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29話
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ゲートが閉じてから数時間。
地下での出来事は、クロの超人的な情報ネットワークにより、秒速で城内に拡散されていた。
「――聞いたか!? カナデ様が、元の世界よりも魔王様(と、俺たちの福利厚生)を選んでくださったそうだぞ!」
「さすが妃殿下! 骨の髄まで魔王城の所有物だワン!」
そんな勝手な噂が飛び交う中、城の広場では、レンの号令により急遽「カナデ様残留記念・大祝賀会」が開催されていた。
「……レン。お前、勝手にイベントを組むなと言っただろ。これだけの規模の宴会、予備費をどれだけ削ると思っているんだ」
俺――カナデは、広場の中央に据えられた「主賓席」に座らされ、眼鏡を真っ直ぐに直しながら隣の男を睨んだ。
「いいじゃん、お祝いだろ! お前が『帰らない』って言ってくれた時、俺、マジで心臓が止まるかと思ったんだぜ? これは、俺の心臓の再始動記念でもあるんだよ!」
レンは既に上機嫌で、巨大なジョッキを片手に笑っている。
周囲では魔物たちが踊り、リリスが「もう、こうなったら一生添い遂げなさいな!」とヤケ酒を煽り、佐藤さんが「宴会時間の延長は労基法が……」と呟きながらも、楽しそうに串焼きを食べている。
賑やかで、混沌としていて、それでいて温かい。
前世の、あの静まり返った夜のオフィスでは、決して味わえなかった熱気。
「……。……。……ふん。せいぜい楽しめ。明日からは、この宴会費を取り戻すために死ぬ気で働かせてやるからな」
「おう! どこまでも付いていくぜ、部長!」
レンが俺の肩に腕を回し、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。
焚き火の光が、レンの黄金の瞳をキラキラと反射させる。
「なぁ、カナデ。……俺さ、みんなの前でちゃんと言っておきたいことがあるんだ」
レンがいきなり立ち上がり、ジョッキを置いて姿勢を正した。
広場が、一瞬で静まり返る。
「みんな、聞け! ――俺は、魔王だ。この城で一番強いのは俺だ!」
威厳に満ちた声。
だが、次に続いた言葉は、最高に彼らしいものだった。
「でも、俺を動かしているのは、ここにいるカナデだ! こいつがいなきゃ、俺はただの馬鹿な筋肉だ! だから、今日からカナデは、ただの経理部長じゃねえ! 俺の……俺の全権を預ける、『生涯の相棒』だ!」
――。
「相棒」という言葉。
それは、愛人でも妃でもなく、レンが俺に贈れる、最も対等で、最も重い敬称だった。
『――ワァァァァッ!!』
城中に、地響きのような歓声が上がる。
クロが『実質の魔王就任おめでとうございます!』と叫び、ガルムが三つの首で遠吠えを上げた。
「……。……。……バカ。……何が、全権だ。そんなもの、とっくに俺が管理している」
俺は赤くなった顔を隠すように、手元の葡萄ジュースを飲み干した。
レンが座り込み、俺の顔を覗き込んでくる。
「怒ったか? カナデ」
「……怒ってはいない。……ただ、これでお前の失態がすべて俺の責任になると思うと、胃が痛いだけだ」
「あはは! 大丈夫だよ、俺がお前の胃薬になるからさ!」
「意味不明なことを言うな。……マイナス一億ゴールド」
「おっ、久々の大台だな! ――愛してるぜ、カナデ!」
衆人環視の中、レンが俺の頬に、ちゅっと音を立ててキスをした。
「……っ!? ……っ、この、……変態魔王!!」
俺の算盤が、レンの頭にクリーンヒットする。
じっくり、ゆっくり。
俺たちは、この騒がしい魔界で、これからもずっと、数字を数え、喧嘩をしながら生きていく。
