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7話
サフィエルの研究室で「自分の力が役に立つ」と知ったあの日から、トアの表情には少しずつ柔らかい微笑みが混じるようになっていた。
そんなトアを、皇帝グレンディルはことのほか満足そうに眺めていた。
「トア。今日は天気がいい。イザークが訓練場で騎士たちをしごいているはずだ。少し、見学に行ってみるか?」
「はい! イザーク様が頑張っているところ、見てみたいです」
トアの二つ返事に、グレンディルの口元がわずかに緩む。
トアの肩には、すっかり定位置となった氷龍のキリが、日差しを浴びて気持ちよさそうに目を細めていた。
訓練場に到着すると、そこには銀色に輝く鎧を纏った騎士たちが、厳しい掛け声とともに剣を振るう、熱気に満ちた光景が広がっていた。
その中心で、一際鋭い動きで部下たちを圧倒しているのが、筆頭騎士イザークだった。
「腰が浮いている! 敵は待ってはくれないぞ!」
氷のように冷たく、厳しい声。
トアは初めて見る「戦う人」の気迫に、思わず「わぁ……」と声を漏らした。
その小さな声に、人並み外れた聴覚を持つイザークが反応する。
「……っ!?」
ピタリ、と。
それまで嵐のような剣技を見せていたイザークの動きが止まった。
彼は即座に剣を鞘に収めると、部下たちを放り出してトアの方へと大股で歩み寄ってきた。
「トア殿……! それに、陛下も。……このような砂埃の舞う場所へ、何故」
「お前の勇姿を見たいというトアの願いだ。邪魔だったか?」
グレンディルが少し意地悪く笑うと、イザークは珍しく狼狽えたように視線を泳がせた。
「……邪魔など、とんでもない。ただ、お見せするほどのものでは……」
「そんなことないです! イザーク様、とっても格好いいです。キラキラしてて、凄いです!」
トアが純粋な尊敬の眼差しでそう伝えると、イザークの頬が瞬く間に赤く染まった。
周囲で聞き耳を立てていた騎士たちも、トアのあまりの可愛らしさと純粋な称賛に、一斉に胸を撃たれたような顔をしている。
「……トア殿。その、もしよろしければ、近くで見ていかれるか? 埃が立たないよう、風魔石で空気を清めさせよう」
「いいんですか? ありがとうございます、イザーク様!」
トアはイザークが用意してくれた特等席に座り、熱心に訓練を見つめた。
騎士たちが一人、また一人と模擬戦を終えて戻ってくると、トアは自ら水差しを手に取り、彼らに近寄っていく。
「お疲れ様です。……お水、どうぞ。あ、あの、それから……」
トアが騎士の一人の腕にそっと触れ、「頑張ってくださいね」と微笑んだ瞬間。
トアから溢れた淡い光が、騎士の疲労を一瞬で拭い去ってしまった。
「なっ……!? 体が、軽い……!」
「俺も! 筋肉の張りが消えたぞ!?」
トアの無自覚な「癒やし」に触れた騎士たちが、驚愕の後に歓喜の声を上げる。
トアは「えっ、えっ?」と戸惑うが、騎士たちはもはや、トアを「守るべき小さな妖精」か「幸運の女神」のように崇めるような目で見つめていた。
「こら、貴様ら。トア殿に群がるな!」
イザークが慌てて割って入り、トアを背中に隠すようにして騎士たちを追い払う。
その独占欲全開の様子を、グレンディルが腕を組んで面白そうに眺めていた。
「……トア。どうやらお前をこの城の『公式癒やし係』にする必要がありそうだな。ただし、触れるのは一日に三人までだ。それ以上は私が許さん」
「陛下、それは少なすぎます! 騎士団全員の士気に関わります!」
皇帝と騎士団長が、真剣な顔で「トアを誰がどれだけ独占できるか」を議論し始める。
トアはキリと一緒に首を傾げながらも、自分を必要としてくれる場所がある喜びを、噛み締めるように微笑んでいた。
