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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
45 思想の違い
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「あなたは何が目的で学院に潜入しているのかしら?」
「魔王様の力が封印されている場所を探し当てるためだ! 城の地下にある遺跡に魔王様の魂が封印されているのは知っている! だが魔王様の力は別の場所に封印されている! 我々は先代の聖女に騙されていたのだ! どちらの封印も破壊しなければ魔王様を復活させることはできない!」
「そんなあっさり話してしまうなんて、随分とお喋りなお口ですわね」
「魔族なら誰もが知っていることだろう!」
イグナシオ会長は私が魔族だと決め付けている。これはもう魔族じゃないと言い張っても聞き入れてくれそうにない。
「私は反魔王派ではありませんわ」
私はイグナシオ会長の拘束を解いた。解放されたイグナシオ会長は唖然としていたが、すぐに私を睨み付けてきた。
「私を見逃すというのか?」
「敵意はないと示しただけですわ。あとはあなたの出方次第かしら」
おそらく学院に入り込んでいる魔族はイグナシオ会長だけではない。今のところ主立った活動はしていないようだし、下手に刺激しなければすぐに動き出すこともないはずだ。全員始末するのが手っ取り早いんだろうけど、魔王の記憶の影響なのかとてもその気にはなれなかった。
何にしても、初めて魔族と遭遇したのだ。ここは一つ話をしてみよう。
「私が魔族なのは認めます。けど反魔王派でも魔王派でもありませんわ」
「……なるほど。君ははぐれ魔族なのだな」
「理解が早くて助かりますわ」
いやはぐれ魔族とは何ぞや? といった感じだけど、否定すると話が拗れそうだから合わせておこう。
「早合点で君に襲い掛かったのは謝罪しよう。しかしこれほどの力を持った魔族がまだ残っていたとは……まさかとは思うが魔王様にゆかりがあるのではないか?」
当たらずとも遠からずと言ったところか。さすが生徒会長。勘が鋭い。
「そんなことはどうでもいいですわ。私は故あって学院に入学しました。私の邪魔をしなければあなたたちの邪魔もしませんわ」
「つまりどちらの派閥にも与するつもりはないと?」
「ええ。大体私は今の魔族の事情をよく知りません。教えていただけると助かりますわ」
「わかった。君の命を狙った詫びだ。知っていることは何でも話そう」
「聞き分けが良くて助かりますわ。反魔王派とは何ですの?」
「魔王様の治世に異を唱える者たちだ。魔王様は死後転生を繰り返し、再び我らの元に降臨する。しかし復活までの期間は一定ではない。短いときは数十年、永いときは百年以上も姿をお見せにならない。だが先代の聖女は卑劣にも魔王様の転生を阻止するために魔王様の魂と力を切り分けて封印したのだ! それから数百年も経ってしまった!」
イグナシオ会長は怒りを露わにした。
「そのせいで反魔王派なんて勢力ができた、ということかしら?」
「その通りだ。魔王様不在の間は民衆に選ばれた代行が魔族を統べるのだが、この数百年で権力は腐っていき、一部の者だけが権力を握るようになった。そして反魔王派の筆頭、当代の代行はいつ復活するかわからない魔王様よりも今を生きる自分たちが魔族を導くべきだと主張している。魔王様は古より我らを導いてくださった神にも等しいお方だぞ!? 万死に値する無礼な思想だ!」
イグナシオ会長は語気を荒げた。
幾度となく復活を遂げる魔王を信奉する魔王派と、その魔王の手から離れるべきだと主張する反魔王派。転生を繰り返す魔王を神のように崇めるのも、いつ復活するかわからない魔王に反意を抱くのも、どちらの気持ちもわからなくはない。
「それだけではない。先日魔族領に現れた謎の竜に軍を半壊させられたのだ。その戦いで魔王派の重鎮だった将軍が何人も命を落とした。それを好機とばかりに奴らは魔王城を占領し、新しい政権を樹立すると宣言したのだ! 我々は急ぎ魔王様の封印を解くべく行動を起こそうとしたが、そこに得体の知れない闇属性の人間、君が現われたのだ」
そういえばシンの奴魔王軍と戦ったとか言ってた! 本当に余計なことばかりする。あとで締め上げてやるとして……そんな事情もあってピリピリしていたところに闇属性の私が現われたから無茶な行動に出たというわけだ。
「魔族も一枚岩というわけではないようですわね」
どの世界も、いつの時代も、権力争いは付き物というわけだ。巻き込まれる民衆は堪ったものではない。
「事情はわかりましたわ。これからあなたはどうするつもりなのかしら?」
「我々は引き続き魔王様の封印を解く手掛かりを探すだけだ。むしろ君がこれから何をするつもりなのか訊きたい」
私は黙考した。このまま放っておくと魔族は内紛で弱体化してしまう。国力が低下した状態では将来王国と和平を結ぶときに影響が出る。例えば魔王軍が弱っている今なら和平なんかしないで滅ぼせばいい、なんてことを王国が考えるかもしれない。今までおとなしくしていた魔王の記憶が今の事態を看過できないと訴えてきているのを強く感じる。
イグナシオ会長が私を魔族だと見抜いた以上、遅かれ早かれ私の復活は知れ渡ることになる。そうなれば魔族は良くも悪くも大混乱に陥る。その前に手を打っておく必要がある。
「仕方ありませんわね。その反魔王派とやら、私が何とかして差し上げますわ」
「? 一体何をしようと言うんだ?」
「少しお待ちなさい」
私は召喚魔法でシンを呼び付けた。
「むっ? お前から我を呼ぶとは珍しいな」