帳簿の最終ページにはまだ、書ききれないほどの「幸せ」という名の予算が残っているのだ。
地下での出来事は、クロの超人的な情報ネットワークにより、秒速で城内に拡散されていた。
「――聞いたか!? カナデ様が、元の世界よりも魔王様(と、俺たちの福利厚生)を選んでくださったそうだぞ!」
「さすが妃殿下! 骨の髄まで魔王城の所有物だワン!」
そんな勝手な噂が飛び交う中、城の広場では、レンの号令により急遽「カナデ様残留記念・大祝賀会」が開催されていた。
「……レン。お前、勝手にイベントを組むなと言っただろ。これだけの規模の宴会、予備費をどれだけ削ると思っているんだ」
俺――カナデは、広場の中央に据えられた「主賓席」に座らされ、眼鏡を真っ直ぐに直しながら隣の男を睨んだ。
「いいじゃん、お祝いだろ! お前が『帰らない』って言ってくれた時、俺、マジで心臓が止まるかと思ったんだぜ? これは、俺の心臓の再始動記念でもあるんだよ!」
レンは既に上機嫌で、巨大なジョッキを片手に笑っている。
周囲では魔物たちが踊り、リリスが「もう、こうなったら一生添い遂げなさいな!」とヤケ酒を煽り、佐藤さんが「宴会時間の延長は労基法が……」と呟きながらも、楽しそうに串焼きを食べている。
賑やかで、混沌としていて、それでいて温かい。
前世の、あの静まり返った夜のオフィスでは、決して味わえなかった熱気。
「……。……。……ふん。せいぜい楽しめ。明日からは、この宴会費を取り戻すために死ぬ気で働かせてやるからな」
「おう! どこまでも付いていくぜ、部長!」
レンが俺の肩に腕を回し、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。
焚き火の光が、レンの黄金の瞳をキラキラと反射させる。
「なぁ、カナデ。……俺さ、みんなの前でちゃんと言っておきたいことがあるんだ」
レンがいきなり立ち上がり、ジョッキを置いて姿勢を正した。
広場が、一瞬で静まり返る。
「みんな、聞け! ――俺は、魔王だ。この城で一番強いのは俺だ!」
威厳に満ちた声。
だが、次に続いた言葉は、最高に彼らしいものだった。
「でも、俺を動かしているのは、ここにいるカナデだ! こいつがいなきゃ、俺はただの馬鹿な筋肉だ! だから、今日からカナデは、ただの経理部長じゃねえ! 俺の……俺の全権を預ける、『生涯の相棒』だ!」
――。
「相棒」という言葉。
それは、愛人でも妃でもなく、レンが俺に贈れる、最も対等で、最も重い敬称だった。
『――ワァァァァッ!!』
城中に、地響きのような歓声が上がる。
クロが『実質の魔王就任おめでとうございます!』と叫び、ガルムが三つの首で遠吠えを上げた。
「……。……。……バカ。……何が、全権だ。そんなもの、とっくに俺が管理している」
俺は赤くなった顔を隠すように、手元の葡萄ジュースを飲み干した。
レンが座り込み、俺の顔を覗き込んでくる。
「怒ったか? カナデ」
「……怒ってはいない。……ただ、これでお前の失態がすべて俺の責任になると思うと、胃が痛いだけだ」
「あはは! 大丈夫だよ、俺がお前の胃薬になるからさ!」
「意味不明なことを言うな。……マイナス一億ゴールド」
「おっ、久々の大台だな! ――愛してるぜ、カナデ!」
衆人環視の中、レンが俺の頬に、ちゅっと音を立ててキスをした。
「……っ!? ……っ、この、……変態魔王!!」
俺の算盤が、レンの頭にクリーンヒットする。
じっくり、ゆっくり。
俺たちは、この騒がしい魔界で、これからもずっと、数字を数え、喧嘩をしながら生きていく。
帳簿の最終ページにはまだ、書ききれないほどの「幸せ」という名の予算が残っているのだ。
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