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第1章 乙女ゲーの世界に転生しました
44 襲撃者
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学院に入学してから早くも一ヵ月が経過した。強化訓練が始まって生徒たちが息も絶え絶えの中、クリスタとアイナは休日も攻略対象三人を連れ回して郊外でモンスターと戦っている。
行動を共にする機会が増えているなら仲が進展するきっかけもあるはずだ。私がいては鍛錬にならないので今は五人の成長を静かに見守っている。私がいるとクリストとルーク様は険悪になるようだし、引き続き頑張ってもらいたいところだ。
休日の私は冒険者として依頼を引き受けている。いつも通り雑用や採集など低ランクのものだ。今日も採集のために郊外に出ているところだ。
(この依頼が済んだら孤児院に行こうかな)
週末は可能な限り孤児院に顔を出すようにしている。ベリーブルーベリーの収益は安定しているようでお金に困っている様子はない。番犬代わりに置いてきたヘルハウンド二匹も子供たちの良い遊び相手になっている。何事もないようで一安心だ。
(あった。依頼書で見た通りだ)
私は目当ての薬草を発見し、手早く採集を終えた。
あとは帰途に就くだけだが、
「隠れていないで出て来なさい」
人が多い場所で広範囲の感知魔法を展開すると神経を消耗する。そのため郊外に出るまで範囲を狭めていたが、ここに来て範囲を元通しにした際にようやく誰かに尾行されているのがわかった。
一定の距離を保っている辺り、こちらが感知魔法を使えるのを警戒していたようだが、私の範囲外だと見積もっている距離が甘い。
「何が目的かは知りませんけど、お話くらいなら聞いて差し上げますわよ?」
返事はない。王都に戻る前に面倒事は片付けたいところだ。私は手始めにダークチェインで相手を拘束しようとしたが、急速に接近してくる何かに気付いた。
木々を薙ぎ倒しながらやってきたのはミノタウロスだ。ヒドラには劣るが、王都周辺の初級エリアに現れるようなモンスターではない。
「邪魔よ。デスライトニング」
黒雷がミノタウロスを穿ち、一瞬で消し炭に変えた。
「君が闇属性なのは知っていたけど、まさか高位の魔法まで使えるとは思わなかったよ」
木陰から現れたのはイグナシオ会長だった。休日なのに制服姿だ。
「こんなところで奇遇ですわね。また性懲りもなく勧誘に来たのかしら?」
「せっかくの休日にそんな野暮なことはしないさ」
「あら、お次はデートのお誘いかしら?」
「残念だけど、私の用件はそんな浮ついた話ではないんだ」
イグナシオ会長は全身から魔力を放出し、頭から一本角を生やした。
「驚きましたわ。まさか会長が魔族だったなんて」
とりあえず余裕をかましてみたけど、会長魔族だったんだ!? ゲーム本編でリディアと同じ生徒会のメンバーだったという印象しかない。ゲーム本編のクリスタ視点だと魔王側の描写がほとんどないからその辺の事情がよくわからないんだけど!
「惚けるな。あのノームは私の正体に勘付いているようだったぞ」
あー、何か含みのあるようなことを言ってたのはそれだったんだ。あいつ私に何の説明もしてないし。あとで拳骨しよう。
「ミノタウロスはあなたが?」
「眷属召喚で呼び寄せた。手駒の中では最強だったが、まさか全く相手にならないとはな」
ミノタウロスは中盤の終わり頃に出現するモンスターだ。それを従えているとなると、イグナシオ会長は今のクリスタたちより遥かに格上だ。
「先ほどの強大な闇魔法。とても人間のものとは思えない。しかしもっとも驚くべきは人間とまったく見分けがつかない高度な擬態だ。君も魔族なのだろう? それもかなりの実力者と見た」
「何を言っているのかさっぱりわかりませんわ」
高度な擬態も何も私の体は人間そのもので、そこに魔王の魂が入り込んでいるのだ。外見で見分けるのは不可能に等しい。あと強大な闇魔法とか言ってるけどあれ中位魔法だし、正体に確信が持てないから引っ掛けてきているのかもしれない。だとすればそれほど深刻な事態ではなさそうだ。
「乙女の隠し事を暴こうなんて、良い趣味とは言えませんわね」
「素直に答える気がないなら少し痛い目を見てもらうぞ!」
イグナシオ会長は剣を片手に駆け出した。
「魔法に自信があるようだが、接近戦はそうでもないはず! 無防備に一人で行動したのが間違いだったな!」
「あなた程度が相手ならどうとでもなりますわ。汗をかくのが嫌だからお相手はしませんけど。ダークチェイン」
漆黒の鎖がイグナシオ会長の足を絡め取った。
「この魔法は格上相手には足止めにしかならないぞ! おとなしく――!?」
イグナシオ会長は表情を一変させた。
「ば、バカな!? まったく身動きが取れないだと!? 私は高位魔族だぞ! 私と君にそれほどの力の差があるというのか!?」
「何が目的で私を襲ったのか洗いざらい吐いてもらいますわ」
「お、おのれ! 反魔王派にこんな隠し玉がいたとは!」
「反魔王派?」
私は小首を傾げた。そういえばゲーム本編でそういう存在がいるというのは示唆されていた。クリスタ視点では絡みがないから名前だけ聞いたことがある程度の認識だけど。
「惚けるな! 我々魔王派に貴様のような魔族はいない! 奴らの手の者なのだろう!?」
「なるほど。私をその反魔王派だと勘違いしたから襲った。そういうことですわね?」
「白を切るつもりか!? これほどの強大な魔力! 貴様さて代行の娘か何かだな!? だとすれば納得がいく!」
