36 / 97
第八章〜惨劇の都〜⑤
しおりを挟む
その声と同時に光は強まり、マモンとクロスの影を圧倒する。
そして、バレンシアの声に反応してベルがすぐさま手を掲げた。
「ウンディーネ……!お願い!!」
部屋中の空気に含まれる水分が集まり、クロスの身体に絡みつくように襲いかかる。
その水は高圧で螺旋を描きながら、彼の身体を縛るように巻きついていったのだ。
ウリエルの力により、マモンの視界も一瞬怯む。
「ぐうっ……!」
「今だ!ロキ!!」
「了解」
ロキが指を宙に舞わすと同時に、空間が大きくぐにゃりと歪んだ。
重力が、マモンの身体を見えない鎖で押しつぶすように拘束していく。
「なっ……!が、ふっ……!」
強まったロキの重力をまともにくらったマモンは、動きが目に見えて鈍った。
その隙をエルクは見逃さない。
「喰らえ―――ッ!!」
エルクは大剣レーヴァティンを肩に構え、一直線に駆け抜ける。
そして、大きく振りかぶった刃が風を裂き、マモンの腹を深々と貫いた。
黒い羽根が舞い散り、マモンの身体はずるりと崩れ落ちていく。
「……っふ、はは……まさかこんなにも簡単に……」
マモンの口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
だがその目には光がない。
一方でクロスもまた、ベルによるウンディーネの力で四肢を縛り上げられていた。
水のせいで全身が濡れ、呼吸が荒くなっている。
「知ってるか?水と雷は、意外と相性がいいんだぜ?」
ライナスは、そう言うと雷を纏ったミョルニルを高く掲げた。
すると、大気が唸りをあげ、稲光がその頭上に収束し始める。
「喰らえぇッ!!」
ミョルニルが振り下ろされた瞬間、落雷のような轟音が響き、クロスの身体を直撃した。
電撃が水と共鳴して爆ぜ、紫電が部屋中を白く染める。
「……っ……ぐ、あああ……」
クロスの声はかすれ、そして水しぶきを跳ねて彼の身体は床に崩れ落ちた。
嵐が去ったあとのような静けさが、部屋に満ちていく。
そんななか、誰もが息をひそめ、次の瞬間を待つかのように沈黙した。
「終わった……のか…?」
エルクがぽつりと呟いた。
大剣を握る手にはまだ熱が残り、傷ついた身体からは蒸気のように汗が立ちのぼっている。
「クロスの身柄をどうするか考えないと―――」
フィールが呟いたその瞬間―――
「……ッあああああッ!!!」
突如、背後から悲鳴が響いたのだ。
全員が反射的に振り向いた先には、バレンシアの姿がある。
だが、その姿は目を疑うような惨状だった。
彼女の服には血が滲み、腹からグールの腕が突き出ていたのだ。
その腕は肉を裂き、骨を砕いて内側から彼女の身体を貫通している。
「バレンシアさん!!」
ベルが叫びながら駆け寄るが、グールはなおも腕を突き刺したまま、じりじりと引き裂くように身体を捻っていた。
耳障りな肉の裂ける音とともに血が噴き出し、バレンシアの口からはごぼっと赤黒い液体が溢れ出る。
「ぐっ……あ……」
その声は、まるで遠くで誰かが囁くような細さだった。
瞳は焦点を失い、膝が崩れてグールの腕にぶら下がるように身体が折れる。
「やめろおおおおおっ!!」
ライナスがミョルニルを振りぬき、雷光とともにグールの頭部を吹き飛ばす。
エルクはその瞬発力で素早く駆け寄ると、バレンシアの倒れゆく身体を両腕で支えた。
血に濡れた彼女の服が重みを増し、温かいはずのその体温は、すでに冷たさを帯びている。
「バレンシアさん!……しっかり……!」
その言葉に応えるように、彼女の唇がわずかに震える。
赤黒い血に濡れたままのその口が、かすかに動く。
「……あ、あなたたちと話せて……よかったわ……」
バレンシアの瞳がゆるやかに揺れ、空を見上げるように遠くを見つめる。