「あなた長距離の転移魔法は使えますわよね?」
「無論だ。お前も使えるのではないか?」
「私は国境まで飛ぶのがやっとですわ」
「いやそれも十分すごいのだが……」
イグナシオ会長はこめかみに冷や汗をかいた。
「魔王様の力が封印されている場所を探し当てるためだ! 城の地下にある遺跡に魔王様の魂が封印されているのは知っている! だが魔王様の力は別の場所に封印されている! 我々は先代の聖女に騙されていたのだ! どちらの封印も破壊しなければ魔王様を復活させることはできない!」
「そんなあっさり話してしまうなんて、随分とお喋りなお口ですわね」
「魔族なら誰もが知っていることだろう!」
イグナシオ会長は私が魔族だと決め付けている。これはもう魔族じゃないと言い張っても聞き入れてくれそうにない。
「私は反魔王派ではありませんわ」
私はイグナシオ会長の拘束を解いた。解放されたイグナシオ会長は唖然としていたが、すぐに私を睨み付けてきた。
「私を見逃すというのか?」
「敵意はないと示しただけですわ。あとはあなたの出方次第かしら」
おそらく学院に入り込んでいる魔族はイグナシオ会長だけではない。今のところ主立った活動はしていないようだし、下手に刺激しなければすぐに動き出すこともないはずだ。全員始末するのが手っ取り早いんだろうけど、魔王の記憶の影響なのかとてもその気にはなれなかった。
何にしても、初めて魔族と遭遇したのだ。ここは一つ話をしてみよう。
「私が魔族なのは認めます。けど反魔王派でも魔王派でもありませんわ」
「……なるほど。君ははぐれ魔族なのだな」
「理解が早くて助かりますわ」
いやはぐれ魔族とは何ぞや? といった感じだけど、否定すると話が拗れそうだから合わせておこう。
「早合点で君に襲い掛かったのは謝罪しよう。しかしこれほどの力を持った魔族がまだ残っていたとは……まさかとは思うが魔王様にゆかりがあるのではないか?」
当たらずとも遠からずと言ったところか。さすが生徒会長。勘が鋭い。
「そんなことはどうでもいいですわ。私は故あって学院に入学しました。私の邪魔をしなければあなたたちの邪魔もしませんわ」
「つまりどちらの派閥にも与するつもりはないと?」
「ええ。大体私は今の魔族の事情をよく知りません。教えていただけると助かりますわ」
「わかった。君の命を狙った詫びだ。知っていることは何でも話そう」
「聞き分けが良くて助かりますわ。反魔王派とは何ですの?」
「魔王様の治世に異を唱える者たちだ。魔王様は死後転生を繰り返し、再び我らの元に降臨する。しかし復活までの期間は一定ではない。短いときは数十年、永いときは百年以上も姿をお見せにならない。だが先代の聖女は卑劣にも魔王様の転生を阻止するために魔王様の魂と力を切り分けて封印したのだ! それから数百年も経ってしまった!」
イグナシオ会長は怒りを露わにした。
「そのせいで反魔王派なんて勢力ができた、ということかしら?」
「その通りだ。魔王様不在の間は民衆に選ばれた代行が魔族を統べるのだが、この数百年で権力は腐っていき、一部の者だけが権力を握るようになった。そして反魔王派の筆頭、当代の代行はいつ復活するかわからない魔王様よりも今を生きる自分たちが魔族を導くべきだと主張している。魔王様は古より我らを導いてくださった神にも等しいお方だぞ!? 万死に値する無礼な思想だ!」
イグナシオ会長は語気を荒げた。
幾度となく復活を遂げる魔王を信奉する魔王派と、その魔王の手から離れるべきだと主張する反魔王派。転生を繰り返す魔王を神のように崇めるのも、いつ復活するかわからない魔王に反意を抱くのも、どちらの気持ちもわからなくはない。
「それだけではない。先日魔族領に現れた謎の竜に軍を半壊させられたのだ。その戦いで魔王派の重鎮だった将軍が何人も命を落とした。それを好機とばかりに奴らは魔王城を占領し、新しい政権を樹立すると宣言したのだ! 我々は急ぎ魔王様の封印を解くべく行動を起こそうとしたが、そこに得体の知れない闇属性の人間、君が現われたのだ」
そういえばシンの奴魔王軍と戦ったとか言ってた! 本当に余計なことばかりする。あとで締め上げてやるとして……そんな事情もあってピリピリしていたところに闇属性の私が現われたから無茶な行動に出たというわけだ。
「魔族も一枚岩というわけではないようですわね」
どの世界も、いつの時代も、権力争いは付き物というわけだ。巻き込まれる民衆は堪ったものではない。
「事情はわかりましたわ。これからあなたはどうするつもりなのかしら?」
「我々は引き続き魔王様の封印を解く手掛かりを探すだけだ。むしろ君がこれから何をするつもりなのか訊きたい」
私は黙考した。このまま放っておくと魔族は内紛で弱体化してしまう。国力が低下した状態では将来王国と和平を結ぶときに影響が出る。例えば魔王軍が弱っている今なら和平なんかしないで滅ぼせばいい、なんてことを王国が考えるかもしれない。今までおとなしくしていた魔王の記憶が今の事態を看過できないと訴えてきているのを強く感じる。
イグナシオ会長が私を魔族だと見抜いた以上、遅かれ早かれ私の復活は知れ渡ることになる。そうなれば魔族は良くも悪くも大混乱に陥る。その前に手を打っておく必要がある。
「仕方ありませんわね。その反魔王派とやら、私が何とかして差し上げますわ」
「? 一体何をしようと言うんだ?」
「少しお待ちなさい」
私は召喚魔法でシンを呼び付けた。
「むっ? お前から我を呼ぶとは珍しいな」
「あなた長距離の転移魔法は使えますわよね?」
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