今度は代行なんて言葉が出てきた。こっちは聞き覚えがないんだけど。
学院に入学してから早くも一ヵ月が経過した。強化訓練が始まって生徒たちが息も絶え絶えの中、クリスタとアイナは休日も攻略対象三人を連れ回して郊外でモンスターと戦っている。
行動を共にする機会が増えているなら仲が進展するきっかけもあるはずだ。私がいては鍛錬にならないので今は五人の成長を静かに見守っている。私がいるとクリストとルーク様は険悪になるようだし、引き続き頑張ってもらいたいところだ。
休日の私は冒険者として依頼を引き受けている。いつも通り雑用や採集など低ランクのものだ。今日も採集のために郊外に出ているところだ。
(この依頼が済んだら孤児院に行こうかな)
週末は可能な限り孤児院に顔を出すようにしている。ベリーブルーベリーの収益は安定しているようでお金に困っている様子はない。番犬代わりに置いてきたヘルハウンド二匹も子供たちの良い遊び相手になっている。何事もないようで一安心だ。
(あった。依頼書で見た通りだ)
私は目当ての薬草を発見し、手早く採集を終えた。
あとは帰途に就くだけだが、
「隠れていないで出て来なさい」
人が多い場所で広範囲の感知魔法を展開すると神経を消耗する。そのため郊外に出るまで範囲を狭めていたが、ここに来て範囲を元通しにした際にようやく誰かに尾行されているのがわかった。
一定の距離を保っている辺り、こちらが感知魔法を使えるのを警戒していたようだが、私の範囲外だと見積もっている距離が甘い。
「何が目的かは知りませんけど、お話くらいなら聞いて差し上げますわよ?」
返事はない。王都に戻る前に面倒事は片付けたいところだ。私は手始めにダークチェインで相手を拘束しようとしたが、急速に接近してくる何かに気付いた。
木々を薙ぎ倒しながらやってきたのはミノタウロスだ。ヒドラには劣るが、王都周辺の初級エリアに現れるようなモンスターではない。
「邪魔よ。デスライトニング」
黒雷がミノタウロスを穿ち、一瞬で消し炭に変えた。
「君が闇属性なのは知っていたけど、まさか高位の魔法まで使えるとは思わなかったよ」
木陰から現れたのはイグナシオ会長だった。休日なのに制服姿だ。
「こんなところで奇遇ですわね。また性懲りもなく勧誘に来たのかしら?」
「せっかくの休日にそんな野暮なことはしないさ」
「あら、お次はデートのお誘いかしら?」
「残念だけど、私の用件はそんな浮ついた話ではないんだ」
イグナシオ会長は全身から魔力を放出し、頭から一本角を生やした。
「驚きましたわ。まさか会長が魔族だったなんて」
とりあえず余裕をかましてみたけど、会長魔族だったんだ!? ゲーム本編でリディアと同じ生徒会のメンバーだったという印象しかない。ゲーム本編のクリスタ視点だと魔王側の描写がほとんどないからその辺の事情がよくわからないんだけど!
「惚けるな。あのノームは私の正体に勘付いているようだったぞ」
あー、何か含みのあるようなことを言ってたのはそれだったんだ。あいつ私に何の説明もしてないし。あとで拳骨しよう。
「ミノタウロスはあなたが?」
「眷属召喚で呼び寄せた。手駒の中では最強だったが、まさか全く相手にならないとはな」
ミノタウロスは中盤の終わり頃に出現するモンスターだ。それを従えているとなると、イグナシオ会長は今のクリスタたちより遥かに格上だ。
「先ほどの強大な闇魔法。とても人間のものとは思えない。しかしもっとも驚くべきは人間とまったく見分けがつかない高度な擬態だ。君も魔族なのだろう? それもかなりの実力者と見た」
「何を言っているのかさっぱりわかりませんわ」
高度な擬態も何も私の体は人間そのもので、そこに魔王の魂が入り込んでいるのだ。外見で見分けるのは不可能に等しい。あと強大な闇魔法とか言ってるけどあれ中位魔法だし、正体に確信が持てないから引っ掛けてきているのかもしれない。だとすればそれほど深刻な事態ではなさそうだ。
「乙女の隠し事を暴こうなんて、良い趣味とは言えませんわね」
「素直に答える気がないなら少し痛い目を見てもらうぞ!」
イグナシオ会長は剣を片手に駆け出した。
「魔法に自信があるようだが、接近戦はそうでもないはず! 無防備に一人で行動したのが間違いだったな!」
「あなた程度が相手ならどうとでもなりますわ。汗をかくのが嫌だからお相手はしませんけど。ダークチェイン」
漆黒の鎖がイグナシオ会長の足を絡め取った。
「この魔法は格上相手には足止めにしかならないぞ! おとなしく――!?」
イグナシオ会長は表情を一変させた。
「ば、バカな!? まったく身動きが取れないだと!? 私は高位魔族だぞ! 私と君にそれほどの力の差があるというのか!?」
「何が目的で私を襲ったのか洗いざらい吐いてもらいますわ」
「お、おのれ! 反魔王派にこんな隠し玉がいたとは!」
「反魔王派?」
私は小首を傾げた。そういえばゲーム本編でそういう存在がいるというのは示唆されていた。クリスタ視点では絡みがないから名前だけ聞いたことがある程度の認識だけど。
「惚けるな! 我々魔王派に貴様のような魔族はいない! 奴らの手の者なのだろう!?」
「なるほど。私をその反魔王派だと勘違いしたから襲った。そういうことですわね?」
「白を切るつもりか!? これほどの強大な魔力! 貴様さて代行の娘か何かだな!? だとすれば納得がいく!」
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