そして、胸元のロザリオがかすかに光を放ったのだ。
―――まるで、彼女の命とリンクしていたかのように……
「お願い……まだ話してほしいことが……!」
ベルが涙をこらえながらバレンシアの手を握る。
だが、その指はすでに力を失っていた。
バレンシアはほんの少しだけ微笑み、最後の息を吐きながらそのまま動かなくなってしまったのだ。
「……ッ」
エルクは歯を食いしばり、顔を伏せた。
「―――こんな形で終わらせるために、力を授かったわけじゃないのに……」
フィールがそう呟き、静かに膝をつくとバレンシアの目元をそっと閉じた。
まだ戦いの余韻が残る部屋には、焦げた空気や血の臭いが充満している。
だが、そのすべてがバレンシアの死の前では色を失ってしまっているようだった。
ただ静かに、ただ重く、時間だけが過ぎていく。
「絶対に……無駄にしない。あなたの命も、願いも―――すべて俺たちが……継ぐ」
エルクはゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、涙の代わりに宿った意志の光がある。
刹那―――
ゴロォォンーーーッ……!!
窓の外、東の空にひときわ鋭い閃光が走り、すぐさま天地を揺るがすような雷鳴が轟いた。
雷の音は大地に響き渡り、家全体がわずかに震える。
「……雷?」
ベルが小さく呟き、顔を上げた。
皆が一斉に窓に目をやると、そこには黒雲が重く垂れ込め、雷光が何かの予兆のように明滅を繰り返している。
「バレンシアさんの最期に……何かが応えたのかもしれないな」
ヴァンがぼそりと呟くものの、エルクの瞳は違う色を灯していた。
「いや、違う。あれは―――これから始まる何かの……『警鐘』だ」
彼の手は、再びレーヴァティンの柄を握っている。
バレンシアの死は終わりでなく―――序章にすぎない。
そして、バレンシアの声に反応してベルがすぐさま手を掲げた。
「ウンディーネ……!お願い!!」
部屋中の空気に含まれる水分が集まり、クロスの身体に絡みつくように襲いかかる。
その水は高圧で螺旋を描きながら、彼の身体を縛るように巻きついていったのだ。
ウリエルの力により、マモンの視界も一瞬怯む。
「ぐうっ……!」
「今だ!ロキ!!」
「了解」
ロキが指を宙に舞わすと同時に、空間が大きくぐにゃりと歪んだ。
重力が、マモンの身体を見えない鎖で押しつぶすように拘束していく。
「なっ……!が、ふっ……!」
強まったロキの重力をまともにくらったマモンは、動きが目に見えて鈍った。
その隙をエルクは見逃さない。
「喰らえ―――ッ!!」
エルクは大剣レーヴァティンを肩に構え、一直線に駆け抜ける。
そして、大きく振りかぶった刃が風を裂き、マモンの腹を深々と貫いた。
黒い羽根が舞い散り、マモンの身体はずるりと崩れ落ちていく。
「……っふ、はは……まさかこんなにも簡単に……」
マモンの口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
だがその目には光がない。
一方でクロスもまた、ベルによるウンディーネの力で四肢を縛り上げられていた。
水のせいで全身が濡れ、呼吸が荒くなっている。
「知ってるか?水と雷は、意外と相性がいいんだぜ?」
ライナスは、そう言うと雷を纏ったミョルニルを高く掲げた。
すると、大気が唸りをあげ、稲光がその頭上に収束し始める。
「喰らえぇッ!!」
ミョルニルが振り下ろされた瞬間、落雷のような轟音が響き、クロスの身体を直撃した。
電撃が水と共鳴して爆ぜ、紫電が部屋中を白く染める。
「……っ……ぐ、あああ……」
クロスの声はかすれ、そして水しぶきを跳ねて彼の身体は床に崩れ落ちた。
