役立たずと捨てられた魔力供給者は隣国の覇王に拾われて離してもらえません ~最強の騎士たちにも囲まれていつの間にか世界を救っていた件~

たら昆布

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12話

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 ルベリス帝国の生活にも慣れてきたトアだったが、一つだけ不便に感じていることがあった。
 それは、この国の文字がまだ完全には読めないことだ。
 
 セフィリア王国の文字とは似ているが、ルベリスの文字はより装飾的で、魔力を含んだ独特の書体をしている。
 そのことをサフィエルに相談すると、彼はこれ以上ないほど嬉しそうに目を細めた。

「文字を学びたいのかい? 素晴らしいよ、トア。知識は君の世界を広げる一番の翼になるからね。ぜひ、僕に教えさせておくれ」

 というわけで、週に数回、午後の一時がトアの『お勉強の時間』になった。
 場所はいつもの研究室。けれど、今日は特別にサフィエルが、トアのために小さな自分専用の机を用意してくれていた。

「さあ、まずは自分の名前から書いてみようか。ルベリスの文字で『トア』は、こう書くんだ」

 サフィエルがトアの手の上に自分の手を重ね、ゆっくりと羽根ペンを動かす。
 重なる手の温もりと、サフィエルが動くたびに漂う、古い書物と微かな薬草の香り。
 トアは少しだけ緊張しながら、真っ白な紙の上に自分の名前が綴られていくのを見つめた。

「……ト、ア。……わぁ、なんだか羽が生えてるみたいで、かっこいい文字ですね」
「ふふ、ルベリスの文字は精霊の動きを模していると言われているからね。……うん、とても上手に書けているよ。トアは筋がいい」

 サフィエルに頭を撫でられ、トアは照れくさそうに、けれど嬉しそうに目を細めた。
 肩に乗ったキリも、インクの瓶を倒さないように注意深く見守りながら、トアの書いた文字を「キュイ」と褒めるように鳴いた。

 そこへ、公務を一段落させたグレンディルが、様子を見にやってきた。

「どうだ、順調か? ……トア、あまり根を詰めて目を悪くするなよ。疲れたらすぐに休め」
「あ、陛下! 見てください、自分の名前、書けたんです!」

 トアが誇らしげに紙を見せると、グレンディルはそれを愛おしげに眺め、おもむろに懐から一本の万年筆を取り出した。
 それは、深い蒼色の軸に金の装飾が施された、皇帝愛用の品だった。

「よく頑張った。これは合格の祝いだ。お前にやる」
「ええっ!? そんな、陛下が大切にしているものなのに……」
「いいんだ。お前の初めての学びを、私の分身に支えさせたいのだ。……これで、私への手紙を書いてくれるのを楽しみにしているぞ」

 グレンディルの言葉に、トアの胸がトクンと跳ねた。
 手紙。自分の想いを、文字にして伝える。
 そんなことができたら、どんなに素敵だろう。

「……はい! 頑張って、いつか陛下に一番に手紙を書きます!」

 その隣で、サフィエルが少しだけ悔しそうに眼鏡を光らせた。
「おやおや、陛下。先を越されましたね。……トア、それなら僕とは『交換日記』を始めようか。毎日一文だけでいい。君が今日、何を見て、何を思ったか。僕にだけこっそり教えてほしいな」

「交換日記……。楽しそうです!」

 文字を覚えるという小さな一歩が、トアにとって、大切な人たちとの「心の繋がり」を深める特別な手段になっていく。
 トアは新しい万年筆を大切に握りしめ、インクの匂いが漂う研究室で、未来への希望を一文字ずつ綴り始めるのだった。
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