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5話
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ルベリス帝国の城での生活は、トアの想像を絶するほどに「過保護」だった。
庭園で拾った小さな氷龍のキリは、すっかりトアの肩が気に入ったようで、移動する時も食事の時も、常にトアの側に寄り添っている。
「……あの、陛下。今日は、その、食堂で皆さんと食べてもいいんですか?」
トアは、目の前に広がる大きな円卓を見上げて尋ねた。
今夜はグレンディルの配慮で、私室ではなく、少し広めのプライベート・ダイニングでの夕食となっていた。
「ああ。イザークもサフィエルも、お前がちゃんと食べているか心配で仕事が手につかんと言うからな。……全く、余計な世話だ」
グレンディルは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、その実、トアが他の者たちと交流して笑顔が増えることを、彼自身も喜んでいるようだった。
席に着くと、タイミングを見計らったかのように、次々と料理が運ばれてくる。
今夜のメインは、ルベリス特産の白身魚のソテー、クリームソース添えだ。
「さあ、トア殿。まずはこのスープを飲んでみてくれ。君の体調に合わせて、栄養価の高い薬草を少しだけ混ぜておいたよ」
サフィエルが、甲斐甲斐しくトアのカップに黄金色のスープを注ぐ。
トアが一口飲むと、野菜の甘みが口いっぱいに広がり、体の芯からポカポカと温まった。
「おいしいです……。なんだか、力が湧いてくるみたい」
「それは良かった。君の体はまだ魔力の受容体として不安定だからね。食事から整えていかないと」
サフィエルが優しく微笑むと、隣に座っていたイザークが、無言でトアの皿にふっくらと焼けたパンを置いた。
「トア殿。パンも食べなさい。……お前は、少し細すぎる。私の二の腕よりも細いではないか」
「あ、ありがとうございます、イザーク様。でも、これ全部食べられるかな……」
山のように盛られた料理を前に、トアが少し困ったような顔をすると、すかさずグレンディルが身を乗り出した。
「無理に詰め込む必要はない。だが、この魚は私が直々に味を確かめたものだ。……トア、口を開けろ」
グレンディルは自分のフォークで魚の身を小さく切り分けると、それをトアの唇へと運んだ。
いわゆる「あーん」の体勢である。
「えっ……!? へ、陛下!? 自分で食べられます!」
「いいから。お前の手は、さっきから震えているだろう。慣れない環境で疲れているのだ。……ほら」
有無を言わせぬ皇帝の言葉に、トアは顔を真っ赤にしながらも、小さく口を開けた。
パクり、と身を食むと、濃厚なバターの香りと魚の旨みが溶け合う。
「……っ、おいひいです……」
「そうか。ならば次はこれだ」
「陛下。あまり独占が過ぎると、トア殿が困惑されます。……トア殿、こちらのサラダも瑞々しくてお勧めですよ」
「イザーク、貴様も便乗するなと言ったはずだぞ」
皇帝と騎士団長が、トアの両側から「次は何を食べる?」と競い合うように皿を差し出す。
その光景は、側から見れば非常に微笑ましく、そして異様なほどに贅沢な「愛され」の風景だった。
トアの肩に乗っていたキリも、「キュイ!」と短く鳴きながら、トアが食べさせてもらうのを満足げに眺めている。
「……ふふっ」
「ん? どうした、トア」
不意にトアが小さく笑うと、グレンディルが不思議そうに首を傾げた。
「いえ……。今まで、ご飯の時間がこんなに楽しいなんて、知らなかったなと思って。……皆さん、本当にありがとうございます」
トアの純粋な感謝の言葉に、食卓が一瞬、静まり返った。
グレンディルは愛おしそうに目を細め、イザークは照れ隠しに顔を背け、サフィエルは優しく目を細める。
「……お前が喜ぶなら、毎晩でも宴を開こう」
「それはトア殿が疲れてしまうから、ほどほどにしてくださいね、陛下」
賑やかで、どこまでも温かい夜。
