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11話
雪山からの帰還後、騎士団の医務室でカナデの精密検査が行われていた。
担当するのは、魔導師団の腐敗を嫌って騎士団へ移籍してきた、冷静沈着な女医のミナだ。
「……信じられないわ。カナデくん、あなた『魔力ゼロ』なんてレベルじゃない。体の中が完全に『空』なのよ。それも、底なしのブラックホールみたいに」
ミナの言葉に、付き添い(という名の監視)をしていたヴォルフガングの眉が跳ねる。
「どういう意味だ。カナデの体に異常があるというのか」
「異常どころか、奇跡よ。普通、人間には許容できる魔力量の限界があるけれど、カナデくんにはそれがない。周囲にある魔力を、無限に吸い込んで蓄積できる『聖なる器』……いわば、聖獣や高位魔導師の魔力を浄化して受け止める、世界で唯一の存在なのよ」
ミナの説明によれば、カナデが聖獣に好かれるのは、彼らが「溢れすぎる自分の魔力をカナデに預けることで、精神的に安定するから」だという。
「……なるほど。では、私の魔力も、カナデならすべて受け止められるということか」
ヴォルフガングの瞳に、危険な光が宿った。
彼は強大すぎる魔力の持ち主ゆえに、常に周囲を破壊しないよう、感情と魔力を極限まで抑え込んで生きてきた。そのストレスが、彼の冷酷な性格と、極端な「もふもふへの癒やし欲求」を生んでいたのだ。
「ええ、そうね。団長閣下の暴走寸前の魔力だって、カナデくんなら……あら、団長? 顔が怖いですよ」
「カナデ、こちらへ来い」
ヴォルフガングはミナを無視し、ベッドに座っていたカナデをひょいと横抱きにした。
「わわっ!? 団長、まだ検査の途中ですってば!」
「十分だ。……これ以上、他人に貴様の体の秘密を知られるわけにはいかん」
ヴォルフガングはそのまま、カナデを自分の執務室へ、いや、「聖域(監禁室)」へと連れ帰った。
バタン! とドアを閉め、鍵を三重にかける。
「……団長? あの、目がマジなんですけど。僕、何か悪いことしました?」
「……逆だ。貴様が、私にとってどれほど致命的な存在か、ようやく理解した」
ヴォルフガングは、カナデをソファに押し倒し、その両手首を片手で軽々と押さえつけた。
至近距離で見つめる琥珀色の瞳は、今まで以上の執着と、どこか安堵したような熱を孕んでいる。
「私は今まで、自分の力が貴様を壊してしまうのではないかと、常にどこかで理性を働かせていた。……だが、その必要はなくなったな」
「え、それって……どういう……っ、あ!」
ヴォルフガングの体が重なり、彼から溢れ出す濃密な魔力が、カナデの肌を通じて体内に流れ込んできた。
普通ならショック死してもおかしくない奔流。
しかし、カナデの体はその熱を、まるで乾いた砂が水を吸うように、心地よく飲み込んでいく。
「あ……く、るしい……けど、なんか、あったかい……」
「そうだ……。私のすべてを、貴様の中に注ぎ込んでやる。貴様の空っぽな器を、私の魔力だけで満たし、他の一切を受け入れられぬようにしてやろう」
ヴォルフガングは、カナデの鎖骨のあたりに深く顔を埋め、陶酔したように吐息を漏らした。
魔力を通じて、二人の精神が深く繋がっていく感覚。
「ライカ(聖獣)ですら、私のお下がりの魔力を吸わせるに留めてやる。……貴様は今日から、私のためだけの『器』だ」
「団長……それ、魔力の供給じゃなくて、独占欲の塊ですよね……?」
「同じことだ。貴様を私の魔力で染め上げれば、他の男が貴様に触れることすら叶わなくなる」
カナデは意識が朦朧とする中で思った。
この男、自分の魔力がカナデに受け入れられると知って、ついに理性のリミッターを外してしまったのだ。
『……カナデよ。可哀想に、その男はもう止まらんぞ』
窓の外でライカが憐れみの視線を送っているが、魔力の繋がりでヴォルフガングに「同期」してしまっているカナデには、抗う術はなかった。
その頃。
王都の地下では、魔導師団のヴィクトールが、失脚の危機に震えながら邪悪な計画を練っていた。
「……カナデが『無限の器』だと……? ククク……ならば、奴を魔道具として改造し、この国の魔力を根こそぎ奪ってやればいいのだ……」
迫りくる魔の手。
しかし、カナデを狙う敵は、まず「魔力供給」という名目で四六時中カナデに覆いかぶさっている、最強の騎士団長という壁を突破しなければならないのだった。
「団長……もう魔力、お腹いっぱいです……」
「いいや、まだまだ足りん。……夜はこれからだぞ、カナデ」
