付けてもらわなければならない。

「ダークプリズン」

 私はヒドラを漆黒の牢獄の中に閉じ込めた。やろうと思えばこのまま圧殺することもできるが、それでは意味がない。

「これは闇魔法! 君がやったのか!?」
「ヒドラを完全封殺かよ!? あんたマジで何者だよ!?」
「一体どれほどの修練を積んできたんだ、君は……」
「さすがはリディア様。実に鮮やかな手並みです」
「リディアお姉様なのだから当然ですわ!」

 みんな反応は様々だ。あまり強いのがバレると困るから弁明しておこう。

「悠長なことを言っている場合ではありません。今の魔法で魔力をほとんど使い果たしてしまいましたわ」

 本当はあと百回使えるとは口が裂けても言えない。

「な、なるほど。確かにヒドラを拘束するほどの魔法なら大量の魔力を使っても不思議ではないね」
「いや俺の魔力を全部使っても同じことはできねえぞ……?」
「何にしても助かった。君のおかげで命拾いした」
「リディア様、魔力枯渇は意識を朦朧とさせます。歩くのが辛いのであれば肩をお貸します」
「私もお支え致しますわ!」

 格上の脅威から解放された五人は緊張を解いているようだが、

「さあ、今の内に倒す算段を考えますわよ」

 私の発言に五人は「えっ?」と声を揃えた。
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