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砂漠の夜は、昼の酷熱が嘘のように静謐で、どこか冷ややかだ。
遥希は案内された宮殿の最奥にある書庫で、息を呑んでいた。
壁一面を埋め尽くす羊皮紙の巻物と、見たこともない言語で綴られた古書。考古学者にとって、ここはまさに天国だった。
「……見惚れているな。俺を見る時よりも、熱心な目だ」
背後から響いた低い声に、遥希は肩を跳ねさせた。
いつの間にか、ザイドがすぐ後ろに立っていた。
昼間の威圧的な装いとは異なり、ゆったりとした薄手の寝衣を纏っている。はだけた胸元から覗く褐色の肌が、月光を反射して艶めかしく光った。
「あ、……すみません。素晴らしい資料ばかりで、つい」
「構わん。それがお前の本分だろう。……座れ。約束の『話し相手』をしてもらう」
ザイドは大きなソファに深く身を沈め、隣を叩いた。
遥希は躊躇いながらも、拳一つ分以上の距離を空けて腰を下ろす。
「何を、お話しすればいいでしょうか。歴史のこと、それとも外の世界のこと……?」
「お前のことを話せ。なぜ、命を懸けてまでこんな不毛な砂漠へ来た。何がお前を突き動かす」
金色の瞳が、じっと遥希を射抜く。
遥希は少し視線を落とし、膝の上で指を組んだ。
「……僕は、忘れられた声を聴きたいんです。かつてここに生きた人たちが何を愛し、何を信じていたのか。それを証明できれば、僕の存在もまた、誰かに認められる気がして」
静かに語る遥希の横顔は、昼間の怯えた表情とは異なり、凛とした知性に満ちていた。
ザイドはその唇の動きを、飢えた猛獣のような眼差しで見つめている。
「……認められる、か。他者の評価など無意味だ。俺がお前を価値あるものだと決めた。それで十分ではないのか」
「それは、あなたの主観であって……っ」
言い返そうとした遥希のうなじを、ザイドの大きな手が強引に引き寄せた。
「ひっ……!」
「黙っていろ。お前の声は、静かな夜には少し刺激が強すぎる」
ザイドの顔が至近距離まで迫る。眼鏡がわずかに触れ、カチリと小さな音を立てた。
触れ合わんばかりの距離で、ザイドの熱い呼気が遥希の唇をかすめる。
「お前が古い歴史を愛でるように、俺もお前を読み解いてやりたくなった。……一頁ずつ、な」
「、あ……」
遥希の視界が、ザイドの金色の瞳で埋め尽くされる。
逃げようとする本能よりも、その瞳の奥にある深い孤独と熱情に当てられ、遥希の身体から力が抜けていく。
ザイドの指先が、遥希の耳たぶから首筋へと、滑るように下りていった。
月光に照らされた書庫の中で、二人の影が重なり、密やかな夜が幕を開ける。
遥希は案内された宮殿の最奥にある書庫で、息を呑んでいた。
壁一面を埋め尽くす羊皮紙の巻物と、見たこともない言語で綴られた古書。考古学者にとって、ここはまさに天国だった。
「……見惚れているな。俺を見る時よりも、熱心な目だ」
背後から響いた低い声に、遥希は肩を跳ねさせた。
いつの間にか、ザイドがすぐ後ろに立っていた。
昼間の威圧的な装いとは異なり、ゆったりとした薄手の寝衣を纏っている。はだけた胸元から覗く褐色の肌が、月光を反射して艶めかしく光った。
「あ、……すみません。素晴らしい資料ばかりで、つい」
「構わん。それがお前の本分だろう。……座れ。約束の『話し相手』をしてもらう」
ザイドは大きなソファに深く身を沈め、隣を叩いた。
遥希は躊躇いながらも、拳一つ分以上の距離を空けて腰を下ろす。
「何を、お話しすればいいでしょうか。歴史のこと、それとも外の世界のこと……?」
「お前のことを話せ。なぜ、命を懸けてまでこんな不毛な砂漠へ来た。何がお前を突き動かす」
金色の瞳が、じっと遥希を射抜く。
遥希は少し視線を落とし、膝の上で指を組んだ。
「……僕は、忘れられた声を聴きたいんです。かつてここに生きた人たちが何を愛し、何を信じていたのか。それを証明できれば、僕の存在もまた、誰かに認められる気がして」
静かに語る遥希の横顔は、昼間の怯えた表情とは異なり、凛とした知性に満ちていた。
ザイドはその唇の動きを、飢えた猛獣のような眼差しで見つめている。
「……認められる、か。他者の評価など無意味だ。俺がお前を価値あるものだと決めた。それで十分ではないのか」
「それは、あなたの主観であって……っ」
言い返そうとした遥希のうなじを、ザイドの大きな手が強引に引き寄せた。
「ひっ……!」
「黙っていろ。お前の声は、静かな夜には少し刺激が強すぎる」
ザイドの顔が至近距離まで迫る。眼鏡がわずかに触れ、カチリと小さな音を立てた。
触れ合わんばかりの距離で、ザイドの熱い呼気が遥希の唇をかすめる。
「お前が古い歴史を愛でるように、俺もお前を読み解いてやりたくなった。……一頁ずつ、な」
「、あ……」
遥希の視界が、ザイドの金色の瞳で埋め尽くされる。
逃げようとする本能よりも、その瞳の奥にある深い孤独と熱情に当てられ、遥希の身体から力が抜けていく。
ザイドの指先が、遥希の耳たぶから首筋へと、滑るように下りていった。
月光に照らされた書庫の中で、二人の影が重なり、密やかな夜が幕を開ける。
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