【連載版】婚約破棄されたラスボス悪役令嬢に転生した私は死の運命から逃れるためにトゥルーエンドを目指します

朝日はじめ

文字の大きさ
43 / 56
第1章 乙女ゲーの世界に転生しました

43 相談事

しおりを挟む
「特にいませんわね」

 私の最優先事項はトゥルーエンドを目指すことだ。恋愛にかまけている場合ではない。

「お兄様もお眼鏡に適いませんか?」

 アイナは眉をハの字にした。

 クラウスかー。残念シスコンお兄ちゃんの印象が強くて異性としてどうかと言われると正直微妙だけど、

「魅力的な方だと思いますわ」

 アイナを傷付けないように濁しておこう。

「私のことよりクリスタですわ。ま、まさかあの三人の他に気になる男性がいたりしませんわよね……?」

 攻略対象以外の誰かが気になっているとしたら大変なことになる。物語が完全に私の知らない方向に転がってしまう。

「……今は学院の生活で手一杯なので、恋愛のことはまだ考えられません」

 クリスタは紅茶を口に含んだ。そういえばゲーム本編のクリスタも今くらいの時期はこんな感じだったっけ。急かし過ぎてもよくないよね。

「そういうことなら恋人役の話も却下ですわ。しばらくは私とアイナが言った通りに対応なさい。困ったことがあればすぐ私たちに相談するように」
「は、はい。そのときは頼りにさせていただきます」
「ええ。それにしても残念ですわ。あなたはとても可憐な容姿をしているのに。あのルーク様と釣り合いが取れるほどにです」
「ルーク様ですか? 確かにたまに鬱陶しいけど人気があるみたいですね」

 ちょっと言葉に毒があるなー。ここは一つルーク様の魅力を伝えてみようかな。

「ルーク様は我らが王国の第一王子。いずれは国王になられるお方ですわ。実力と実績も兼ね揃えていて物腰は穏やか。容姿も端麗で私の目から見ても魅力的な方だと思いますわ」

 腹黒合理主義なところに目を瞑れば超優良物件だ、と私が思っていたときだった。

「リディア様はルーク様のことがお好きなのですか!?」
「リディアお姉様はルーク様をお慕いしているのですか!?」

 クリスタとアイナがぐんと距離を詰めてきた。

「な、何故そのような話になるのです? 客観的に好ましいお方だと評しているだけにすぎませんわ」

 ルーク様には何としてでもクリスタとくっついてもらわなければならない。私がルーク様に横恋慕することは絶対にあり得ない。

「私より聖女のあなたのほうがルーク様に相応しいのではないかしら?」

 と、私がルーク様をおすすめしたときのことだ。クリスタは顔を暗くした。

「聖女、ですか……正直、自分が聖女だと言われてもまだ実感が湧いていなくて……」

 クリスタは背もたれに寄り掛かった。

「私が光魔法に目覚めたのはほんの数か月前のことです。それまでは魔法がずっと使えなくて……それでもお母さんと二人で慎ましく暮らしていました。そこにいきなり城の人が来て、あなたは聖女様だ、魔王と戦うためにあなたの力が必要だって言われて、この学院に来ることになったんです」

 私は黙ってクリスタの話に耳を傾けたが、途中ではたと気付いた。

 何かこの話も覚えがあるような……。

「私に選択肢はありませんでした。聖女である以上、その役目を果たさなければならない。それが使命なんだって……ついこの間までただの町娘だった私にそんなこと言われても正直納得しがたいというか……覚悟を決める時間も与えられずにここに連れて来られて、これで本当によかったのかなって思ってるんです」

 クリスタの葛藤はもっともだ。私も同じ立場なら似たようなことを思うに違いない。

 それはそれとして、問題が発生している。

 本来クリスタが聖女としての悩みを打ち明ける相手は好感度が一番高い攻略対象のはずだ。このイベントが発生する時期も早まっている。またしても物語の順序に変化が生じてしまった。