カナデの「無能」返上物語は、なぜか「溺愛のキャパオーバー」物語へと変貌していくのだった。
担当するのは、魔導師団の腐敗を嫌って騎士団へ移籍してきた、冷静沈着な女医のミナだ。
「……信じられないわ。カナデくん、あなた『魔力ゼロ』なんてレベルじゃない。体の中が完全に『空』なのよ。それも、底なしのブラックホールみたいに」
ミナの言葉に、付き添い(という名の監視)をしていたヴォルフガングの眉が跳ねる。
「どういう意味だ。カナデの体に異常があるというのか」
「異常どころか、奇跡よ。普通、人間には許容できる魔力量の限界があるけれど、カナデくんにはそれがない。周囲にある魔力を、無限に吸い込んで蓄積できる『聖なる器』……いわば、聖獣や高位魔導師の魔力を浄化して受け止める、世界で唯一の存在なのよ」
ミナの説明によれば、カナデが聖獣に好かれるのは、彼らが「溢れすぎる自分の魔力をカナデに預けることで、精神的に安定するから」だという。
「……なるほど。では、私の魔力も、カナデならすべて受け止められるということか」
ヴォルフガングの瞳に、危険な光が宿った。
彼は強大すぎる魔力の持ち主ゆえに、常に周囲を破壊しないよう、感情と魔力を極限まで抑え込んで生きてきた。そのストレスが、彼の冷酷な性格と、極端な「もふもふへの癒やし欲求」を生んでいたのだ。
「ええ、そうね。団長閣下の暴走寸前の魔力だって、カナデくんなら……あら、団長? 顔が怖いですよ」
「カナデ、こちらへ来い」
ヴォルフガングはミナを無視し、ベッドに座っていたカナデをひょいと横抱きにした。
「わわっ!? 団長、まだ検査の途中ですってば!」
「十分だ。……これ以上、他人に貴様の体の秘密を知られるわけにはいかん」
ヴォルフガングはそのまま、カナデを自分の執務室へ、いや、「聖域(監禁室)」へと連れ帰った。
バタン! とドアを閉め、鍵を三重にかける。
「……団長? あの、目がマジなんですけど。僕、何か悪いことしました?」
「……逆だ。貴様が、私にとってどれほど致命的な存在か、ようやく理解した」
ヴォルフガングは、カナデをソファに押し倒し、その両手首を片手で軽々と押さえつけた。
至近距離で見つめる琥珀色の瞳は、今まで以上の執着と、どこか安堵したような熱を孕んでいる。
「私は今まで、自分の力が貴様を壊してしまうのではないかと、常にどこかで理性を働かせていた。……だが、その必要はなくなったな」
「え、それって……どういう……っ、あ!」
ヴォルフガングの体が重なり、彼から溢れ出す濃密な魔力が、カナデの肌を通じて体内に流れ込んできた。
普通ならショック死してもおかしくない奔流。
しかし、カナデの体はその熱を、まるで乾いた砂が水を吸うように、心地よく飲み込んでいく。
「あ……く、るしい……けど、なんか、あったかい……」
「そうだ……。私のすべてを、貴様の中に注ぎ込んでやる。貴様の空っぽな器を、私の魔力だけで満たし、他の一切を受け入れられぬようにしてやろう」
ヴォルフガングは、カナデの鎖骨のあたりに深く顔を埋め、陶酔したように吐息を漏らした。
魔力を通じて、二人の精神が深く繋がっていく感覚。
「ライカ(聖獣)ですら、私のお下がりの魔力を吸わせるに留めてやる。……貴様は今日から、私のためだけの『器』だ」
「団長……それ、魔力の供給じゃなくて、独占欲の塊ですよね……?」
「同じことだ。貴様を私の魔力で染め上げれば、他の男が貴様に触れることすら叶わなくなる」
カナデは意識が朦朧とする中で思った。
この男、自分の魔力がカナデに受け入れられると知って、ついに理性のリミッターを外してしまったのだ。
『……カナデよ。可哀想に、その男はもう止まらんぞ』
窓の外でライカが憐れみの視線を送っているが、魔力の繋がりでヴォルフガングに「同期」してしまっているカナデには、抗う術はなかった。
その頃。
王都の地下では、魔導師団のヴィクトールが、失脚の危機に震えながら邪悪な計画を練っていた。
「……カナデが『無限の器』だと……? ククク……ならば、奴を魔道具として改造し、この国の魔力を根こそぎ奪ってやればいいのだ……」
迫りくる魔の手。
しかし、カナデを狙う敵は、まず「魔力供給」という名目で四六時中カナデに覆いかぶさっている、最強の騎士団長という壁を突破しなければならないのだった。
「団長……もう魔力、お腹いっぱいです……」
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