ルベリス帝国の訓練場は、これまでになく穏やかで、幸福な魔力に満たされていくのだった。
そんなトアを、皇帝グレンディルはことのほか満足そうに眺めていた。
「トア。今日は天気がいい。イザークが訓練場で騎士たちをしごいているはずだ。少し、見学に行ってみるか?」
「はい! イザーク様が頑張っているところ、見てみたいです」
トアの二つ返事に、グレンディルの口元がわずかに緩む。
トアの肩には、すっかり定位置となった氷龍のキリが、日差しを浴びて気持ちよさそうに目を細めていた。
訓練場に到着すると、そこには銀色に輝く鎧を纏った騎士たちが、厳しい掛け声とともに剣を振るう、熱気に満ちた光景が広がっていた。
その中心で、一際鋭い動きで部下たちを圧倒しているのが、筆頭騎士イザークだった。
「腰が浮いている! 敵は待ってはくれないぞ!」
氷のように冷たく、厳しい声。
トアは初めて見る「戦う人」の気迫に、思わず「わぁ……」と声を漏らした。
その小さな声に、人並み外れた聴覚を持つイザークが反応する。
「……っ!?」
ピタリ、と。
それまで嵐のような剣技を見せていたイザークの動きが止まった。
彼は即座に剣を鞘に収めると、部下たちを放り出してトアの方へと大股で歩み寄ってきた。
「トア殿……! それに、陛下も。……このような砂埃の舞う場所へ、何故」
「お前の勇姿を見たいというトアの願いだ。邪魔だったか?」
グレンディルが少し意地悪く笑うと、イザークは珍しく狼狽えたように視線を泳がせた。
「……邪魔など、とんでもない。ただ、お見せするほどのものでは……」
「そんなことないです! イザーク様、とっても格好いいです。キラキラしてて、凄いです!」
トアが純粋な尊敬の眼差しでそう伝えると、イザークの頬が瞬く間に赤く染まった。
周囲で聞き耳を立てていた騎士たちも、トアのあまりの可愛らしさと純粋な称賛に、一斉に胸を撃たれたような顔をしている。
「……トア殿。その、もしよろしければ、近くで見ていかれるか? 埃が立たないよう、風魔石で空気を清めさせよう」
「いいんですか? ありがとうございます、イザーク様!」
トアはイザークが用意してくれた特等席に座り、熱心に訓練を見つめた。
騎士たちが一人、また一人と模擬戦を終えて戻ってくると、トアは自ら水差しを手に取り、彼らに近寄っていく。
「お疲れ様です。……お水、どうぞ。あ、あの、それから……」
トアが騎士の一人の腕にそっと触れ、「頑張ってくださいね」と微笑んだ瞬間。
トアから溢れた淡い光が、騎士の疲労を一瞬で拭い去ってしまった。
「なっ……!? 体が、軽い……!」
「俺も! 筋肉の張りが消えたぞ!?」
トアの無自覚な「癒やし」に触れた騎士たちが、驚愕の後に歓喜の声を上げる。
トアは「えっ、えっ?」と戸惑うが、騎士たちはもはや、トアを「守るべき小さな妖精」か「幸運の女神」のように崇めるような目で見つめていた。
「こら、貴様ら。トア殿に群がるな!」
イザークが慌てて割って入り、トアを背中に隠すようにして騎士たちを追い払う。
その独占欲全開の様子を、グレンディルが腕を組んで面白そうに眺めていた。
「……トア。どうやらお前をこの城の『公式癒やし係』にする必要がありそうだな。ただし、触れるのは一日に三人までだ。それ以上は私が許さん」
「陛下、それは少なすぎます! 騎士団全員の士気に関わります!」
皇帝と騎士団長が、真剣な顔で「トアを誰がどれだけ独占できるか」を議論し始める。
トアはキリと一緒に首を傾げながらも、自分を必要としてくれる場所がある喜びを、噛み締めるように微笑んでいた。
ルベリス帝国の訓練場は、これまでになく穏やかで、幸福な魔力に満たされていくのだった。
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