 本音を言えばルーク様に打ち明けてほしかったが、こうしてイベントが発生してしまったのだ。無視はできない。

 クリスタが抱えている葛藤は本物だ。私を信用して話してくれたのに、イベントと好感度がどうと言うのは不誠実だ。

「あなたは聖女になりたくなかった。そう言いたいのかしら?」
「……何で私なのかなって思っています。でも期待されているなら応えたいです。どう期待に応えればいいのかわかりませんけど……」
「皆が期待する聖女様になんてならなくてもいいですわ」

 私はクリスタの手に触れた。

「あなたは、あなたが思い描く聖女を目指せばいいのよ」
「私が思い描く、ですか?」
「ええ。他人に押し付けられたすべての期待に応えるのは不可能ですわ。皆それぞれ思想も理想も異なっているのだから。何より他人に当て嵌められた生き方をしていたら辛くなるだけですわ」

 パワハラ上司の理不尽な期待を押し付けられて仕事を急かされていた、前世の私がそうだったように。

 自分の人生はどこまでいっても自分のものだ。誰よりも自分を大切にしなければ人生は暗く閉ざされてしまう。

 クリスタのように聖女としての運命を定められていたとしても、どう在るかまでは誰にも定めることはできない。

 人に生まれてきた意味はないが、生きていく意味は自分で作り上げることができる。

「だから、なりたい自分におなりなさい」

 私が微笑みかけると、クリスタは一筋の涙を流した。アイナは気を遣ってクリスタの背中を撫でた。

「……ありがとうございます。リディア様」
「大したことはしていませんわ」
「リディア様はいつもそうですよね。周りから見たらすごいことをしてるのに、そんなことはないって言っています。謙虚というより揺るぎない自信のようなものを感じます」
「私は公爵家令嬢なのよ? これくらいのことは当然ですわ」

 なんて言ってはみたものの、こうして私が堂々としていられるのはリディアと魔王の記憶が作用しているおかげだ。前世の私だったらとてもこうはいかなかったはずだ。

「私、リディア様の隣に相応しい女になれるようにもっと頑張ります」
「期待していますわ」
「私もクリスタに同じくですわ! 先ずはどうすればよろしいでしょうか?」
「素直に質問できるのはいいことですわよ、アイナ。そうですね……先ずは強くおなりなさい」
「「強く、ですか?」」

 クリスタとアイナは声を揃えた。

「とりあえずヒドラを一人で討伐できるくらいにはなってみせなさい」
「ひ、ヒドラを一人でですか……?」
「無茶を仰らないでください、リディアお姉様……」
「やる前から諦めるなんて感心しませんわね。私の隣に立つつもりなら私を超えるくらいの気概を見せてほしいですわ」
「こ、超えるだなんて恐れ多いです!」
「ヒドラ越えより酷い無茶振りですわ……」
「返事がよく聞こえませんでしたわ」
「が、頑張ります!」
「最善を尽くしますわ!」
「よろしい、期待しているわよ、二人とも」

 私はくすりと笑った。クリスタは女神の祝福を受けた聖女で、アイナは太古の魔女に見初められた才能の持ち主だ。やる気とやり方次第では真なる魔王である私に比肩することができるはずだ。

 強くなり過ぎても困るんだけどね……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放されたヒロインですが、今はカフェ店長してます〜元婚約者が毎日通ってくるのやめてください〜

タマ マコト
ファンタジー
王国一の聖女リリアは、婚約者である勇者レオンから突然「裏切り者」と断罪され、婚約も職も失う。理由は曖昧、けれど涙は出ない。 静かに城を去ったリリアは、旅の果てに港町へ辿り着き、心機一転カフェを開くことを決意。 古びた店を修理しながら、元盗賊のスイーツ職人エマ、謎多き魔族の青年バルドと出会い、少しずつ新しい居場所を作っていく。 「もう誰かの聖女じゃなくていい。今度は、私が笑える毎日を作るんだ」 ──追放された聖女の“第二の人生”が、カフェの湯気とともに静かに始まる。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...