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9話
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地平線の彼方から、不気味なほど鮮やかな赤褐色の壁が迫っていた。
「――砂嵐(ハブーブ)だ! 全員、車へ戻れ!」
ザイドの鋭い声が、遺跡の静寂を切り裂く。
遥希は慌てて記録帳を抱えたが、突如吹き荒れた突風に足元を掬われた。
「あ……っ!」
視界は一瞬で砂の粒子に覆われ、上下左右の感覚すら消失する。喉を焼くような乾燥した風に呼吸を奪われかけたその時、背後から強靭な腕が遥希の腰を横抱きにした。
「俺から離れるなと言ったはずだ! 舌を噛まぬよう、口を閉じろ!」
ザイドの怒鳴り声に近い叫び。彼は遥希を自分の胸板に埋め込むように抱くと、砂の壁を切り裂くようにして走り出した。
どのくらい時間が経っただろうか。
吹き荒れる風の音が、不意に遠のいた。
「……もう大丈夫だ。目を開けろ」
耳元で囁かれた声に導かれ、遥希は恐る恐る顔を上げた。
そこは、遺跡の深部へと続く、入り口の狭い天然の洞窟だった。外では未だに猛烈な砂嵐が荒れ狂い、脱出は到底不可能に思える。
「はぁ、はぁっ……。……ザイド、様……」
「……無事か。どこか怪我はしていないな」
ザイドは遥希を下ろすと、その肩や頭に積もった砂を乱暴に、けれどどこか焦ったような手つきではたき落とした。
その時、遥希は気づいた。自分を守るために盾となったザイドの背中が、砂に叩かれ、一部の衣が裂けていることに。
「……あ、背中が。僕を庇ったから……」
思わず伸ばした指先が、ザイドの剥き出しになった肩に触れる。
その瞬間、ザイドの身体が大きく跳ねた。
「っ、……触るな。今の俺は、自分でも制御が効かん」
ザイドの声は、これまで聞いたことがないほど低く、掠れていた。
彼は遥希の手首を掴むと、そのまま背後の岩壁へと押し付けた。
「ひっ……!」
狭い洞窟の中、外の砂嵐の轟音が二人を包囲する。
ザイドの金色の瞳が、暗がりの中で燐光を放つ猛獣のように光っていた。
「砂嵐の夜、男たちの血は騒ぐ……。古くからそう言われている。……お前のその、不安げに揺れる瞳を見ていると、今すぐここで、お前を俺のものだと刻みつけたくなる」
「ザイド、様……だめ、です……」
「何がだめだ。お前を助け、お前の命を繋いでいるのは俺だ。お前のすべてを、俺がどう使おうと自由だろう」
ザイドの自由な方の手が、遥希の薄いシャツの隙間から滑り込んだ。
冷えた肌に触れる、彼のあまりに熱い掌。
遥希の身体は、恐怖と、それ以上の抗えない期待に震え始めていた。
「――砂嵐(ハブーブ)だ! 全員、車へ戻れ!」
ザイドの鋭い声が、遺跡の静寂を切り裂く。
遥希は慌てて記録帳を抱えたが、突如吹き荒れた突風に足元を掬われた。
「あ……っ!」
視界は一瞬で砂の粒子に覆われ、上下左右の感覚すら消失する。喉を焼くような乾燥した風に呼吸を奪われかけたその時、背後から強靭な腕が遥希の腰を横抱きにした。
「俺から離れるなと言ったはずだ! 舌を噛まぬよう、口を閉じろ!」
ザイドの怒鳴り声に近い叫び。彼は遥希を自分の胸板に埋め込むように抱くと、砂の壁を切り裂くようにして走り出した。
どのくらい時間が経っただろうか。
吹き荒れる風の音が、不意に遠のいた。
「……もう大丈夫だ。目を開けろ」
耳元で囁かれた声に導かれ、遥希は恐る恐る顔を上げた。
そこは、遺跡の深部へと続く、入り口の狭い天然の洞窟だった。外では未だに猛烈な砂嵐が荒れ狂い、脱出は到底不可能に思える。
「はぁ、はぁっ……。……ザイド、様……」
「……無事か。どこか怪我はしていないな」
ザイドは遥希を下ろすと、その肩や頭に積もった砂を乱暴に、けれどどこか焦ったような手つきではたき落とした。
その時、遥希は気づいた。自分を守るために盾となったザイドの背中が、砂に叩かれ、一部の衣が裂けていることに。
「……あ、背中が。僕を庇ったから……」
思わず伸ばした指先が、ザイドの剥き出しになった肩に触れる。
その瞬間、ザイドの身体が大きく跳ねた。
「っ、……触るな。今の俺は、自分でも制御が効かん」
ザイドの声は、これまで聞いたことがないほど低く、掠れていた。
彼は遥希の手首を掴むと、そのまま背後の岩壁へと押し付けた。
「ひっ……!」
狭い洞窟の中、外の砂嵐の轟音が二人を包囲する。
ザイドの金色の瞳が、暗がりの中で燐光を放つ猛獣のように光っていた。
「砂嵐の夜、男たちの血は騒ぐ……。古くからそう言われている。……お前のその、不安げに揺れる瞳を見ていると、今すぐここで、お前を俺のものだと刻みつけたくなる」
「ザイド、様……だめ、です……」
「何がだめだ。お前を助け、お前の命を繋いでいるのは俺だ。お前のすべてを、俺がどう使おうと自由だろう」
ザイドの自由な方の手が、遥希の薄いシャツの隙間から滑り込んだ。
冷えた肌に触れる、彼のあまりに熱い掌。
遥希の身体は、恐怖と、それ以上の抗えない期待に震え始めていた。
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