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13話
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宮殿に戻った遥希を待っていたのは、数日ぶりに通じた衛星電話のベルだった。
ザイドに与えられた豪華な客室。そのテーブルの上で震える端末を手に取ると、ディスプレイには「佐伯教授」の名が表示されている。
(教授……。僕をこの調査に推薦してくれた人だ)
かつて、調査の成果を横取りされ、学界で孤立しかけた自分を拾ってくれた恩師。
遥希は震える指で通話ボタンを押した。
「……はい、瀬戸です」
『ああ、遥希くん! 無事だったか。砂嵐があったと聞いて心配していたよ』
教授の穏やかな声。だが、その裏にある僅かな焦燥を、遥希の耳は見逃さなかった。
『実はね、君が今滞在している地域の所有者……ザイドという男について、学界で不穏な噂が流れているんだ。彼は遺跡の遺物を闇市場に流しているという疑いがある』
「え……? そんな、まさか」
遥希は思わず声を失った。
昨夜、自分を必死に守り、「伝承の伴侶」だと呼んでくれたあの男が、歴史を汚すような真似をするだろうか。
『彼は危険だ、遥希くん。近いうちに、私が直接現地へ向かう。大学の公式な調査チームも同行させるから、君はそれまで彼を刺激しないように立ち回るんだ。いいね?』
「教授、待ってください。彼はそんな人じゃ……」
『君は純粋すぎるんだ。とにかく、私の指示を待ちなさい』
電話が切れた後、受話器を持つ手が小刻みに震えた。
「……何の話だ。誰とお喋りしていた」
背後から響いた冷徹な声に、心臓が跳ね上がる。
入り口には、いつの間にかザイドが立っていた。その瞳は、いつもの情熱的な金光ではなく、鋭い氷のような冷たさを湛えている。
「ザイド、様……。これは、日本の教授から……」
ザイドは無言で歩み寄ると、遥希の手から乱暴に端末を取り上げた。
「俺のいない間に、外の世界と何を企んでいる。……お前も、俺の領土を狙う鼠どもの仲間か?」
「違います! 僕はただ、あなたのことを……っ」
「黙れ」
ザイドは遥希の細い手首を掴み、壁へと押し付けた。
昨夜の甘美な抱擁とは違う、威圧的な力。
「お前を信じようとした俺が愚かだったか。……お前が俺のオアシスを汚すつもりなら、今この場で、その自由をすべて奪ってやってもいいんだぞ」
「う、っ……痛い……」
掴まれた手首に力がこもり、遥希は苦悶に表情を歪める。
信じたい心と、教授から植え付けられた疑念。
そして、目の前で豹変した愛する男の恐怖。
砂漠の宮殿に、一気に不穏な暗雲が立ち込め始めていた。
ザイドに与えられた豪華な客室。そのテーブルの上で震える端末を手に取ると、ディスプレイには「佐伯教授」の名が表示されている。
(教授……。僕をこの調査に推薦してくれた人だ)
かつて、調査の成果を横取りされ、学界で孤立しかけた自分を拾ってくれた恩師。
遥希は震える指で通話ボタンを押した。
「……はい、瀬戸です」
『ああ、遥希くん! 無事だったか。砂嵐があったと聞いて心配していたよ』
教授の穏やかな声。だが、その裏にある僅かな焦燥を、遥希の耳は見逃さなかった。
『実はね、君が今滞在している地域の所有者……ザイドという男について、学界で不穏な噂が流れているんだ。彼は遺跡の遺物を闇市場に流しているという疑いがある』
「え……? そんな、まさか」
遥希は思わず声を失った。
昨夜、自分を必死に守り、「伝承の伴侶」だと呼んでくれたあの男が、歴史を汚すような真似をするだろうか。
『彼は危険だ、遥希くん。近いうちに、私が直接現地へ向かう。大学の公式な調査チームも同行させるから、君はそれまで彼を刺激しないように立ち回るんだ。いいね?』
「教授、待ってください。彼はそんな人じゃ……」
『君は純粋すぎるんだ。とにかく、私の指示を待ちなさい』
電話が切れた後、受話器を持つ手が小刻みに震えた。
「……何の話だ。誰とお喋りしていた」
背後から響いた冷徹な声に、心臓が跳ね上がる。
入り口には、いつの間にかザイドが立っていた。その瞳は、いつもの情熱的な金光ではなく、鋭い氷のような冷たさを湛えている。
「ザイド、様……。これは、日本の教授から……」
ザイドは無言で歩み寄ると、遥希の手から乱暴に端末を取り上げた。
「俺のいない間に、外の世界と何を企んでいる。……お前も、俺の領土を狙う鼠どもの仲間か?」
「違います! 僕はただ、あなたのことを……っ」
「黙れ」
ザイドは遥希の細い手首を掴み、壁へと押し付けた。
昨夜の甘美な抱擁とは違う、威圧的な力。
「お前を信じようとした俺が愚かだったか。……お前が俺のオアシスを汚すつもりなら、今この場で、その自由をすべて奪ってやってもいいんだぞ」
「う、っ……痛い……」
掴まれた手首に力がこもり、遥希は苦悶に表情を歪める。
信じたい心と、教授から植え付けられた疑念。
そして、目の前で豹変した愛する男の恐怖。
砂漠の宮殿に、一気に不穏な暗雲が立ち込め始めていた。
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