嵐が去ったあとのような静けさが、部屋に満ちていく。
そんななか、誰もが息をひそめ、次の瞬間を待つかのように沈黙した。
「終わった……のか…?」
エルクがぽつりと呟いた。
大剣を握る手にはまだ熱が残り、傷ついた身体からは蒸気のように汗が立ちのぼっている。
「クロスの身柄をどうするか考えないと―――」
フィールが呟いたその瞬間―――
「……ッあああああッ!!!」
突如、背後から悲鳴が響いたのだ。
全員が反射的に振り向いた先には、バレンシアの姿がある。
だが、その姿は目を疑うような惨状だった。
彼女の服には血が滲み、腹からグールの腕が突き出ていたのだ。
その腕は肉を裂き、骨を砕いて内側から彼女の身体を貫通している。
「バレンシアさん!!」
ベルが叫びながら駆け寄るが、グールはなおも腕を突き刺したまま、じりじりと引き裂くように身体を捻っていた。
耳障りな肉の裂ける音とともに血が噴き出し、バレンシアの口からはごぼっと赤黒い液体が溢れ出る。
「ぐっ……あ……」
その声は、まるで遠くで誰かが囁くような細さだった。
瞳は焦点を失い、膝が崩れてグールの腕にぶら下がるように身体が折れる。
「やめろおおおおおっ!!」
ライナスがミョルニルを振りぬき、雷光とともにグールの頭部を吹き飛ばす。
エルクはその瞬発力で素早く駆け寄ると、バレンシアの倒れゆく身体を両腕で支えた。
血に濡れた彼女の服が重みを増し、温かいはずのその体温は、すでに冷たさを帯びている。
「バレンシアさん!……しっかり……!」
その言葉に応えるように、彼女の唇がわずかに震える。
赤黒い血に濡れたままのその口が、かすかに動く。
「……あ、あなたたちと話せて……よかったわ……」
バレンシアの瞳がゆるやかに揺れ、空を見上げるように遠くを見つめる。
そして、胸元のロザリオがかすかに光を放ったのだ。
―――まるで、彼女の命とリンクしていたかのように……
「お願い……まだ話してほしいことが……!」
ベルが涙をこらえながらバレンシアの手を握る。
だが、その指はすでに力を失っていた。
バレンシアはほんの少しだけ微笑み、最後の息を吐きながらそのまま動かなくなってしまったのだ。
「……ッ」
エルクは歯を食いしばり、顔を伏せた。
「―――こんな形で終わらせるために、力を授かったわけじゃないのに……」
フィールがそう呟き、静かに膝をつくとバレンシアの目元をそっと閉じた。
まだ戦いの余韻が残る部屋には、焦げた空気や血の臭いが充満している。
だが、そのすべてがバレンシアの死の前では色を失ってしまっているようだった。
ただ静かに、ただ重く、時間だけが過ぎていく。
「絶対に……無駄にしない。あなたの命も、願いも―――すべて俺たちが……継ぐ」
エルクはゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、涙の代わりに宿った意志の光がある。
刹那―――
ゴロォォンーーーッ……!!
窓の外、東の空にひときわ鋭い閃光が走り、すぐさま天地を揺るがすような雷鳴が轟いた。
雷の音は大地に響き渡り、家全体がわずかに震える。
「……雷?」
ベルが小さく呟き、顔を上げた。
皆が一斉に窓に目をやると、そこには黒雲が重く垂れ込め、雷光が何かの予兆のように明滅を繰り返している。
「バレンシアさんの最期に……何かが応えたのかもしれないな」
ヴァンがぼそりと呟くものの、エルクの瞳は違う色を灯していた。
「いや、違う。あれは―――これから始まる何かの……『警鐘』だ」
彼の手は、再びレーヴァティンの柄を握っている。
バレンシアの死は終わりでなく―――序章にすぎない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる