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6話
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ザイドの熱い口づけは、遥希の唇にいつまでも残る残像となって、その夜の夢にまで現れた。
翌朝、目覚めた遥希は、自身の頬が熱いことに気づく。寝汗をかいたのかと触れてみれば、肌がわずかに火照っていた。
(……馬鹿みたいだ。たかがキス一つで、こんなに動揺するなんて)
それでも、昨夜のザイドの眼差しや、彼の腕の温もりを思い出すと、体の奥からじわりと熱が広がるのを止められなかった。
この宮殿に囚われて、もう三日。
考古学者としての冷静な判断力と、一人の人間としての本能が、激しく綱引きをしているようだった。
しかし、遺跡調査の許可が下りた今、遥希にとって行動しない選択肢はなかった。
支度を済ませて中庭に出ると、すでに調査隊の車が用意されていた。隣には、昨日から遥希の世話をしてくれている使用人のイシュマが立っている。
「瀬戸様、ザイド様より『万事滞りなく、学者の望むままに』とのお達しです。何かございましたら、私にお申し付けください」
「ありがとうございます、イシュマさん。……ザイド様は?」
ふと、ザイドの姿が見えないことに気づき、遥希は尋ねた。
「ザイド様は、朝早くからご公務でございます。ですが、夕刻には必ず宮殿にお戻りになられます」
その言葉に、遥希はわずかな安堵を覚えた。同時に、少しだけ寂しいような、複雑な感情が胸をよぎる。
(きっと、僕も彼に慣れてきているんだ。……気をつけないと)
遺跡までは車で一時間ほど。
遥希は車窓から流れる砂漠の風景を眺めながら、研究計画を頭の中で整理していた。
現場に到着すると、遥希はすぐに調査に取りかかった。
広大な遺跡は、風と砂に埋もれかけているが、その片鱗だけでも遥希の心を揺さぶるに十分だった。
「これは……! ここから、何か出土するかもしれない……」
夢中になって石を掘り返し、土を払い、スケッチブックに記録していく。
時間の感覚を忘れて作業に没頭していると、あっという間に日没が近づいた。
夕日に照らされ、黄金色に輝く遺跡は、遥希の目には宝石のように映った。
(もう少し、もう少しだけ……)
その時だった。
背後から、見慣れた気配が近づいてくる。
「ずいぶんと熱心だな、遥希。俺を待たせるとは、いい度胸だ」
ザイドの声は、夕暮れの砂漠に凛と響いた。
振り返ると、そこに立っていたのは、民族衣装を纏ったザイドだった。彼の金色の瞳は、夕日の光を受けて、一層妖しく輝いている。
「ザイド、様……どうしてここに?」
「お前が心配でな。俺の伴侶が、砂漠の夜に一人きりでは可哀想だろう?」
ザイドは遥希のそばまで歩み寄ると、その手から小さなスコップを奪い取り、砂の上に放り投げた。
「まだ、作業を……」
「もう十分だ。お前の熱は、今日一日でこの砂漠中に撒き散らされた。これ以上は、俺が我慢できなくなる」
ザイドは遥希の腕を掴むと、そのまま自分の方へと引き寄せた。
遥希の身体は、砂埃で汚れているにもかかわらず、ザイドは躊躇なく抱きしめた。
「俺の隣こそが、お前の居場所だ。遥希」
その言葉と、ザイドの肌から伝わる圧倒的な体温に、遥希の心臓は激しく波打った。
反発しようとする理性とは裏腹に、その腕の中が、なぜか甘く心地よいと感じてしまう自分がいた。
夕暮れの空の下、遺跡の残骸を背景に、二人の影は一つに重なり合った。
翌朝、目覚めた遥希は、自身の頬が熱いことに気づく。寝汗をかいたのかと触れてみれば、肌がわずかに火照っていた。
(……馬鹿みたいだ。たかがキス一つで、こんなに動揺するなんて)
それでも、昨夜のザイドの眼差しや、彼の腕の温もりを思い出すと、体の奥からじわりと熱が広がるのを止められなかった。
この宮殿に囚われて、もう三日。
考古学者としての冷静な判断力と、一人の人間としての本能が、激しく綱引きをしているようだった。
しかし、遺跡調査の許可が下りた今、遥希にとって行動しない選択肢はなかった。
支度を済ませて中庭に出ると、すでに調査隊の車が用意されていた。隣には、昨日から遥希の世話をしてくれている使用人のイシュマが立っている。
「瀬戸様、ザイド様より『万事滞りなく、学者の望むままに』とのお達しです。何かございましたら、私にお申し付けください」
「ありがとうございます、イシュマさん。……ザイド様は?」
ふと、ザイドの姿が見えないことに気づき、遥希は尋ねた。
「ザイド様は、朝早くからご公務でございます。ですが、夕刻には必ず宮殿にお戻りになられます」
その言葉に、遥希はわずかな安堵を覚えた。同時に、少しだけ寂しいような、複雑な感情が胸をよぎる。
(きっと、僕も彼に慣れてきているんだ。……気をつけないと)
遺跡までは車で一時間ほど。
遥希は車窓から流れる砂漠の風景を眺めながら、研究計画を頭の中で整理していた。
現場に到着すると、遥希はすぐに調査に取りかかった。
広大な遺跡は、風と砂に埋もれかけているが、その片鱗だけでも遥希の心を揺さぶるに十分だった。
「これは……! ここから、何か出土するかもしれない……」
夢中になって石を掘り返し、土を払い、スケッチブックに記録していく。
時間の感覚を忘れて作業に没頭していると、あっという間に日没が近づいた。
夕日に照らされ、黄金色に輝く遺跡は、遥希の目には宝石のように映った。
(もう少し、もう少しだけ……)
その時だった。
背後から、見慣れた気配が近づいてくる。
「ずいぶんと熱心だな、遥希。俺を待たせるとは、いい度胸だ」
ザイドの声は、夕暮れの砂漠に凛と響いた。
振り返ると、そこに立っていたのは、民族衣装を纏ったザイドだった。彼の金色の瞳は、夕日の光を受けて、一層妖しく輝いている。
「ザイド、様……どうしてここに?」
「お前が心配でな。俺の伴侶が、砂漠の夜に一人きりでは可哀想だろう?」
ザイドは遥希のそばまで歩み寄ると、その手から小さなスコップを奪い取り、砂の上に放り投げた。
「まだ、作業を……」
「もう十分だ。お前の熱は、今日一日でこの砂漠中に撒き散らされた。これ以上は、俺が我慢できなくなる」
ザイドは遥希の腕を掴むと、そのまま自分の方へと引き寄せた。
遥希の身体は、砂埃で汚れているにもかかわらず、ザイドは躊躇なく抱きしめた。
「俺の隣こそが、お前の居場所だ。遥希」
その言葉と、ザイドの肌から伝わる圧倒的な体温に、遥希の心臓は激しく波打った。
反発しようとする理性とは裏腹に、その腕の中が、なぜか甘く心地よいと感じてしまう自分がいた。
夕暮れの空の下、遺跡の残骸を背景に、二人の影は一つに重なり合った。
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