トアの心に深く刻まれていた「自分は不要な存在だ」という呪いは、美味しい料理と彼らの過保護な優しさによって、少しずつ、けれど確実に溶かされていくのだった。
庭園で拾った小さな氷龍のキリは、すっかりトアの肩が気に入ったようで、移動する時も食事の時も、常にトアの側に寄り添っている。
「……あの、陛下。今日は、その、食堂で皆さんと食べてもいいんですか?」
トアは、目の前に広がる大きな円卓を見上げて尋ねた。
今夜はグレンディルの配慮で、私室ではなく、少し広めのプライベート・ダイニングでの夕食となっていた。
「ああ。イザークもサフィエルも、お前がちゃんと食べているか心配で仕事が手につかんと言うからな。……全く、余計な世話だ」
グレンディルは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、その実、トアが他の者たちと交流して笑顔が増えることを、彼自身も喜んでいるようだった。
席に着くと、タイミングを見計らったかのように、次々と料理が運ばれてくる。
今夜のメインは、ルベリス特産の白身魚のソテー、クリームソース添えだ。
「さあ、トア殿。まずはこのスープを飲んでみてくれ。君の体調に合わせて、栄養価の高い薬草を少しだけ混ぜておいたよ」
サフィエルが、甲斐甲斐しくトアのカップに黄金色のスープを注ぐ。
トアが一口飲むと、野菜の甘みが口いっぱいに広がり、体の芯からポカポカと温まった。
「おいしいです……。なんだか、力が湧いてくるみたい」
「それは良かった。君の体はまだ魔力の受容体として不安定だからね。食事から整えていかないと」
サフィエルが優しく微笑むと、隣に座っていたイザークが、無言でトアの皿にふっくらと焼けたパンを置いた。
「トア殿。パンも食べなさい。……お前は、少し細すぎる。私の二の腕よりも細いではないか」
「あ、ありがとうございます、イザーク様。でも、これ全部食べられるかな……」
山のように盛られた料理を前に、トアが少し困ったような顔をすると、すかさずグレンディルが身を乗り出した。
「無理に詰め込む必要はない。だが、この魚は私が直々に味を確かめたものだ。……トア、口を開けろ」
グレンディルは自分のフォークで魚の身を小さく切り分けると、それをトアの唇へと運んだ。
いわゆる「あーん」の体勢である。
「えっ……!? へ、陛下!? 自分で食べられます!」
「いいから。お前の手は、さっきから震えているだろう。慣れない環境で疲れているのだ。……ほら」
有無を言わせぬ皇帝の言葉に、トアは顔を真っ赤にしながらも、小さく口を開けた。
パクり、と身を食むと、濃厚なバターの香りと魚の旨みが溶け合う。
「……っ、おいひいです……」
「そうか。ならば次はこれだ」
「陛下。あまり独占が過ぎると、トア殿が困惑されます。……トア殿、こちらのサラダも瑞々しくてお勧めですよ」
「イザーク、貴様も便乗するなと言ったはずだぞ」
皇帝と騎士団長が、トアの両側から「次は何を食べる?」と競い合うように皿を差し出す。
その光景は、側から見れば非常に微笑ましく、そして異様なほどに贅沢な「愛され」の風景だった。
トアの肩に乗っていたキリも、「キュイ!」と短く鳴きながら、トアが食べさせてもらうのを満足げに眺めている。
「……ふふっ」
「ん? どうした、トア」
不意にトアが小さく笑うと、グレンディルが不思議そうに首を傾げた。
「いえ……。今まで、ご飯の時間がこんなに楽しいなんて、知らなかったなと思って。……皆さん、本当にありがとうございます」
トアの純粋な感謝の言葉に、食卓が一瞬、静まり返った。
グレンディルは愛おしそうに目を細め、イザークは照れ隠しに顔を背け、サフィエルは優しく目を細める。
「……お前が喜ぶなら、毎晩でも宴を開こう」
「それはトア殿が疲れてしまうから、ほどほどにしてくださいね、陛下」
賑やかで、どこまでも温かい夜。
トアの心に深く刻まれていた「自分は不要な存在だ」という呪いは、美味しい料理と彼らの過保護な優しさによって、少しずつ、けれど確実に溶かされていくのだった。
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